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第四章その7 ~急転直下!~ 始まりの高千穂研究所編

地の底へ続く参道

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 2人の乗る心神は、研究棟内部をひた進んだ。

 こうした施設に詳しくないカノンが見ても、その通路は異様なほどの巨大さである。人型重機の心神が、浮かんで移動できるだけの余裕があるのだ。

 当時は実験機器も馬鹿でかかったから、こうした搬入口も巨大なのだろうか。

 心神の各部ライトが前方を照らしているが、通路はほぼ闇に閉ざされていた。

 緩やかに傾斜しながら下っていく様は、あたかも地球の深淵しんえんに向かって沈み込んでいくかのようだ。

(まるで黄泉比良坂よもつひらさかね……)

 死者が通るという黄泉の入り口を想像し、カノンは慌てて首を振った。

(だっ、駄目駄目、ここは思いを吸い取る場所だもん。もっと縁起のいい事考えないと……!)

 色々悩んだ挙句、出雲大社の参道が思い浮かんだ。昔途中まで行った尊い社の参道は、こんなふうに緩やかに下っていたはずだ。

(そうそう、出雲大社の参道よ。あそこは凄いお社だし、それなら縁起が……)

 カノンはそこまで考えて、ふと寂しい気分になった。

 松の立ち並ぶ参道を、「どんなご縁をお願いするの?」などと言いながら、人々は楽しげに下っていく。自分はそれを、うらやましげに見送っていたのだ。

 縁結びの大神様が待つ出雲大社そこは、けがれた自分がもうでていい場所ではない。いくら焦がれて祈っても、この身が報われる事は決して無いのだ。

 そう思い、きびすを返して逃げ帰って来た。当時はまだ着物だったし、人間ふうにスソの長いその着衣を、随分走りにくく感じたものだ。



「…………」

 かつての絶望感を思い出すカノンだったが、そこで再び腰に違和感を感じた。

 振り返り、片手で腰まわりの布を引っ張る。やはり背が伸びているのか、それともあちこち成長しているのか?

 破らないように引っ張っているうち、カノンはふと思い出した。

 遠い昔、同じような刺激があったような気がするのだ。
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