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第六章その2 ~あきらめないわ!~ 不屈の本州脱出編

待っててくれたんだ!

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 やがて一同を乗せた車は、1つの港に辿り着こうとしていた。

 さほど大きくもなく、特徴もない港だったが、それでも誠達にとって唯一の希望なのだ。

 車は高台の斜面に達し、眼下に海を見下ろし始めた。

 誠はモニターで港の映像を拡大した。それは隊員達も、車両班も同じだろう。

 誰もが助けがいるのを信じ、ここまで必死に逃げてきたのだ。

 …………けれどそこに船影は無かった。

「船が……無い……」

 誰かが小さく呟いた。

 眼下の港は、近付くにつれその惨状が見えてきた。

 倉庫はあちこち崩れ落ち、付近の路面やコンクリートも、餓霊の足跡でひび割れている。

 誠達は事情を察した。

(きっと待っててくれたんだ……ぎりぎりまで待機してたけど、敵が押し寄せて海に出たんだ……)

 餓霊には砲撃能力を持つ者がいるため、沖合いにも船の姿は無い。

(これまでか……)

 ……だが誠がそう思った時、ふいに何かが輝いた。

「!!?」

 港の中に、きらきらと光の模様が揺らめいている。それは例えるなら、波が日の光を反射する様によく似ていた。

 よく漁船の船べりに映る光だったし、父と母が初めて出会ったあの浜で、阿奈波神社あなばじんじゃを照らした光でもあった。

 父は勝手に跳日はねび模様とか呼んでいたが、とにもかくにもあの輝きだ。

 そして光が薄れると、幾隻もの揚陸艦が現れたのだ。

「光学……迷彩……!」

 誠は呆然と呟いた。

 遠間から餓霊に見つからないよう、光の反射を捻じ曲げて隠れていたのだろう……が、誠達の車が見えたため、彼らは姿を現したのだ。

 揚陸艦の船首が両開きとなり、傾斜路扉ランプドアが倒れてくる。

 カーフェリーで言えば、車が乗り込むあの鉄板であるが、そこに無数の人影が見えた。

 真っ先に目に入ったのは、白衣を着た小柄な少女。名はひよりだ。

 手にした文具を落とし、両手をこちらに振った彼女は、ド派手なガンマンのスウェットを着ていた。

 彼女の周囲には、青いツナギ服の整備班が並んでいる。

 髪もヒゲも真っ白になった美濃木みのきは、ねじ回しを振り回して叫び、坊主頭の尚一しょういちは、そんな彼を肩車していた。

 隣にはひよりの妹で、三つ編みのおさげがトレードマークのなぎさもいる。

 いずれも誠達と同じ基地のメンバーであり、危険を顧みず、ここまで迎えに来てくれたのだ。

 車は猛然と突進するが、付近の路面が荒れていたため、敵との距離を広げられない。

「あかん、距離が稼げへん! 乗り込む間に襲われるで!」

 難波が焦りの声を上げるが、そこで砲撃が餓霊を襲った。

「みんなぁーっ、今のうちだよぉーっ!!!」

 誠の機体の画面には、目をまん丸にして叫ぶ人物が映った。

 名はこころ……画面では分からないが、2メートルほどもある長身で、普段はおっとりした少女である。

 操縦席コクピットサイズの関係なのか、彼女の人型重機は他より大きく、そこから放たれる大型砲が、迫る餓霊をよろめかせたのだ。

 こころはどんどん攻撃するが、援護はそれだけではなかった。

 あちこちから加えられた射撃が、餓霊の目をくらませたのだ。

 画面には、次々若者達が映し出されていく。

 こころと同じく、東海地方を守っていた千春と玄太。

 九州からは志布志隊の面々。

 全神連の湖南こなん達もいたし、東北のド根性部隊も、関東の弥太郎達もそろっていた。

 彼らは画面で口々に叫んでいる。

「今のうちだぜっ!」

「早く来るデース!」

「恩は忘れねえ、約束さ守るぞ!」

 声が重なり、映像が入り乱れ、もう誰が何を言っているか分からなかったが、誠はぎゅっと手を握った。

「…………っっっ!!!」

 疲れ切った体に、再び勇気が湧き上がってくる。

 車両は全速力で港に突進、属性添加機で急制動をかけながら、そのまま船に滑り込んだ。

 被災者達のバスも同様である。

 既に起動準備を終えていた揚陸艦は、慣性力全開で港の岸壁を破壊しながら加速し、沖合いへと脱出していく。

 陸地がみるみる遠ざかって、見送る餓霊の悲しげな顔が、やけにはっきりと見て取れたのだ。
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