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第四章その6 ~いざ勝負!~ VS闇の神人編
女神への当てつけ
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ほぼ同時刻。
女神・木花佐久夜姫は、霊峰富士の頂に浮かんでいた。
全身を白く清らかな……しかし膨大な霊気で包み、髪や着衣がゆっくりと揺らめいている。
山全体の力が女神に宿り、また女神の力が山麓に駆け巡っていく。ぐるぐる巡る凄まじい霊気の循環は、時を重ねる事に激しさを増していった。
この霊気で結界を張り、ディアヌスを縛るのが目的であるが、当の佐久夜姫は、眼前に映し出される映像に気を取られていた。
「あれって、もしかして……」
佐久夜姫の言葉に、傍らに立つ岩凪姫が答えた。
「天之破魔弓……あからさまな当て付けだな。私の術を真似ているのだ」
岩凪姫は眉間に少し皺を寄せた。
「恐ろしい弟子に育ったものだ。本来なら、私がこの手で倒すべきなのだろうが……」
「あの邪気の中で、清浄な神々では長く動けないわ」
佐久夜姫はそう言って首を振った。
清い気の中で邪神が長く居られないように、邪気に溢れた現世では、善なる神々が長時間戦う事は難しい。
「あの子達を信じましょう。そう決めたんでしょう?」
佐久夜姫の言葉に、姉神は静かに頷くのだった。
「凄く濃い邪気を練ってきたね。まるで邪気の溶岩みたいだ」
雲上に浮かぶ闇の神人を見据え、狛犬のコマは感想を述べた。
今は子犬ぐらいの大きさになったコマは、鶴の肩に乗って後ろ足で立っている。
偵察がてら、遠間からこっそり相手を覗き見た鶴とコマは、見つからないうちに雲の中へと身を隠した。
「あれだけ濃い邪気なら、もう触手みたいなもんだ。いくら気の海に潜っても、触られた時点でバレちゃうよ」
コマは困ったように言うが、鶴は首を振った。
「でもコマ、濃いおかげで逆にバッチリ見えるわ。目をつぶっていても邪気の動きが分かるわよ」
「なんだかえらく前向きだね」
コマは珍しく感心している。
この隙にもっと感心させるべく話を盛っても良かったのだが、今はそれどころではない。
鶴はそっと胸の前で手を合わせると、半透明の立体地図を表示させた。
いつもお馴染み、敵の動きを映し出す道和多志の大鏡であるが、その半透明の地図上に、敵の邪気の広がりがくっきりと示されている。
大量の黒い邪気が、とろみのある液体のように広がって、山肌を駆け下り、またのぼっていく。くまなく地形を撫で回し、雲下に潜む者を探しているのだ。
そこで何かの気配を感じ取ったのか、黒いエネルギーの矢が、天下る龍のように駆け下りていく。そのまま大地に炸裂し、周囲一帯の木々を溶け崩れさせた。
コマは警戒しつつ感想を述べた。
「凄い威力だな。天之破魔弓を真似てるんだ。見つかったら避けるしかないけど……たぶん、そんな何回も避けられないよ」
鶴もその威力は想像がつく。
大威力の邪気を、矢のように、流星のように鋭く放つ技。
恐ろしく速く、かつある程度目標を追尾するため、極めて厄介な攻撃だ。
本来なら警戒すべき事態なのであろうが、鶴は自分でも怒りが沸いてくるのを感じた。
「……前に習ったわ、ナギっぺの技よね」
ぎゅっと強く拳を握り締め、鶴は呟く。
「……なんでかな。なんだかちょっと、腹が立つわ……!」
女神・木花佐久夜姫は、霊峰富士の頂に浮かんでいた。
全身を白く清らかな……しかし膨大な霊気で包み、髪や着衣がゆっくりと揺らめいている。
山全体の力が女神に宿り、また女神の力が山麓に駆け巡っていく。ぐるぐる巡る凄まじい霊気の循環は、時を重ねる事に激しさを増していった。
この霊気で結界を張り、ディアヌスを縛るのが目的であるが、当の佐久夜姫は、眼前に映し出される映像に気を取られていた。
「あれって、もしかして……」
佐久夜姫の言葉に、傍らに立つ岩凪姫が答えた。
「天之破魔弓……あからさまな当て付けだな。私の術を真似ているのだ」
岩凪姫は眉間に少し皺を寄せた。
「恐ろしい弟子に育ったものだ。本来なら、私がこの手で倒すべきなのだろうが……」
「あの邪気の中で、清浄な神々では長く動けないわ」
佐久夜姫はそう言って首を振った。
清い気の中で邪神が長く居られないように、邪気に溢れた現世では、善なる神々が長時間戦う事は難しい。
「あの子達を信じましょう。そう決めたんでしょう?」
佐久夜姫の言葉に、姉神は静かに頷くのだった。
「凄く濃い邪気を練ってきたね。まるで邪気の溶岩みたいだ」
雲上に浮かぶ闇の神人を見据え、狛犬のコマは感想を述べた。
今は子犬ぐらいの大きさになったコマは、鶴の肩に乗って後ろ足で立っている。
偵察がてら、遠間からこっそり相手を覗き見た鶴とコマは、見つからないうちに雲の中へと身を隠した。
「あれだけ濃い邪気なら、もう触手みたいなもんだ。いくら気の海に潜っても、触られた時点でバレちゃうよ」
コマは困ったように言うが、鶴は首を振った。
「でもコマ、濃いおかげで逆にバッチリ見えるわ。目をつぶっていても邪気の動きが分かるわよ」
「なんだかえらく前向きだね」
コマは珍しく感心している。
この隙にもっと感心させるべく話を盛っても良かったのだが、今はそれどころではない。
鶴はそっと胸の前で手を合わせると、半透明の立体地図を表示させた。
いつもお馴染み、敵の動きを映し出す道和多志の大鏡であるが、その半透明の地図上に、敵の邪気の広がりがくっきりと示されている。
大量の黒い邪気が、とろみのある液体のように広がって、山肌を駆け下り、またのぼっていく。くまなく地形を撫で回し、雲下に潜む者を探しているのだ。
そこで何かの気配を感じ取ったのか、黒いエネルギーの矢が、天下る龍のように駆け下りていく。そのまま大地に炸裂し、周囲一帯の木々を溶け崩れさせた。
コマは警戒しつつ感想を述べた。
「凄い威力だな。天之破魔弓を真似てるんだ。見つかったら避けるしかないけど……たぶん、そんな何回も避けられないよ」
鶴もその威力は想像がつく。
大威力の邪気を、矢のように、流星のように鋭く放つ技。
恐ろしく速く、かつある程度目標を追尾するため、極めて厄介な攻撃だ。
本来なら警戒すべき事態なのであろうが、鶴は自分でも怒りが沸いてくるのを感じた。
「……前に習ったわ、ナギっぺの技よね」
ぎゅっと強く拳を握り締め、鶴は呟く。
「……なんでかな。なんだかちょっと、腹が立つわ……!」
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