上 下
102 / 110
第四章その10 ~最終決戦!?~ 富士の裾野の大勝負編

みんなのエール1

しおりを挟む
 誠は正気を取り戻せずにいた。倒れた機体を起こす事も忘れ、ただ虚空を見上げるのみだ。

 みじめな誠をはやし立てるように、餓霊どもの叫びは続いている。

 だがそこで筑波が叫んだ。

「今だっ、修正当てろぉおおっ!!!」

「……っ!?」

 誠ははっとしてモニターを見やった。そこには船の戦闘制御室が映されている。大勢の技術者達が、実戦で発覚した震天の動作不具合システムエラーに、必死で修正を試みているのだ。

 筑波は作業を指揮しながら、誠に向かい声をかけた。

「損傷軽微……よーしよしよし、よく生きてた、上出来だ!」

「上出来……?」

 夢現ゆめうつつのように言う誠に、筑波は頷く。

「魔王相手にまだ生きてるんだ、上出来から上だろ?」

「…………」

 誠は答えられなかったが、筑波は安心させるように続ける。

「大丈夫だ、お前1人に押し付けるつもりはない。俺達も一緒だからな……!」

 額は汗びっしょりだったが、無理に笑顔をこちらに見せる。やせ我慢の典型のような表情であり、誠はその顔に見覚えがあった。

 遠い昔、横須賀の避難区にいた誠達は、昼夜を問わず鳴る警報に怯えていた。今にも人喰いの化け物どもが押し寄せる……そんな恐怖に震える孤児達の頭を、筑波は黙って撫でていた。

 例え強がってでも子供達を守ろうとした、本物の大人の顔だったし、その時と同じ顔を彼はしていたのだ。

 そこで画面には、いきなり鎧姿の少女が映った。

「黒鷹、船から何かを送ってるんでしょ? 邪気で乱れてるみたいだから、私が間に入るわね!」

 愛鷹山から駆け下りた鶴が、コマに乗って走りながら、こちらの通信に割り込んで来たのだ。

 鶴が胸の前で祈るように手を合わせると、こちらの機体が白い光に包まれる。すると通信環境が改善され、修正プログラムの導入速度がケタ違いに跳ね上がった。

 誠は今までの快進撃を思い出す。ここまで日本を取り戻せたのは、本当にこの子のおかげだった。

 邪気による通信障害で、連携れんけいすら取れず敗走を繰り返していた人々は、彼女の登場によって反撃の狼煙のろしを上げたのだ。

 どんな絶望の霧の中でも、彼女がいれば言葉は伝わる。思いだって届く。

 それを証明するかのように、鶴は誠にウインクした。

「黒鷹、なんだかいっぱい応援が来てるわ。かたぱしから映すから、ちゃんと見てあげてね……!」

 そこで画面には、横須賀の難波達が映っていた。

 戦いの一部始終を見守る難波は声を失っていたが、そこで後ろのドアが吹っ飛び、宮島と香川が現れた。

「あ、あんたら、ほんまに起きてええんか?」

「んな事ぁどうでもいいだろ、なんで声出さねえんだよっ!」

「そうだ、念仏唱えるより、まずは応援だろうっ!」

 少年達はずかずか踏み込むと、画面の前にかじりついた。

「おっ、隊長の顔映ってるじゃん! これ通じてるんだろ? 隊長、しっかりしろよ! 俺らがついてるからな!」

「先にお陀仏だぶつなんかしたら、葬式にあの写真集飾るぞ!」

 共に死線を潜り抜けてきた仲間達は、そう言って画面を叩いている。

「鳴っち、うちもおるで!」

 難波も元気を取り戻したのか、宮島達を突き飛ばしながらモニターに映った。

「結果なんか気にせんでええ、もしもの時はうちも一緒や! 思いっきりいって、うちらの根性見せつけたりや!」

 普段はふざけてばかりの難波は、目に涙を浮かべていた。

 画面には、次々他の人々が映し出されていく。

「何やってんだこらぁっ、あんたはそんなもんじゃないだろっ!」

 日に焼けて気の強そうなポニーテールの少女は、あちこち包帯を巻いている。先日まで一緒に戦っていた東北のエースパイロット・凛子りんこである。

「そうだ、お前ならきっと出来る!」

「おら達が保証するべ!」

 孝二こうじやしぐれも叫ぶが、派手なスタジャンを着た恭介きょうすけしゃべろうとすると、興奮した凛子が彼の頭を掴んで揺さぶる。

「むぐっ、凛子隊長、俺も喋りたいのに……!」

 さらに続々と応援が届いていた。

 雪菜は金の髪をなびかせ、机をバンバン叩いている。

「鳴瀬くんっ、ファイトよっ! 竜馬師匠もついてるわ!」

 同じ神武勲章レジェンド隊だった九州の天草や、北陸の嵐山・船渡夫妻も映っていた。

 天草はアマビエのキーホルダーを手に乗せ、こちらに熱く訴えかける。

「誠くん、呼んでくれたら飛んでくわ! こう見えて羽があるんだからっ!」

 嵐山と船渡は、同じ部屋にいるようだ。2人とも机に手を置いて画面に身を乗り出しているが、その薬指には指輪があった。

「ちょっと君っ、あたし達だけ幸せにして、勝手に不幸にならないでよ!?」

「後輩が幸せじゃなきゃ、こっちもやりづらいからな!」

 船渡は顔を真っ赤にしながら、それでも男らしく言ったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キミ」が居る日々を

あの
キャラ文芸
ある日、車に轢かれそうになった瞬間、別人格と入れ替わってしまったセツ。すぐに戻ることはできたものの、そのときから別人格ハルの声が聞こえるように。 こうして主人公セツと別人格ハルの少し変わった日常が幕を開けたーー 表紙はつなさんの「君の夢を見たよ」よりお借りしています。

熊野古道 神様の幻茶屋~伏拝王子が贈る寄辺桜茶~

ミラ
キャラ文芸
社会人二年目の由真はクレーマーに耐え切れず会社を逃げ出した。 「困った時は熊野へ行け」という姉の導きの元、熊野古道を歩く由真は知らぬ間に「神様茶屋」に招かれていた。 茶屋の主人、伏拝王子は寄る辺ない人間や八百万の神を涙させる特別な茶を淹れるという。 彼が茶を振舞うと、由真に異変が── 優しい神様が集う聖地、熊野の茶物語。

宵風通り おもひで食堂

月ヶ瀬 杏
キャラ文芸
瑠璃色の空に辺りが包まれた宵の頃。 風のささやきに振り向いた先の通りに、人知れずそっと、その店はあるという。

お好み焼き屋さんのおとなりさん

菱沼あゆ
キャラ文芸
熱々な鉄板の上で、ジュウジュウなお好み焼きには、キンキンのビールでしょうっ! ニートな砂月はお好み焼き屋に通い詰め、癒されていたが。 ある日、驚くようなイケメンと相席に。 それから、毎度、相席になる彼に、ちょっぴり運命を感じるが――。 「それ、運命でもなんでもなかったですね……」 近所のお医者さん、高秀とニートな砂月の運命(?)の恋。

オアシス都市に嫁ぐ姫は、絶対無敵の守護者(ガーディアン)

八島唯
キャラ文芸
 西の平原大陸に覇を唱える大帝国『大鳳皇国』。その国からはるか数千里、草原と砂漠を乗り越えようやく辿り着く小国『タルフィン王国』に『大鳳皇国』のお姫様が嫁入り!?  田舎の小国に嫁入りということで不満たっぷりな皇族の姫であるジュ=シェラン(朱菽蘭)を待っているのタルフィン国王の正体は。  架空のオアシス都市を舞台に、権謀術数愛別離苦さまざまな感情が入り交じるなか、二人の結婚の行方はどうなるのか?!

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………

ブラックベリィ
キャラ文芸
俺、神咲 和輝(かんざき かずき)は不幸のどん底に突き落とされました。 父親を失い、バイトもクビになって、早晩双子の妹、真奈と優奈を抱えてあわや路頭に………。そんな暗い未来陥る寸前に出会った少女の名は桜………。 そして、俺の新しいバイト先は決まったんだが………。

【完結】たまゆらの花篝り

はーこ
恋愛
明朗な少女、穂花(ほのか)。早くに両親を亡くした天涯孤独の身の上であるが、ごく普通の高校生活を送ることができていた。とある神に溺愛されているということ以外は。 「このままだとおまえは、あいつに殺されるぞ」 兄のように慕う付喪神・紅(べに)の過保護ぶりに感謝しつつも悩まされる日々を送っていた、十六歳の誕生日のこと。幼馴染みの青年・真知(まち)に告げられた言葉、そしてサクヤと名乗る、美しい少女の姿をした神が突然現れたことで、穂花の運命は大きく動き出す。 神々の住まう天界、高天原(たかまがはら)。穂花は、かの地を統治する最高神の血族、ニニギノミコトと崇められる神であった。 太古の昔、葦原中津国(あしはらのなかつくに)と呼ばれるかつての日本に住まう国津神と、高天原の天津神は、対立関係にあった。両者の溝を埋め、葦原中津国の平定を成し遂げた神こそ、ニニギノミコトなのである。ニニギノミコトへ想いを寄せていた神は、ただ一柱のみには留まらない。 或る一柱は、兄代わりであり、高天原の頭脳と言っても過言ではない、知恵を司る天津神。 或る一柱は、幾度散ろうとも純粋に恋慕う、儚くも心優しき桜の国津神。そして―― 「お迎えに上がりました。貴女様と、永久を過ごす為に」 紅蓮の瞳に狂おしい程の色を滲ませた神は、嗤う。物心のつく前から共に過ごしていた紅の、真の正体は。 偃月の夜、穂花を巡り、神々たちの闘いの火蓋が切って落とされる。 少女の身体に刻まれた、赤い花、青い花、白い花。咲き誇るのは、一体何色の蕾なのか。 失敗は許されぬ。非なる者には、天より数多の矢が降り注がん。 「それでは始めましょう。鮮烈なる死合(しあい)を」 古事記をもとに織り成す、日本神話×男女反転×逆ハー現代ファンタジー。 「貴女様は、この――だけのものじゃ」 ――その神、愛憎過多につき。

処理中です...