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第六章その2 ~あきらめないわ!~ 不屈の本州脱出編

鬼ごっこ勝負よ!

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 闇一色の空の下、餓霊どもはうごめいていた。

 下半身は輸送車で、そこから伸びる無数の蜘蛛足。

 上半身は人型で、優美な西洋鎧のような形状フォルムをしている。

 九州で『火車』と呼ばれた高速餓霊によく似たそれは、今はゆったりした動きだった。

 周囲の獲物を狩り尽くした所為せいだろうが、唐突にその静寂は破られた。

「やあ、こんにちは。こんばんわの方がいいかな?」

「……!?」

 ふと餓霊の足元から、妙に能天気な声が聞こえた。

 上半身の顔を向けて確認すると、子犬サイズの狛犬が、前足を上げて挨拶しているのだ。

「遊びに来たよ。調子はどう?」

「??????????」

 餓霊は一瞬混乱した。

 目の前の狛犬は、とても敵になるような力を持っていない。

 霊力もか弱いし、実力から言えば単なる獲物だ。

 その獲物がなぜ、自分から近寄って挨拶までしてくるのだろう……?

 餓霊には理解出来なかったが、それでも逃がすという選択肢はなかった。

 無数の足で地を蹴立てて旋回し、この小さな獲物を狩りとろうとする。

「鬼ごっこだね? よしきた、遊ぼう。他のみんなも一緒にね!」

 狛犬はそう言うと、ぴょんぴょん跳ねて走っていく。

 餓霊はスピードを上げて狛犬に迫る…………が、もう少しで手が届く辺りまで来ると、狛犬はジグザグに方向転換するのだ。

 伸ばした手が空振りし、つんのめりそうになりながら、餓霊はそれでも追跡を続けた。

 気が付くと、あちらからもこちらからも、他の餓霊達が集まってきていた。

 それぞれ狛犬やキツネ、猿や牛、龍といった神使を追いかけ、夢中になって走っている。

 やがて闇の彼方から、眩しい光が迫ってきた。人間どもの乗る輸送車両のライトであり、台数は僅かに1台。

 車はタイヤから火花を上げて疾走し、後ろから巨大な老婆が迫っている。

 いわゆる黄泉醜女ヨモツシコメであり、冥界の番人のような存在なのだ。

 神使達が車の後を追いかけるので、餓霊達こちらも自然に一塊ひとかたまりになっていく。



「鶴、黒鷹、予想通りついてきたよ!」

 誠達の輸送車に、窓からコマが飛び乗ってきた。

 他の神使達も同様だ。

「姫様、バッチリ連れて来たで!」

「モウ大漁です!」

「ありがとうみんな、最高よ」

 鶴は満足げに頷き、窓からニューと顔を出した。

 そのまま後ろを確認し、黄泉醜女ヨモツシコメにカメラを向けた。

「いいわ、凄い迫力ね」

 いや、撮ってる場合かよ、と思う誠だったが、鶴の顔は怒っているように見える。

「……見てなさい、ナギっぺやサクちゃんの分まで、たっぷり引っかきまわしてやるんだから……!」

 やがて前方に、建設中のマンモス居住区が見えてきた。

 車両は猛進し、居住区の中に突入していく。

 建設中の柱が、壁が現れては消えていく様は、まるで映画の模擬建築物セットの裏側を駆け抜けているかのようだ。

「それじゃ音ちゃん、あと頼むわね!」

「了解しました!」

 鶴が言うと、画面で音羽氏が親指を立てる。

 鶴が胸の前で手を合わせると、周囲に光が膨れ上がった。

 追いかけてきた餓霊も、黄泉醜女ヨモツシコメも、あまりの輝きに目をそらす。

 次の瞬間、誠達は瞬間移動していたのだ。
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