上 下
82 / 110
第四章その8 ~ここでお別れです~ 望月カノンの恩返し編

赤い毒リンゴ

しおりを挟む
 奮闘する七月姫を眺めながら、紫蓮は尋ねた。

「……剛角、お主なら姫に勝てるか?」

 剛角は神妙な面持ちで首を振った。

「……いや、無理だ。紫蓮は?」

「わしもよ。血のせいか戦いたいとも思わん」

 紫蓮はどこか見とれるように、七月姫の姿を見つめた。

「さすがは双角天様の直系……しかも最も色濃く血が目覚めたお方。本来ならば、わしらが歯向かう相手ではない」

 だから周囲の一族も動けない。本能的に従うべき王だと分かっているからだ。

 そこで紫蓮は我に返り、傍らの刹鬼姫に言った。

「……い、いや、別に刹鬼姫にあてつけたわけではないぞ?」

「ふん……分かっている。私はもともと器ではない」

 刹鬼姫は腕組みしたまま、自嘲の笑みを浮かべた。

「……本来であれば、我らのおさとなるべき女。だからこそ、古鬼どもは恐れたのだ。地位をおびやかされないよう、縛ろうとしたのだろうな……」

 刹鬼姫は、そこで手の平の宝珠ほうじゅに目を落とした。小ぶりの林檎りんごほどのそのたまは、赤い光を放って輝いている。

 それを持つ刹鬼姫の手は、今はかすかに震えていた。

(無理もないか……)

 紫蓮は彼女の内心を察した。

(実の姉に……しかもたった1人で戦う勇者にあれを使う。それがどれだけ鬼の誇りを傷つけるか……)

 それは紫蓮にも痛いほど分かる。

(あの黒人形は、まだ相手に戦う自由がある。じゃがこれは根本的に違う……卑怯者の腰抜けの所業わざよ)

 だがそこで耐えかねたのか、虚空に五老鬼が映し出された。今度はしくじらぬよう、戦いの一部始終を見届けていたのだろう。

「どうした、早くそれを使え!」

 五老鬼は強い口調で刹鬼姫をきつけた。

「お前は長になる身だ、一族がどうなってもいいのか!?」

「…………っ!」

 刹鬼姫は手を震わせ、まだ迷っているようだ。

「……姫よ、辛ければわしが代わるぞ?」

 紫蓮が言うと、刹鬼姫ははっとしたように顔を上げた。

 それからぶるぶると首を振る。

「私は次の長となる身だ……私がやらんで何とする……!」

 刹鬼姫が再び片手で刀印を作ると、赤い珠はその輝きを増したのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪の組織にいたらしい女の子が好みだったので、同居することにしました。

四季
キャラ文芸
平凡な高校生女子の浅間 日和 (あさま ひより) は、ある日の帰り道、エメラルドグリーンの髪と瞳が印象的な少女と出会う。 「何かあったの? 大丈夫?」 日和が声をかけた少女の名はリリィ。 素直になりきれない彼女は、かつて悪の組織にいたらしい。 これは、一緒に暮らし始める日和とリリィの、基本のんびりまったりな日常。

午後の紅茶にくちづけを

TomonorI
キャラ文芸
"…こんな気持ち、間違ってるって分かってる…。…それでもね、私…あなたの事が好きみたい" 政界の重鎮や大御所芸能人、世界をまたにかける大手企業など各界トップクラスの娘が通う超お嬢様学校──聖白百合女学院。 そこには選ばれた生徒しか入部すら認められない秘密の部活が存在する。 昼休みや放課後、お気に入りの紅茶とお菓子を持ち寄り選ばれし7人の少女がガールズトークに花を咲かせることを目的とする──午後の紅茶部。 いつも通りガールズトークの前に紅茶とお菓子の用意をしている時、一人の少女が突然あるゲームを持ちかける。 『今年中に、自分の好きな人に想いを伝えて結ばれること』 恋愛の"れ"の字も知らない花も恥じらう少女達は遊び半分でのっかるも、徐々に真剣に本気の恋愛に取り組んでいく。 女子高生7人(+男子7人)による百合小説、になる予定。 極力全年齢対象を目標に頑張っていきたいけど、もしかしたら…もしかしたら…。 紅茶も恋愛もストレートでなくても美味しいものよ。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

麻布十番の妖遊戯

酒処のん平
キャラ文芸
麻布十番の三叉路に、夜な夜な現れる古民家がある。 彼らは江戸より前からこの世に住み、人に紛れて毎日を楽しんでいた。 しかし、そんな彼らも長くこの世に居過ぎたせいか、 少々人の世にも飽きてきた。 そんなときに見つけた新しい楽しみ。 【人】ではなく、【霊】を相手にすることだった。 彷徨える霊の恨みをきれいさっぱり取り祓うかわりに 死に樣を話してくれと。 それを肴に話に花を咲かせたい。 新しい遊戯を発見した彼らが出会う【霊】とはいかなるものか。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

職員室の異能者共

むらさき
キャラ文芸
とある中学校の職員室。 現代社会における教師たちの生活において、異能は必要でしょうか。いや、必要ありません。 しかし、教師達は全て何らかの異能力者です。 それは魔法使いだったり、召喚士だったり、人形遣いだったり。 二年生の英語科を担当するヤマウチを中心とした、教師たちの日常を淡々と書いた作品です。 ほとんど毎回読み切りとなっているので、どれからでもどうぞ。 生徒はほとんど出てきません。 こっそりとゲーム化中です。いつになることやら。

限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです 第一部 中学一年生編

釈 余白(しやく)
キャラ文芸
 現代日本と不釣り合いなとある山奥には、神社を中心とする妖討伐の一族が暮らす村があった。その一族を率いる櫛田八早月(くしだ やよい)は、わずか八歳で跡目を継いだ神職の巫(かんなぎ)である。その八早月はこの春いよいよ中学生となり少し離れた町の中学校へ通うことになった。  妖退治と変わった風習に囲まれ育った八早月は、初めて体験する普通の生活を想像し胸を高鳴らせていた。きっと今まで見たこともないものや未体験なこと、知らないことにも沢山触れるに違いないと。  この物語は、ちょっと変わった幼少期を経て中学生になった少女の、非日常的な日常を中心とした体験を綴ったものです。一体どんな日々が待ち受けているのでしょう。 ※外伝 ・限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです  https://www.alphapolis.co.jp/novel/398438394/874873298 ※当作品は完全なフィクションです。  登場する人物、地名、、法人名、行事名、その他すべての固有名詞は創作物ですので、もし同名な人や物が有り迷惑である場合はご連絡ください。  事前に実在のものと被らないか調べてはおりますが完全とは言い切れません。  当然各地の伝統文化や催事などを貶める意図もございませんが、万一似通ったものがあり問題だとお感じになられた場合はご容赦ください。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません

柊木 ひなき
恋愛
旧題:ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~ 【初の書籍化です! 番外編以外はレンタルに移行しました。詳しくは近況ボードにて】 「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

処理中です...