94 / 110
第四章その9 ~攻撃用意!~ 山上からの砲撃編
山上からの狙撃
しおりを挟む
愛鷹山からコマに乗って駆け下りながら、鶴は岩凪姫に思念を送った。
「ナギっぺ、もう限界! 撃つしかないわ! 太刀の霊気は込めたから、私も行くわよ!」
「分かっている!」
岩凪姫が答えると、鶴の眼前に金髪の女性が映った。
濃い緑の軍用ジャケットに身を包んだ彼女は、第5船団の戦闘指揮官である雪菜だ。
「雪菜よ、まだ最適な場所ではないが、私と妹が魔王を止める。すぐに攻撃だ」
岩凪姫の言葉に、雪菜は素早く敬礼した。
「了解しました!」
雪菜は振り返り、手早く皆に指示を出す。
そこで船団長の伊能が口を挟んだ。
「難しいだろうが、予定より気持ち上気味にしてくれ。足元の隊が死なねえようにな」
「了解しました!!」
兵達は勢いよく答える。
映像で彼らの様子を見守りながら、鶴はコマにも呼びかけた。
「コマ、もっと全速力で! さっき力を使ったから、今は転移が出来ないの!」
「これで精一杯だ!」
虎ほどに巨大化したコマは、懸命に大地を蹴って山肌を駆け下りていく。
だが魔王の掲げる光球は、今にも破裂しそうである。
もしあれが放たれれば、負傷者達は全滅だ。危険を顧みず、勇敢に魔王を足止めしてくれた多くの若者達が失われてしまう。
そして魔王の術は強い輝きを放った。炸裂してしまった……遠くてはっきりとは分からないが、恐らくは冷気の術か?
だがその時、ふと弱々しい声が脳裏に響いた。
「冷気……だけなら、こんなものですわ……!」
「えっ……?」
鶴は目を丸くした。
意識を集中し、その人の気を感じ取ると、眼前に1人の女性が映し出された。
歳は20代の後半ぐらい。
長い髪を病人のように顔の横で結び、浴衣のみを身につけている。そして手にも首にも頭にも、白い包帯がぐるぐる巻きになっていた。
一目で重症だと分かるその女性こそ、鶴が北陸で共に戦ったパイロット……そして全神連・西国本部に所属する津和野であった。
「津和野さん! 津和野さんね!」
鶴が叫ぶと、津和野は頷く。
「……これは姫様。遅くなって申し訳ありません」
津和野の両脇には、それぞれ湖南と才次郎の姿が映った。
「……まったく、無茶もいいとこですよ。そう思いませんか、姫様?」
「ほんとだよ……予備の機体に、無理やりあれをくっつけてさ」
2人はほとんど泣いていた。
鶴が思念で機体を映し出すと、3体の人型重機の背中に、無理やり注連縄のような巨大な属性添加機が据え付けられている。
いや、背中だけではなく、両腕にも足にも。形状も型番も不ぞろいな属性添加機が輝いていた。
今は電磁過負荷で焼きつき、煙を上げる添加機だったが、津和野は得意げに続けた。
「……さすがに全部、相殺……とはいきませんけど……これでリベンジ、いたしましたわ……!」
彼女の言葉通り、負傷者達は耐冷気の結界で守られ、命を落としていないようだ。
「さすが津和野さんね! 絶対幸せになれるように、私から出雲様に頼んでおくわ!」
「それは……嬉しゅうございますが……」
津和野は満足そうに微笑む。
「まずはこの場の方々を……どうか……!」
気を失う津和野を見つめ、鶴はぎゅっと手に力を込める。
(こんな凄い人達が、私が来るまで日本を守ってくれてたんだ……!)
そうなると、思い出すのは黒歴史である。いつもいつも手柄を吹聴して、得意になっていた自分が恥ずかしく思えた。
(なんで私、あんな子供みたいな事ばかり言ってたのかしら?)
考えてみると腑に落ちない。腑に落ちないし恥ずかしい。
それでも今は、後悔している場合じゃないのだ。
自らの放った冷気が防がれ、魔王は少なからず興味を引かれたようだった。
今は電磁過負荷で煙を上げる津和野達の機体に目をやり、他への注意は完全に削がれている。
そして魔王の足元に、眩しい光が立ちのぼった。白く巨大な光の柱、熱を発さぬ聖なる輝き。
その光に包まれた途端、魔王はがくんと動きを弱めた。
この土地でこそ最大限の力を発揮できる女神姉妹が、力を合わせた捕縛用の結界である。
「貴様ら……!?」
魔王は血走った目を見開き、その尋常ならざる力で結界を振り払おうとする。
白き光と黒い魔王、両者の力比べが始まった時。彼方に聳える愛鷹山に、凄まじい光が閃いた。
魔王が目をやると、光はどんどん輝きを増している。
次の瞬間、猛烈な速度で殺到した光は、魔王の体を叩いていたのだ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ぐっ、ううっ、うううううおおおおおっっっ!!!???」
魔王は再び雄叫びを上げた。
その身を守る強力な魔法障壁……闇の叢雲と名付けられた電磁バリアは、滅茶苦茶に形を歪めていた。
どんなに攻撃しても揺らがなかった無敵の帳が、凄まじいエネルギーを持った砲撃によって、今にも破られようとしているのだ。
余剰エネルギーは周囲にも押し寄せ、避難中の兵員達は、吹き飛ばされないよう必死に身を屈めた。
やがて爆風が粉塵を巻き上げる。ディアヌスの鎧のような外皮が砕け、バラバラと宙に舞った。
人々の力を合わせた攻撃が、間違いなく魔王の体に届いたのだ……!
「ナギっぺ、もう限界! 撃つしかないわ! 太刀の霊気は込めたから、私も行くわよ!」
「分かっている!」
岩凪姫が答えると、鶴の眼前に金髪の女性が映った。
濃い緑の軍用ジャケットに身を包んだ彼女は、第5船団の戦闘指揮官である雪菜だ。
「雪菜よ、まだ最適な場所ではないが、私と妹が魔王を止める。すぐに攻撃だ」
岩凪姫の言葉に、雪菜は素早く敬礼した。
「了解しました!」
雪菜は振り返り、手早く皆に指示を出す。
そこで船団長の伊能が口を挟んだ。
「難しいだろうが、予定より気持ち上気味にしてくれ。足元の隊が死なねえようにな」
「了解しました!!」
兵達は勢いよく答える。
映像で彼らの様子を見守りながら、鶴はコマにも呼びかけた。
「コマ、もっと全速力で! さっき力を使ったから、今は転移が出来ないの!」
「これで精一杯だ!」
虎ほどに巨大化したコマは、懸命に大地を蹴って山肌を駆け下りていく。
だが魔王の掲げる光球は、今にも破裂しそうである。
もしあれが放たれれば、負傷者達は全滅だ。危険を顧みず、勇敢に魔王を足止めしてくれた多くの若者達が失われてしまう。
そして魔王の術は強い輝きを放った。炸裂してしまった……遠くてはっきりとは分からないが、恐らくは冷気の術か?
だがその時、ふと弱々しい声が脳裏に響いた。
「冷気……だけなら、こんなものですわ……!」
「えっ……?」
鶴は目を丸くした。
意識を集中し、その人の気を感じ取ると、眼前に1人の女性が映し出された。
歳は20代の後半ぐらい。
長い髪を病人のように顔の横で結び、浴衣のみを身につけている。そして手にも首にも頭にも、白い包帯がぐるぐる巻きになっていた。
一目で重症だと分かるその女性こそ、鶴が北陸で共に戦ったパイロット……そして全神連・西国本部に所属する津和野であった。
「津和野さん! 津和野さんね!」
鶴が叫ぶと、津和野は頷く。
「……これは姫様。遅くなって申し訳ありません」
津和野の両脇には、それぞれ湖南と才次郎の姿が映った。
「……まったく、無茶もいいとこですよ。そう思いませんか、姫様?」
「ほんとだよ……予備の機体に、無理やりあれをくっつけてさ」
2人はほとんど泣いていた。
鶴が思念で機体を映し出すと、3体の人型重機の背中に、無理やり注連縄のような巨大な属性添加機が据え付けられている。
いや、背中だけではなく、両腕にも足にも。形状も型番も不ぞろいな属性添加機が輝いていた。
今は電磁過負荷で焼きつき、煙を上げる添加機だったが、津和野は得意げに続けた。
「……さすがに全部、相殺……とはいきませんけど……これでリベンジ、いたしましたわ……!」
彼女の言葉通り、負傷者達は耐冷気の結界で守られ、命を落としていないようだ。
「さすが津和野さんね! 絶対幸せになれるように、私から出雲様に頼んでおくわ!」
「それは……嬉しゅうございますが……」
津和野は満足そうに微笑む。
「まずはこの場の方々を……どうか……!」
気を失う津和野を見つめ、鶴はぎゅっと手に力を込める。
(こんな凄い人達が、私が来るまで日本を守ってくれてたんだ……!)
そうなると、思い出すのは黒歴史である。いつもいつも手柄を吹聴して、得意になっていた自分が恥ずかしく思えた。
(なんで私、あんな子供みたいな事ばかり言ってたのかしら?)
考えてみると腑に落ちない。腑に落ちないし恥ずかしい。
それでも今は、後悔している場合じゃないのだ。
自らの放った冷気が防がれ、魔王は少なからず興味を引かれたようだった。
今は電磁過負荷で煙を上げる津和野達の機体に目をやり、他への注意は完全に削がれている。
そして魔王の足元に、眩しい光が立ちのぼった。白く巨大な光の柱、熱を発さぬ聖なる輝き。
その光に包まれた途端、魔王はがくんと動きを弱めた。
この土地でこそ最大限の力を発揮できる女神姉妹が、力を合わせた捕縛用の結界である。
「貴様ら……!?」
魔王は血走った目を見開き、その尋常ならざる力で結界を振り払おうとする。
白き光と黒い魔王、両者の力比べが始まった時。彼方に聳える愛鷹山に、凄まじい光が閃いた。
魔王が目をやると、光はどんどん輝きを増している。
次の瞬間、猛烈な速度で殺到した光は、魔王の体を叩いていたのだ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ぐっ、ううっ、うううううおおおおおっっっ!!!???」
魔王は再び雄叫びを上げた。
その身を守る強力な魔法障壁……闇の叢雲と名付けられた電磁バリアは、滅茶苦茶に形を歪めていた。
どんなに攻撃しても揺らがなかった無敵の帳が、凄まじいエネルギーを持った砲撃によって、今にも破られようとしているのだ。
余剰エネルギーは周囲にも押し寄せ、避難中の兵員達は、吹き飛ばされないよう必死に身を屈めた。
やがて爆風が粉塵を巻き上げる。ディアヌスの鎧のような外皮が砕け、バラバラと宙に舞った。
人々の力を合わせた攻撃が、間違いなく魔王の体に届いたのだ……!
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
彩雲華胥
柚月なぎ
BL
暉の国。
紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。
名を無明。
高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。
暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。
※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。
※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。
※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる