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第四章その10 ~最終決戦!?~ 富士の裾野の大勝負編

運命の再起動

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 こちらの機体が起き上がったのを見て、ディアヌスは地に刺した刀を抜いた。

 魔王の周囲には激しく邪気が立ち昇り、思考を示す電磁場の揺らぎが見える。

 そう、複雑過ぎて最初はパターンが読めなかったが、徐々に相手の思考が見え始めて来たのだ。

 誠は機体を前に突進させ、脇構えに太刀を構える。

 ディアヌスは嘲笑うように言った。

「突っ込むだけの猪武者が……!」

 誠が太刀を横薙ぎに振るい、魔王の首を狙おうとすると、相手がそれを受ける動作が脳裏に浮かんだ。敵の周囲の電磁場を読み取り、誠の脳内でイメージに変えたのだ。

 誠は咄嗟とっさに太刀の軌道を下げ、胴の辺りを薙ぎ払う。

「ぬうっ!?」

 魔王は何とか防いだものの、体勢を崩し、何歩か後ずさる。

(惜しかった! でも……!)

 誠はなおも機体を前進させ、今度は突きの構えを取る。

 狙いを腹に定め、こちらの太刀が動き始めると、やはり魔王の動きが見えた。横から刀をふるい、払いのけるように防ぐ気だろう。

 誠は突きかかると見せかけ、機体の前に斥力場を発生。その場で緊急停止する。

 払おうとしたディアヌスの刃は空を切り、そこで誠は機体を再加速させた。

「ぐうううっ!!?」

 魔王は下がりながらこちらの太刀を弾くが、内心かなり動揺しているようだ。

「貴様っ……!!!」

 再びよろめきながらディアヌスは言った。

 先ほどまでの余裕は消え失せ、動きを読まれた事に怒りを覚えているのだ。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!

 魔王は凄まじい声でえたが、誠はまるで気圧けおされなかった。

『ええで鳴っちっ!!! そこや、行っけえ!!』

 そう、応援してくれる皆の声が聞こえるからだ。

 この声が聞こえる限り、彼らの気持ちが全身を包んで、魔王の殺意が届かない気がした。

 誠は何度もディアヌスに打ち込み、徐々に相手を押し込んでいく。

「いくら邪神だからって、何千回見たと思ってんだ……!!」

 現時点では、ディアヌスのほうがパワーは上。それは最初の打ち合いで分かった。

 こちらが全力で打ち込んでも、相手は余裕をもって防げる。だったらどうする?

 相手の動きを先読みし、その裏をかくのだ。常に咄嗟とっさの動きを強要し、体勢を崩させ、力を100%発揮させないようにするのだ。

 誠はあらゆる選択肢を用い、熾烈しれつな攻撃を幾度も加えた。

 だがそこはさすがの魔王である。いかに不意を突かれようと、ギリギリの所で攻撃を防いでいた。

(押し込めてる……けど、このままじゃ決め手に欠ける!)

 誠はそこで決断した。

 震天だって未完成の機体だ。このまま長引けば、予期せぬ不具合が出るだろう。

 だったらここで勝負を付けねば……誠はそう考えたが、それは機体をよく知る技術者達も同じだったらしい。画面上で筑波が叫んだ。

『長引けば不利になる。ここが勝負だ、出力を上げるぞ!』

「はいっ!!!」

 機体の出力が上がると同時に、発生したパワーノイズが振動となって全身を揺らした。

 祭神の細胞同士のエネルギーを共鳴させ、掛け合わせる事で単なる足し算ではない力を引き出すのだが、エネルギーの調整が難しいため、出力を上げるにつれてノイズが増えるのである。

 誠は一気に魔王に斬りかかる。

 魔王は弾いたが、明らかにこちらの太刀のパワーが上がっていた。防御した魔王は、先ほどまでより大きく体勢を崩している。

 2度、3度と攻撃を繰り返す度、魔王の隙は増えていった。

 やがて魔王の刀を大きくはね上げ、腹をがら空きにする事に成功する。

(ここで、ここで決めるっ!!!)

 誠は更に機体を加速させた。

 ……………………だが、次の瞬間だった。

 機体に一際大きな振動が走った。急激に出力が衰え、画面があちこち点滅し始める。

 細胞同士の共鳴とエネルギーの調律に失敗し、パワーが極端に落ちたのである。

 当然ながら刀の光も消え失せて、これでは魔王を傷つける事が出来ない。

『まずいっ、こんな時に!』

 画面上で筑波が叫んだ。

 誠は何とかディアヌスに機体を寄せると、肩を押し当てて体当たりしていた。

「ぬううううっ!?」

 ディアヌスは吹っ飛び、凄まじい地響きを立てて倒れ込んだ。

 そのまま土煙を巻き上げながら滑り、山肌に背を打ち付けて停止した。

 誠は最後の力で身を起こすと、太刀を大地に突き立てた。それから機体を腕組みさせて動きを止める。

 丁度さっきと逆の形勢であり、相手が起きるまで、待っているように見せかけたのだ。

「今です筑波さんっ、再起動をっ!!!」

『分かった、全速力でなっ!!』

 筑波は答えると、配下に素早く指示を出す。

 誠の乗る操縦席は、唐突に闇に包まれた。

 あの魔王ディアヌスを前にして、機体の一切の電力が落ちる。

 身の毛もよだつような事態であったが、誠は荒い呼吸を整えた。

(危険なのは分かってる……でも一か八かやるしかないっ……!)

 やがて操縦席に光が灯り、モニターが少しずつ反応していく。

 ディアヌスはゆっくりと身を起こし、こちらを睨み付けていた。

「舐めるな小僧、剣を持て!!!」

 誠は目玉だけを動かし、起動プログラムの進行を見る。システムはまだ再起動中だった。

 進行度合いを示す緑色のバーがじれったく伸び、各種プログラムの名称が高速で表示されては消えていく。

 まだ動けないし、外部拡声器スピーカーも使えないから、口八丁も選択肢に無かった。

(もう少し……もう少しだ……!)

 祈るように念じる誠に、魔王は再び咆えた。

「剣を持て、小僧っっっ!!!!!」

 声だけで大地が震えるようだったし、今にも怒りで斬りかかってきそうだ。

 その瞬間、機体の全ての画面が輝く。

 属性添加機の駆動音が、四方八方から多重に誠を包み込み、強力な人工筋肉が収縮する音が鳴り響いた。

『再起動完了っ、いけるぞ!』

「了解っ!」

 誠は機体を操作すると、地に突き刺した太刀を引き抜いた。

 こちらが太刀を構えると、ディアヌスは一歩踏み出した。

「思ったよりはやる……だが遊びは仕舞いだ……!!!」

 その身を覆う邪気は激しさを増し、燃え上がる火柱のようだった。

 先程までの余裕を捨て、本気になろうとしているのだ。
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