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第四章その10 ~最終決戦!?~ 富士の裾野の大勝負編

日の本一の兵(つわもの)

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 敵軍は完全に勢いに乗り、富士市一帯になだれ込んできた。

 人の防衛線は総崩れとなり、最早逃げるしか手は無かっただろう。

 だがそれすらも、追いすがる餓霊の軍勢は許そうとしなかった。

「おい、来るぞ、来るぞ!!」

 一際巨体の餓霊が、砲撃をものともせずに迫って来た。

 道を塞ぐ車両を軽々と跳ね飛ばし、餓霊は倒れた兵達を見下ろす。

 絶体絶命。

 若者達は喉を震わせ、末期まつごの悲鳴を上げようとした。だがうまく言葉が出ない。

 負傷した仲間を引きずっていた女性兵が、へなへなと座り込んだ。

 餓霊は殺戮さつりくの喜びに満ち、唾液をしたたらせながら、片手の爪を振り上げた。

 やがて激しい衝撃が走った。その場の誰もが死を覚悟しただろう。

 身を硬くし、1秒でも早く苦痛が終わるように祈りながら……皆がその場にうずくまっていた。

 だがいつまで待っても、死はいっこうに訪れない。

「…………?」

 彼らは恐る恐る顔を上げる。

 餓霊はゆっくりと崩れ落ちていく。車両を押し潰しながら倒れた巨躯は、頭どころか上半身をもぎ取られていた。

 一体何がこの怪物を倒した?

 この巨大な餓霊の半身を吹き飛ばす攻撃とは何だ?

 兵士達は周囲を見回し、そこで気付いた。駿河湾の沖合いから、陸を目指して猛進する輸送船にだ。

 天蓋が開き、空母のような形となった船上には、青い光が輝いていた。

 そして次の瞬間、光は上に舞い上がり、猛烈な速度で陸地こちらに向かって来たのである。

 光はそのまま海岸線に着地。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 凄まじい爆風、そして衝撃。

 負傷者達まで飛ばされそうな勢いだったが、衝撃はみるみる緩和していった。慣性及び爆風緩和の電磁式を発し、被害を最小限に抑えてくれたのである。

 粉塵がもうもうと舞い上がり、地響きがいつまでも辺りを揺らす。

 …………いや、それは地響きではなかったのだ。

 巨体から発せられるエネルギーの振動であり、幾多の属性添加機が共鳴しながら奏でる、武者震いのようなものだった。

 少しずつ砂塵が薄れると、巨躯がゆっくりと身を起こした。

 戦場に立ち上がるその勇姿は、100メートルに達するだろうか。人型重機にしてはあまりに大きい。

 鎧のように頑強かつ、機動性を妨げぬ装甲。その隙間から漏れ出る、強力な属性添加機の輝き。

 腰には巨大な太刀を挿し、腕にも肩にも背中にも、戦艦の巨砲に匹敵する武器を備えている。

 どことなく心神に似たフォルムだったが、兜のような前頭部には、やしろの屋根を飾る千木ちぎ……つまりV字にそびえる飾り木を彷彿ほうふつとさせるアンテナがあった。

 やがて巨人はその身に力をみなぎらせた。

 稲妻のような輝きが、全身の装甲を駆け巡る。

 関節から覗く人工筋肉は光を帯びて、凄まじい圧縮音を響かせた。明らかに普通の人工筋肉それではない、人智を超えた筋出力パワーの証だ。

 そして巨人は咆えたのだ。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 もしかしたら、音ですら無かったのかもしれない。発散された膨大なエネルギーが人々の肌を叩き、それを音と認識しただけなのかもしれない。

 けれどその雄叫びは、確かに魔除けの力を持っていた。一騎当千の勇者に気圧けおされたように、餓霊どもは次々に後ずさる。

 そして巨人の勇姿は、人々の心に消えかけた思いを呼び起こした。それは希望だ。

 絶望の地に立ち上がる鋼鉄の武士もののふに……この国の勇気と力を結集した神代の英雄に、一同は最後の望みを託したのだ。

 巨人の放つエネルギーはますます増して、属性添加機の稼動音は、猛禽もうきんの叫びのように辺りに木霊こだます。

 やがて巨人の左肩のシールドに、虹色の光が輝いた。

 機体の余剰エネルギーを利用した表示なのだろう。光の飛沫ひまつがシールドを駆け巡ると、識別名が表示されていく。



「震……天………?」

 モニターに映る巨大な人型重機を見つめ、雪菜は呟いた。

 全高はほぼ100メートル。通常の人型重機の10倍に達する勇姿は、もはや現実の光景とは思えない。

 旗艦・武蔵に集う面々は言葉を失い、ただ船団長の伊能だけが、一同の沈黙を破った。

「筑波の野郎……間に合わせたのか……!」

 雪菜達が振り向くが、伊能は誰とも目を合わさない。

 ただ一点に画面を見据え、独り言のように呟いた。

「対ディアヌス最終決戦兵器『震天』…………この国の最後の希望……もといちつわものだ……!!」
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