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第四章その7 ~急転直下!~ 始まりの高千穂研究所編

もう1体いる?

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 鶴達から勝利の連絡を受け、誠は思わず声を上げた。

「すっ、すごいなヒメ子! それにみんなも!」

 あの強力無比な闇の神人、無敵とも思われた鳳天音おおとりあまねに勝利した。それも誰1人失う事なく、こちらの損害はおとりの車両や旧型艦だけだ。

 はっきり言って、想像以上の大勝利である。

 賛辞が止まらぬ誠に対し、鶴はすまして胸を張った。

「そうなのそうなの、みんなも相当がんばったのよ。でもこの鶴ちゃんも凄かったわ。あれほど凛々しく真面目な私は、誰も見た事が無いでしょうね。ええ、黒鷹にも見せてあげたかったわ」

「そ、そりゃぜひ見たかったけどさ……」

 話を盛ってるよ、と書いたプラカードを掲げたコマを見て、誠はつい苦笑した。

 そう言えばいつの間にか鶴の髪がまた伸びて、ポニーテールになっていたのだ。

 雰囲気も変わり、すごく綺麗に…………大人びて見えるのだが、中身は成長してないようだ。

「でもほんと、よく勝てたな。これで作戦を見破られる事も無いと思う。出来る事は全部やれたんだ」

「あとは魔王を、ちょちょいのちょいとやっつけるだけよ。それじゃ黒鷹、戻ってからもっと詳しく、鶴ちゃんの活躍を伝えるわね!」

 鶴はそう言って通信画面から消えた。



「…………」

 誠は暗転した画面を見つめ、大きく息をついた。

 厳しい賭けだったが、ようやく1つ成し遂げた。

 自分は大雑把な作戦を立てただけだったし、現場で起きた沢山の出来事を、皆が必死で乗り越えてくれたおかげだ。

 鶴の様子は、ふざけて明るく振る舞っているような気もするし、勝利でテンションが上がり過ぎているようにも見える。あの闇の神人は、鶴にとってもそれ程の強敵だったのだ。

 だがその鳳天音も、魔王ディアヌスとは大きく力の隔たりがあるだろう。やがて迫り来るあの魔王に、果たしてこちらの策が通用するだろうか……?

「……まだ何か心配事かな? 迷える学徒よ」

 振り返ると、筑波が後ろに立っていた。

「今は考えてもしょうがないだろ。出来る事は全部やってる。我がモルモッ……教え子達もいるし、いざとなれば震天だってあるからな」

 筑波のはげましに内心感謝し、誠は気持ちを切り替える。

「そうですね。それで、ディアヌスは今どの辺ですかね」

「待ってろ……今この辺りだ。山がちだから減速してるな。さすがに歩きにくいんだろう」

 筑波はPCのキーボードを叩き、モニターに魔王の現在地を表示させた。魔王を示す赤い光点は、日本アルプスの南端を通過中。既に旧静岡県に入っている。

「魔王は暗雲を連れて来るし、足音でも観測してるからな。あんだけでかい体だから、震度計でバッチリだ」

 筑波は更にモニター上に、各地の震度計情報を表示した。

 誠が見入ると、確かにディアヌス復活から現在までの足跡そくせきは、あまさず補足出来ているようだ。

(念のため、この近辺以外ももっかい見とくか。もしかしたら、北陸で戦ったみたいな分身がいるかも知れないし……)

 誠はさっとデータを見直す。やはり特に異常は…………

「……っ!!?」

 誠はそこで動きを止めた。

 目で見た情報を脳が理解し、喉が動くまで数秒のタイムラグがあったが、誠はようやく言葉をしぼり出した。

「……っつ、筑波さん。ディアヌスが復活した時……祭神の様子は……どうだったんでしょう」

「ん? そりゃあ大騒ぎだろ。自分達を殺そうとしてる魔王の復活だからな」

 誠はそこで画面を指差した。興奮のためか、指は少し震えている。

「じゃ、じゃあ…………この九州の反応、どう見ます?」

「ん、九州? ゼノファイアのか?」

 筑波は画面を覗き込み、そこで表情を険しくした。

「こ、こりゃあ………おかしいな」

 彼は急に真剣になり、キーボードを忙しく操作する。

「九州の内陸部に震源……それもディアヌス復活と完全に同期リンクしてる。でも当時、ゼノファイアは鹿児島湾の……旗艦のきりしまにいたはずだ。なんでこんな内陸に……」

 モニターに映し出された詳細な震源地図は、旧宮崎県の内陸部。つまり、かつての高千穂研究所の辺りを示していた。

「ずっと魔王に気を取られてたが……まだ高千穂の下に、何か強い力を持ったもんがいるって事か? それもディアヌスの復活に怯える、祭神と似た存在が……」

「もしかしてそれは…………」

 誠が言いかけると、筑波は頷いた。

「恐らくは……テンペストだ……!」
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