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第四章その10 ~最終決戦!?~ 富士の裾野の大勝負編

子供扱い

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「おおおおおおおっっっ!!!」

 爆発するような加速と共に、機体は瞬時に魔王に迫る。

(速い!!!!!!)

 内蔵する強力な属性添加機の推力で、巨体にも関わらず、その速度は驚嘆きょうたんに値する。

 そのまま太刀を振りかぶり、魔王の体に叩きつけた。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 轟音、そして激しい衝撃。凄まじい波動が周囲に走ったが、魔王の刃はこちらの太刀を受け止めていた。震天の突進を止めたため、足元の大地が深々とえぐれている。

 魔王は鋭い牙を剥き出しにし、口元に笑みを浮かべた。そのまま力任せに剣を振り、こちらの機体を押し返したのだ。

 後ずさる機体のバランスを戻し、誠は再び太刀を振るった。

 2度、3度と打ち込みながら、相手の隙を必死にうかがう。

 一撃ごとに、大気が爆発したような衝撃が走るが、魔王は余裕でそれを弾いた。

 力や魔力量だけではない、その動きにも無駄が無いのだ。

 太古から戦いに明け暮れ、実戦の中で磨き上げられた、純粋な暴力としての剣さばき。力と速さが完全に融合した、我流の中の完成形。

 分かっていた事だが、やはりこの魔王はとてつもなく強い……!!

 誠は幾度となく切り結んだ。

 刀を構え、大地を蹴って横移動しながら、タイミングを見計らって攻撃を仕掛ける。

 あらゆる角度からあらゆる可能性を探るものの、魔王は少しも動じなかった。

 むしろこちらの攻撃を楽しむかのようであり、その挙動には余裕すらうかがえた。

(嘘だろ、まだ届かないのか……!?)

 誠はさすがに焦りを感じていた。

 あれほど無敵に思えた震天の力が、この魔王には通じない。

 この10年、必死に積み上げられた技術の結晶が、子供扱いされるというのか。

(ここで負けたら何もかも終わる! 絶対、絶対勝たなきゃいけないのに!)

 更に不利な条件があった。動作そのものは誠が主導しても、それに要する細かい調整は船の皆がしているのだ。

 しかしディアヌスに近づくと、その強力な邪気のせいで通信が遅れてしまう。パワーの切り替えが間に合わず、機体は時折動きを鈍らせるのだ。

(サポートがどうしても遅れる……! せめて、通信に時間差ラグが無ければ……!)

 誠は戦いながら、モニターに映る震天の機体状況に目を走らせた。出力は低迷し、とても全力には程遠い状況だ。

 こちらの焦りを見て取った魔王は、大きく踏み込んで震天の太刀を受け止める。

 そのままやにわに片足を上げると、突き飛ばすように蹴り込んだ。

「ぐううううっ!!!???」

 腹部に強い衝撃を受け、100メートルに達する震天の巨体は、大きく吹き飛ばされていた。そのまま倒れ、滑りながら激しく土砂を巻き上げていく。

 やがて丘陵に背を打ち付けて停止し、震天は仰向けに横たわっていた。

 魔王は倒れたこちらを見下ろすと、黒い刃を大地に突き刺し、牙の生えた口を開いた。

「笑止、これが日の本一の武士もののふか? 千年鍛えて出直して参れ!」

 魔王は大音量で言い放つと、そのままこちらを嘲笑あざわらった。

 見守る餓霊の軍勢も、魔王に同調するようにえている。

「………っっ!!!」

 誠は荒い呼吸で宙を見上げた。

 こんな、こんなはずではなかった。

 折角皆が力を貸してくれたのに。女神も鶴も仲間達も、持てる全てで支えてくれたのに……それでもあいつに届かない。

 嘲笑う魔王の声、そして餓霊どもの咆哮が頭の中に木霊して、どんどん誠の判断力を奪い取っていく。



 同じ頃、横須賀の治療施設の通路である。

 療養着を着た少年2人は、肩を怒らせ歩いていた。全身包帯とギブスだらけで、もはや無事な所の方が少ない。

「ちょっと君達、寝てないと!」

「折角助かったのに、無茶したらまた」

 救護班は必死に彼らをなだめるが、少年達は止まらなかった。

「うるせえ、これが寝てられっかよ! いててっ……!」

 短髪の少年・宮島が手を振り払い、骨折の痛みで顔をしかめる。

 同様に、スキンヘッドの香川も苦しげだったが、それでも彼は背を伸ばした。

 胸の前で手を合わせ、拝むような姿勢をとると、前を見据えて足を踏み出す。

「大事な友人が……隊長さんが呼んでる気がしてね。こう見えて仏門の家系、勘は鋭い方なんだ」

「どう見ても仏門ですよ! じゃなくて、今は安静に……」

 救護班の訴えも、少年達を止められない。

 宮島は痛みをこらえ、手にした通信端末を操作する。

「このみ、今どこだ? 俺らもそっち行くからよ」
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