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第四章その9 ~攻撃用意!~ 山上からの砲撃編

山上からの狙撃

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 愛鷹山あしたかやまからコマに乗って駆け下りながら、鶴は岩凪姫に思念を送った。

「ナギっぺ、もう限界! 撃つしかないわ! 太刀の霊気は込めたから、私も行くわよ!」

「分かっている!」

 岩凪姫が答えると、鶴の眼前に金髪の女性が映った。

 濃い緑の軍用ジャケットに身を包んだ彼女は、第5船団の戦闘指揮官である雪菜だ。

「雪菜よ、まだ最適な場所ではないが、私と妹が魔王を止める。すぐに攻撃だ」

 岩凪姫の言葉に、雪菜は素早く敬礼した。

「了解しました!」

 雪菜は振り返り、手早く皆に指示を出す。

 そこで船団長の伊能が口を挟んだ。

「難しいだろうが、予定より気持ち上気味にしてくれ。足元の隊が死なねえようにな」

「了解しました!!」

 兵達は勢いよく答える。

 映像で彼らの様子を見守りながら、鶴はコマにも呼びかけた。

「コマ、もっと全速力で! さっき力を使ったから、今は転移が出来ないの!」

「これで精一杯だ!」

 虎ほどに巨大化したコマは、懸命に大地を蹴って山肌を駆け下りていく。

 だが魔王の掲げる光球は、今にも破裂しそうである。

 もしあれが放たれれば、負傷者達は全滅だ。危険をかえりみず、勇敢に魔王を足止めしてくれた多くの若者達が失われてしまう。

 そして魔王の術は強い輝きを放った。炸裂してしまった……遠くてはっきりとは分からないが、恐らくは冷気の術か?

 だがその時、ふと弱々しい声が脳裏に響いた。

「冷気……だけなら、こんなものですわ……!」

「えっ……?」

 鶴は目を丸くした。

 意識を集中し、その人の気を感じ取ると、眼前に1人の女性が映し出された。

 歳は20代の後半ぐらい。

 長い髪を病人のように顔の横で結び、浴衣のみを身につけている。そして手にも首にも頭にも、白い包帯がぐるぐる巻きになっていた。

 一目で重症だと分かるその女性こそ、鶴が北陸で共に戦ったパイロット……そして全神連・西国本部に所属する津和野であった。

「津和野さん! 津和野さんね!」

 鶴が叫ぶと、津和野はうなずく。

「……これは姫様。遅くなって申し訳ありません」

 津和野の両脇には、それぞれ湖南と才次郎の姿が映った。

「……まったく、無茶もいいとこですよ。そう思いませんか、姫様?」

「ほんとだよ……予備の機体に、無理やりあれをくっつけてさ」

 2人はほとんど泣いていた。

 鶴が思念で機体を映し出すと、3体の人型重機の背中に、無理やり注連縄しめなわのような巨大な属性添加機が据え付けられている。

 いや、背中だけではなく、両腕にも足にも。形状も型番も不ぞろいな属性添加機が輝いていた。

 今は電磁過負荷オーバーロードで焼きつき、煙を上げる添加機だったが、津和野は得意げに続けた。

「……さすがに全部、相殺……とはいきませんけど……これでリベンジ、いたしましたわ……!」

 彼女の言葉通り、負傷者達は耐冷気の結界で守られ、命を落としていないようだ。

「さすが津和野さんね! 絶対幸せになれるように、私から出雲様に頼んでおくわ!」

「それは……嬉しゅうございますが……」

 津和野は満足そうに微笑む。

「まずはこの場の方々を……どうか……!」

 気を失う津和野を見つめ、鶴はぎゅっと手に力を込める。

(こんな凄い人達が、私が来るまで日本を守ってくれてたんだ……!)

 そうなると、思い出すのは黒歴史である。いつもいつも手柄を吹聴ふいちょうして、得意になっていた自分が恥ずかしく思えた。

(なんで私、あんな子供みたいな事ばかり言ってたのかしら?)

 考えてみると腑に落ちない。腑に落ちないし恥ずかしい。

 それでも今は、後悔している場合じゃないのだ。



 自らの放った冷気が防がれ、魔王は少なからず興味を引かれたようだった。

 今は電磁過負荷オーバーロードで煙を上げる津和野達の機体に目をやり、他への注意は完全にがれている。

 そして魔王の足元に、まぶしい光が立ちのぼった。白く巨大な光の柱、熱を発さぬ聖なる輝き。

 その光に包まれた途端、魔王はがくんと動きを弱めた。

 この土地でこそ最大限の力を発揮できる女神姉妹が、力を合わせた捕縛用の結界である。

「貴様ら……!?」

 魔王は血走った目を見開き、その尋常ならざる力で結界を振り払おうとする。

 白き光と黒い魔王、両者の力比べが始まった時。彼方にそびえる愛鷹山に、凄まじい光がひらめいた。

 魔王が目をやると、光はどんどん輝きを増している。

 次の瞬間、猛烈な速度で殺到した光は、魔王の体を叩いていたのだ。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「ぐっ、ううっ、うううううおおおおおっっっ!!!???」

 魔王は再び雄叫びを上げた。

 その身を守る強力な魔法障壁……闇の叢雲やみのむらくもと名付けられた電磁バリアは、滅茶苦茶に形を歪めていた。

 どんなに攻撃しても揺らがなかった無敵のとばりが、凄まじいエネルギーを持った砲撃によって、今にも破られようとしているのだ。

 余剰エネルギーは周囲にも押し寄せ、避難中の兵員達は、吹き飛ばされないよう必死に身を屈めた。

 やがて爆風が粉塵を巻き上げる。ディアヌスの鎧のような外皮が砕け、バラバラと宙に舞った。

 人々の力を合わせた攻撃が、間違いなく魔王の体に届いたのだ……!
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