新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)

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第六章その2 ~あきらめないわ!~ 不屈の本州脱出編

女神様がくれた勇気

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(何だこれ……あったかい……?)

 寒さで遠退きかけた意識で、誠は探った。

 凍えかけた体の中……恐らく胸の辺りに、微かに宿る温かな何か。

 誠は仰向けになると、震える手を胸に当てる。

 操縦用の防御手袋ガードグラブ、そしてパイロットスーツ越しでも分かる程の温かさだ。それはだんだん熱を増し、温かいを越えてもはや熱い。

 遭難して体が冷え切ると、逆に暑くてたまらなくなるというが、そうした異常とも違うようだ。

(今度は左手? どうなってるんだ?)

 左手にも同様の熱を感じて、誠は防御手袋ガードグラブを外した。

 そこに青い細胞片が輝いていた。

 左手の甲に移植された細胞片それは、操縦者パイロットと人型重機の感覚を一体化させるために用いる逆鱗……つまりは生体通信端末である。

 滑らかなその表面には、神社でよく見る八角形に漢字の三を描いた模様が映っている。正式には『折敷に三文字』、よく三島紋と呼ばれる神紋だ。

「何だこれ……何で今になって」

 誠はそこで気が付いた。

「そうか、神器の太刀と、岩凪姫の魂の欠片……!」

 女神・岩凪姫は、無数の光となって弾けた。その光の1つは、誠の体に吸い込まれていったのだ。

 そしてそれとは別に、誠は女神から力を託されていた。

 この日本奪還の冒険を始める際、授けられた太刀である。

『我が力を集めて研ぎ出した神器、岩凪いわなぎの太刀だ。私と同じでやたら頑丈だし、物質や魔物は切れるが、逆に善なる者は切れない』

 女神のそんな言葉と共に、太刀は誠の逆鱗に吸い込まれたのだ。

 胸に宿る魂と、左手に宿る神器の太刀。2つの霊気が共鳴し、誠の中で熱く激しく燃え上がろうとしている。まるでまだ諦めるなと言うかのように。

 そしてほぼ同時に、思い出がせきを切ったようによみがえった。



 初めて女神が姿を見せた時……確かあの時は、自衛軍の恰好をしていたっけ。

 神様が変装コスプレするなんて、日本初の事じゃないか?

 あれから四国を取り戻し、九州、北陸、東海……そして柱と封印の防衛まで、あらゆる場面で彼女は導いてくれた。

 決して完璧な女神というわけではない。むしろかなり人間ぽくて、色んな姿を見せてくれた。

 鶴や神使を怒る時の顔。

 時折見せる優しい顔。

 犠牲者達を思って見せた悲しげな顔。

 けれどどんな顔をしていても、その根底には人々の幸せを願う愛情があった。

 だから誠達は、あの岩凪姫について行ったのだ。どんなに彼女が怖く見えても、無意識にその言葉に従っていたのだ。

 正直彼女自身、遠い昔に嫁入りに失敗して、かなり辛い思いをしたのだ。

 他の神々と違い、参拝客もほとんどいない。歴史に忘れ去られた、この国の日陰を生きるような女神なのだ。

 それなのに神という立場であり続け、気が遠くなるぐらい長い時間、人々を守ってきてくれた。

 考えてみれば、恐ろしい重圧プレッシャーだっただろう。

 他の神々が不在の中、たまたま日本を守る重責を背負わされてしまったのだ。

 ガラじゃないとか、自分には無理だとか、色々思うところはあったはず。

 それでも出来る事を1つずつやって、人々を励まし続けてくれた。

 強いから神じゃない、生まれつき偉いから神なんじゃない。その勇気と心根こそが、彼女を尊い女神たらしめたのだ。



(そうだ……岩凪姫も佐久夜姫も、神様だって必死だったんだ。何千年も、ずっとこの世のために力を尽くして……だったら俺の10年ぐらい何だっていうんだ……!)

 誠はゆっくりと立ち上がった。

 彼方から、子供の泣き声が聞こえてきた。眠ろうとしても、不安に押し潰されそうになったのだろう。

 誠は遠い昔、大人達に助け出された自分を思い浮かべた。

(思い出せ……あの頃俺は、どうして助かったんだ?)

(この混乱の始まった時、何1つ武器が通じなかったのに、自衛隊や警察たちあのひとたちは諦めなかった。その時その時出来る事をやって、必死に俺達を逃がしてくれた) 

 だからこうして生きているのだ。あの日泥だらけになっても助けてくれた大人がいたから、今の自分は生きているのだ。

(だったらあの子達を逃がそう。何としても次の未来に繋げよう。それが女神の思いを継ぐ事だし、あの日助けてくれた……沢山の英雄ひとへの恩返しだろ?)

 そこで誠の脳裏に、女神達の姿が思い浮かんだ。

『私達の出番は終わった。次はお前達が頼りだよ』

『大丈夫、あなた達ならきっとできるわ』

 彼女達の表情は、そう励ましてくれているかのようだ。

 誠は拳を強く握り締めた。全身に力を入れ、武者震いしながら身を屈める。

 それでも気持ちは全然収まらない。

「う、うううっ、うわあああああああっっっ!!!!!」

 身の内に駆け巡る激しい力に、思わず咆えた。

 闇に包まれた空に負けないように、絶望を跳ね除けるために、全力で雄たけびを上げていたのだ。

 ある意味バカになっていたのかもしれない。危ないとか、敵に聞きつけられるとか、そんな理性は吹っ飛んでいた。

 やがて隊員達が駆けつけて来た。

「ど、どうしたの……!?」

「鳴っち、あんた大丈夫なん……!?」

 カノンが、難波が、宮島が、香川が、心配そうに見つめている。

「大丈夫だ……!」

 誠はそれだけ言うと、大股で歩き始めた。傾斜を登り、隊員達を通り過ぎて。

 バスの元に戻ると、数人の子供と母親達が立っていた。

 泣いた子供が他の人の眠りに迷惑かと気遣ったのだろう。

 誠は大股で歩み寄ると、泥だらけのグラブを外した。

 子供の頭に手を置いて、くしゃくしゃと撫でる。

「もう大丈夫だからな……!」

 ずっと見てきた女神の姿や、あの日見た大人達の強がりを真似して、自信満々に言ったのだ。

「大丈夫、絶対俺達が守るから……!」

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 そこで唐突に、輸送車に衝撃が走った。

 車両を覆い尽くすような激しい霊気が立ち昇ると、車の上に、1人の少女が仁王立ちしていたのだ。

 長い髪をポニーテールにまとめ、空色の着物に鎧姿。

 日の本を取り戻すべく八百万の神々が送り出した、戦国時代のお姫様……つまりは鶴だ。

「黒鷹、私も分かったわ!」

 鶴は開口一番そう言った。

「ヒメ子も馴染んだんだな」

「もちろんよ、私もへこたれてられないわ! ナギっぺとサクちゃんも、私の中にいるんだもの!」

 誠の問いに、鶴は元気いっぱいで答えた。

「最後まで頑張るわ、それが鶴ちゃんだから! 頑張りの鶴、信頼の私よ!」

「よく言うよ、調子いいなあ」

 彼女の肩に乗るコマも、少し嬉しそうにツッコミを入れる。

 輸送班の音羽隊も集まってきて、辺りは最早カオスになった。

 誠と鶴は頷くと、2人同時に周囲に言う。

『それじゃ、作戦会議を!!!』
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