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第六章その1 ~絶対勝てない!?~ 無敵の邪神軍団編
思い出のドライブイン。なぜあんなに車旅行はわくわくしたのか
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無我夢中で逃げ惑うこと数時間。
誠達を乗せた車両は、ひとまず山あいの駐車スペースに……道の駅にたどり着いた。
日本が平和だった頃は、さぞ多くのドライブ客で賑わったのだろう。
いかにも道の駅らしい看板がそびえ、地元の特産品を売る平屋が広がっている。
幼い頃、父の実家がある長野によく来た誠は、こうした道の駅やドライブインが大好きだった。
車は無敵の移動基地であり、いつも冒険に連れて行ってくれた。
運転する父はいつもより頼もしく見えて、海賊船の船長のようだ。
旅行の日になれば、眠気眼をこすりながら車に乗り込み、途中で一度眠った後、車の中で目覚めるのが誠の定番だった。
後部座席から身を乗り出し、まだうす暗い外を眺めながら、『ね、今どのへん?』と父に尋ねるワクワク感は、もう2度と味わう事が出来ないのだろう。
その事を示すように、駐車場は幾多の巨大な足跡でひび割れ、トイレ入り口のタイル壁には、乾いた血の痕がべったりとついている。
割れたガラス戸から土埃が吹き込み、店舗を灰白色に染めていたし、崩れ落ちた天井からは、配線やガラス繊維断熱綿の類が、腸のようにはみ出していた。
車両班は疲れ果てて項垂れ、誠の隊の隊員達も、黙って人型重機の操縦席で待機している。
車外に出て、少し歩けば回復も早いのだろうが、誰も動こうとしなかった。
いつまた餓霊や邪神が襲ってくるかと思うと、とてもそんな気になれないのだろう。
ただ1人、女神の佐久夜姫だけは、背筋を伸ばして立っていた。
うっすらと全身を光で包み、彼女は地に立ち続ける。
恐らくかなり消耗しているのだろう。
闇に包まれた世界と比べ、とてもか弱い光ではあったが、それでも女神は項垂れようとしなかったのだ。
今にも発狂寸前まで追い詰められていた一同にとって、彼女のその姿こそが、最後の支えとなってくれていた。
不意に機体の画面上に、佐久夜姫が映し出された。
「……鶴ちゃん、黒鷹くんもちょっと来られる?」
誠も鶴も顔を上げ、それから急いで機体を降りた。
鶴がたどり着くと、女神は鶴の肩に手を置いた。それと呼応するように、鶴の体がうっすらと光に包まれた。
「……だいぶ良くなってるわね。やっぱり相性がいいんだわ。お姉ちゃんのくれた霊気、もう少しで馴染みそう」
佐久夜姫は優しく微笑む。
「私も少し分けておくわ。柱を止めるために、結構力を使ったから……沢山は無理だけど。不甲斐なくてごめんなさいね?」
「そ、そんな、ずっと助けてもらってるのに……!」
「そうよサクちゃん……!」
誠も鶴も恐縮したが、女神は尚も言葉を続けた。
「私がこうしていられるうちに、言うべき事を言っておくわね」
女神は軽く手を振ると、虚空に映像を映し出した。
映像は日本列島の全景だったが、やがて旧長野県と東海地方が映し出された。
旧長野県のほぼ中央には、赤く巨大な光が点滅しており、そこから黒い紙魚のようなものが、周囲にどんどん広がっている。
「……正直言って、今日本にどのぐらい魔界の気が出ているかは分からないの。それでもここが無事なように、全てを覆われてはいないわ。これでも富士の女神だから、東海の事はある程度分かるのよ?」
女神は少し強がるように微笑む。
「黄泉の軍勢や邪神と同じく、あの強力な餓霊だって、まだどこででも活動出来るわけじゃないの。だから邪気の薄い所を通れば、きっと海まで出られるはずよ」
「海まで出れば……助かるんでしょうか」
誠の問いに、女神は少し無言になった。
「……分からないけど、ここにいるよりは可能性があるわ。まだ避難の船が残っているかも知れないし……」
「……助かる……可能性が……」
考え込む誠だったが、女神はそこで誠の肩に手を置いた。
「勇気を出しなさい、黒鷹くん。あなたはお姉ちゃんが見込んだ勇者なのよ?」
佐久夜姫は真っ直ぐに誠の目を見つめた。
「闇に投げ出されたら、その中で少しでも明るい方を見た方が、早く目が慣れるでしょう? 生きる事も同じ、闇の中の光を見るの」
「…………分かりました、やってみます……!」
誠も、鶴も頷いたが、そこで1人の男性が駆け寄ってきた。
旧自衛隊の迷彩服に身を包んだ彼は、この避難中に合流した木崎少佐である。
「鳴瀬少尉、それにお姫様と……えっと、あなた様も。お話中失礼ですが、至急お知らせしたい事がありまして」
女神をどう呼んでいいか分からず、しどろもどろになりながらも、木崎少佐は敬礼した。
「木崎少佐、どういったご内容でしょうか」
「それが鳴瀬少尉、付近の仲間から連絡が入ったんだ。安全な避難経路が見つかったかも知れない。合流して逃げられるかもしれないんだ」
「凄いや、グッドタイミングだね!」
コマがジャンプして嬉しそうに手足を広げた。
彼はそのまま少佐の肩に着地し、矢継ぎ早に尋ねる。
「それでお兄さん、どこをどうやって逃げたらいいの? 今すぐ行こうよ、早く早く!」
「ちょ、ちょっと待ってくれワンちゃん。ワンちゃん……犬なのか?」
「ボクは狛犬だよ! それより早く!」
コマに急かされ、少佐は一同を通信車両に案内した。
誠達を乗せた車両は、ひとまず山あいの駐車スペースに……道の駅にたどり着いた。
日本が平和だった頃は、さぞ多くのドライブ客で賑わったのだろう。
いかにも道の駅らしい看板がそびえ、地元の特産品を売る平屋が広がっている。
幼い頃、父の実家がある長野によく来た誠は、こうした道の駅やドライブインが大好きだった。
車は無敵の移動基地であり、いつも冒険に連れて行ってくれた。
運転する父はいつもより頼もしく見えて、海賊船の船長のようだ。
旅行の日になれば、眠気眼をこすりながら車に乗り込み、途中で一度眠った後、車の中で目覚めるのが誠の定番だった。
後部座席から身を乗り出し、まだうす暗い外を眺めながら、『ね、今どのへん?』と父に尋ねるワクワク感は、もう2度と味わう事が出来ないのだろう。
その事を示すように、駐車場は幾多の巨大な足跡でひび割れ、トイレ入り口のタイル壁には、乾いた血の痕がべったりとついている。
割れたガラス戸から土埃が吹き込み、店舗を灰白色に染めていたし、崩れ落ちた天井からは、配線やガラス繊維断熱綿の類が、腸のようにはみ出していた。
車両班は疲れ果てて項垂れ、誠の隊の隊員達も、黙って人型重機の操縦席で待機している。
車外に出て、少し歩けば回復も早いのだろうが、誰も動こうとしなかった。
いつまた餓霊や邪神が襲ってくるかと思うと、とてもそんな気になれないのだろう。
ただ1人、女神の佐久夜姫だけは、背筋を伸ばして立っていた。
うっすらと全身を光で包み、彼女は地に立ち続ける。
恐らくかなり消耗しているのだろう。
闇に包まれた世界と比べ、とてもか弱い光ではあったが、それでも女神は項垂れようとしなかったのだ。
今にも発狂寸前まで追い詰められていた一同にとって、彼女のその姿こそが、最後の支えとなってくれていた。
不意に機体の画面上に、佐久夜姫が映し出された。
「……鶴ちゃん、黒鷹くんもちょっと来られる?」
誠も鶴も顔を上げ、それから急いで機体を降りた。
鶴がたどり着くと、女神は鶴の肩に手を置いた。それと呼応するように、鶴の体がうっすらと光に包まれた。
「……だいぶ良くなってるわね。やっぱり相性がいいんだわ。お姉ちゃんのくれた霊気、もう少しで馴染みそう」
佐久夜姫は優しく微笑む。
「私も少し分けておくわ。柱を止めるために、結構力を使ったから……沢山は無理だけど。不甲斐なくてごめんなさいね?」
「そ、そんな、ずっと助けてもらってるのに……!」
「そうよサクちゃん……!」
誠も鶴も恐縮したが、女神は尚も言葉を続けた。
「私がこうしていられるうちに、言うべき事を言っておくわね」
女神は軽く手を振ると、虚空に映像を映し出した。
映像は日本列島の全景だったが、やがて旧長野県と東海地方が映し出された。
旧長野県のほぼ中央には、赤く巨大な光が点滅しており、そこから黒い紙魚のようなものが、周囲にどんどん広がっている。
「……正直言って、今日本にどのぐらい魔界の気が出ているかは分からないの。それでもここが無事なように、全てを覆われてはいないわ。これでも富士の女神だから、東海の事はある程度分かるのよ?」
女神は少し強がるように微笑む。
「黄泉の軍勢や邪神と同じく、あの強力な餓霊だって、まだどこででも活動出来るわけじゃないの。だから邪気の薄い所を通れば、きっと海まで出られるはずよ」
「海まで出れば……助かるんでしょうか」
誠の問いに、女神は少し無言になった。
「……分からないけど、ここにいるよりは可能性があるわ。まだ避難の船が残っているかも知れないし……」
「……助かる……可能性が……」
考え込む誠だったが、女神はそこで誠の肩に手を置いた。
「勇気を出しなさい、黒鷹くん。あなたはお姉ちゃんが見込んだ勇者なのよ?」
佐久夜姫は真っ直ぐに誠の目を見つめた。
「闇に投げ出されたら、その中で少しでも明るい方を見た方が、早く目が慣れるでしょう? 生きる事も同じ、闇の中の光を見るの」
「…………分かりました、やってみます……!」
誠も、鶴も頷いたが、そこで1人の男性が駆け寄ってきた。
旧自衛隊の迷彩服に身を包んだ彼は、この避難中に合流した木崎少佐である。
「鳴瀬少尉、それにお姫様と……えっと、あなた様も。お話中失礼ですが、至急お知らせしたい事がありまして」
女神をどう呼んでいいか分からず、しどろもどろになりながらも、木崎少佐は敬礼した。
「木崎少佐、どういったご内容でしょうか」
「それが鳴瀬少尉、付近の仲間から連絡が入ったんだ。安全な避難経路が見つかったかも知れない。合流して逃げられるかもしれないんだ」
「凄いや、グッドタイミングだね!」
コマがジャンプして嬉しそうに手足を広げた。
彼はそのまま少佐の肩に着地し、矢継ぎ早に尋ねる。
「それでお兄さん、どこをどうやって逃げたらいいの? 今すぐ行こうよ、早く早く!」
「ちょ、ちょっと待ってくれワンちゃん。ワンちゃん……犬なのか?」
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