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第四章その10 ~最終決戦!?~ 富士の裾野の大勝負編

富士の決闘

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 旧富士市に襲来した敵軍は、既に総崩れの様相ようそうだった。

 誠はなおも機体を操作し、各部の砲で敵軍を蹴散らす。

 数万に達する大軍勢……それも魔王を守る精鋭を、瞬く間に壊滅状態に追い込んだのだ。まさに一騎当千の機体であろう。

 魔王はただその様を眺めていたが、やがて苛立ったような唸りを漏らした。

 残存する餓霊どもは、怯えたように振り返ると、魔王の後ろに下がっていく。これ以上の犠牲を防ぐためか……それとも魔王を恐れたのか。いずれにしろ、本番はこれからである。

 緊張で身を硬くする誠だったが、そこで低く落ち着いた声が響いた。

気圧けおされるな、ナルセ。ディアヌスとてダメージはある」

 祭神ガレオンが、逆鱗を通して思念を送ってくれたのである。

「我々のエネルギーを用いた砲撃で、奴も体力を消耗している。周囲の電磁バリア……『闇の叢雲やみのむらくも』もほぼ消失した」

「消耗って、どのぐらい」

「4割程度だろう」

 誠はその言葉を噛み締めた。

「……十分じゅうぶんだ」

 魔王ディアヌスは、しばしの間不動であった。

 頭上の暗雲はますます色濃く、強い風をともない始めた。長い髪は風に乱れ、稲光が黒い外皮を照らしていく。

 やがて魔王は口を開いた。

「…………名を聞くぞ、愚か者」

 腹を揺さぶる、不可思議に響く声だったが、対等な存在として言ったわけではない。ややあごを突き出し、こちらを見下しながら問うただけ。

 今から潰す虫けらの名を、たわむれに尋ねた程度の行動であり、この戦いにおける自らの勝利を、一欠片ひとかけらも疑っていない態度であった。

 自分たち人間を、えさかゴミぐらいにしか思っていない……その事が誠の怒りに火を付けた。

「この機体に乗った時から、名は忘れた……!」

 モニターに映る魔王を睨み、しぼり出すような声で答える。

「ここにいるのは、この国に生きる全ての人々……ここにあるのは、10年高め続けた力の結晶……!!」

 そこでこらえ切れず感情が爆発した。

 父を、母を、家族を殺め、愛する故郷も懐かしい世界も、その全てを奪っていった相手との最後の決闘なのだ。

 震天の剣を振りかぶり、誠は切っ先を魔王に向けた。

「この国に生きる、全ての人の未来を賭けて、一騎打ちだディアヌスっ!!!!!」

 誠の感情の高ぶりを読み取った震天が、凄まじいエネルギーを発散し、大地を、大気を震わせていく。

 ディアヌスは黙ってこちらを見据えている。

 やがて口元の牙が見え、目が笑うように歪められた。戦いの喜びか、それともこちらを嘲笑あざわらってなのか。

 魔王はそのまま大地を踏みしめ、ゆっくりと市街を後にする。震天もその後を追った。

 やがて両者は、富士の裾野すそので向かい合った。

 白く戴冠たいかんした日の本一の霊峰……その山裾やますそで、この国の未来を賭けた最後の戦いが始まるのだ。
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