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第六章その1 ~絶対勝てない!?~ 無敵の邪神軍団編

押し寄せる絶望の使徒

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(……子供の頃、こんな映画があったような気がする)

 迫り来る巨躯きょくを眺めながら、誠は他人事のように考えた。

 日本が平和だった頃、両親と見たアニメ映画にこんなシーンが出てきたのだ。

 怒れる森の化身のように駆ける巨蟲きょちゅうは、あくまで想像上の生き物だったはずだが……それに勝るとも劣らぬ化け物が、今目の前に現れていた。

 端的に説明するなら、大型の輸送車にとり憑いた怪物。つまり九州で遭遇そうぐうした『火車』に似ていた。

 天井部分にそびえるのは、炎をまとった人型の上半身。車体下部からは蜘蛛のような足が突き出し、凄まじい速度で地を蹴立てていた。

 ……しかし従来の火車とは、あちこち細部が異なるのだ。

 火車では4本だった腕は増え、長短合わせて10本近くが確認出来る。

 優美な曲線を描く上半身の硬皮は、人の造形と言われても納得する形状フォルムだったし、洋風のかぶとのような頭部は、顔の下半分に人のような肌が露出していた。

 一方で運転席部分は大きく破損し、そこから巨大な女の顔が覗いている。

 それは不気味な笑みを浮かべていたが、たなびく髪や顔の造形は、寒気がするほど美麗だった。

 餓霊というより、神話に名だたる悪魔の彫像。

 怪物というより、知性を持つ高位の堕天使。

 そんな禁忌きんきにも似た感覚を、見る者に抱かせるのだ。



 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 隊員達は人型重機を操り、弾丸を次々に叩き込むが、『追撃者』の顔は笑うばかりだ。

「あかんわっ、なんちゅう硬い電磁障壁シールドやねん!」

 機体のモニターに映るショートカットの少女・難波が叫んだ。

 普段はおちゃらけた言動が多く、隊のムードメーカー的な彼女も、今はそんな余裕がなかった。

 弾丸に特殊な電磁力をコーティングし、威力を飛躍的に高めているはずなのに、いかに弾を連射しようと、全く攻撃が通らないのだ。

「このみっ、弾っ!」

 別の輸送車に乗る機体が、難波の人型重機に銃の弾倉マガジンを投げて寄越した。

 モニターに映るのは、やや波うつ髪を長く伸ばした少女・カノン。

 誠が率いる人型重機小隊の副官であるが、頭には2本の角が生えている。

 人ならぬ鬼である彼女は、訳あって前世の誠と出会った。そして誠が討ち死にした後、その生まれ変わりを500年も待ってくれていたのだ。

「無駄撃ちしないで! 協力して同じ相手に叩き込むのよ!」

 指揮らしき指揮を取れない誠に代わって、カノンは必死に他のメンバーを鼓舞していた。

 早く参加しなければ、自分がしっかりしなければ……!

 理屈では分かっていたが、誠は何も出来なかった。

 どんな時も自分達を励ましてくれた女神・岩凪姫は、悪神どもの罠に倒れた。

 そしてその原因が、他ならぬ誠にあったからだ。

 苛立つ被災者達の罵倒……いや、それすらも敵の策略だったのだが……ともかく心無い言葉に苛立った誠は、およそ人間とは思えぬ言動をした。

 それに怯えた子供が逃げ、女神はたった1人でその子を連れ戻そうとしたのだ。

 だが全ては敵の罠であり、結局女神は命を落とした。

(……もし俺が怒りに身を任せなければ、岩凪姫は無事だったはずだ)

 耐え難い自責の念に襲われる誠だったが、そこで肩に手が置かれたのに気づいた。

「……っ!?」

 振り返ると、後ろの補助席に座る少女が、心配そうにこちらを見つめている。

 長い黒髪をポニーテールにまとめ、古風な着物に鎧姿。

 名を大祝鶴姫おおほうりつるひめという彼女は、本来は明るくすっとんきょうな性格であり、日本を取り戻す冒険において、随分振り回されたものだ。

 ……けれど今は見る影もない。

 役目を終えた彼女は、魂の崩壊で消滅する時をただ待つばかりだ。

 だがそんな命の危機にも関わらず、彼女は誠を気遣っていた。

「大丈夫よ黒鷹、あなたのせいじゃないわ。ナギっぺは、ナギっぺのやりたいように頑張ったんだから……!」

 鶴は肩に置く手に力を込める。

「だからお願い。私、ナギっぺに報いたいの……! ナギっぺが守りたかった分まで、私達が頑張りましょう……!」

「………………っ!!!」

 誠はしばし鶴を見つめていたが、やがて前に向き直る。

 完全に何かが納得出来たわけじゃない。

 それでも体が動いたのは、鶴が願ってくれたが故だ。

『自分のためではなく、鶴のために戦う』

 その言い訳を用意してくれた事で、自責の念で動けなくなっていた誠は、とりあえず現実と向き合う事が出来たのだ。
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