53 / 110
第四章その5 ~さあ反撃だ!~ やる気満々、決戦準備編
この国の未来をかけた決戦準備
しおりを挟む
いよいよ決戦準備が始まった。
祭神を乗せた各船団の旗艦は、敵に悟られぬよう遠回りしながら、最終的には相模湾に……旧静岡県・熱海市の沖合いに集結する事になっている。
陸上では、既に愛鷹山山頂に砲座が築かれ、巨大な属性添加機の『京』、そして長距離砲の『摩州』が設置されていた。
そこから熱海までエネルギー伝導ケーブルが引かれ、相模湾に来た各船団の旗艦へと接続されるのである。
もちろん全てが突貫工事のため、全国から大勢の技術者が駆けつけ、懸命に作業に取り組んでくれていた。
それはかつて幾度もこの国を襲った大災害において、日本中が協力してきた姿と似ている。
人々のヘルメットは泥に塗れ、油の付いた頬を作業服でぬぐう。皆が己の使命に燃えて、迅速に作業をこなしていく。
普段は銃後の支えに徹する作業員達だったが、今は彼らこそが頼りだ。軟弱地盤や崩落部の対処など、現場で発生するあらゆる想定外の問題を、知恵と経験で解決してくれている。
全てはあの魔王を倒すために、そしてこの10年に及ぶ絶望を終わらせるために。物言わぬ多くの人々の情熱が、列島そのものを熱く燃え上がらせるようだった。
各種作業を見守っていた船団長の伊能は、手で帽子の位置を直しながら笑みを浮かべた。
「……皮肉なもんじゃねえか。あの魔王のおかげで、いがみ合ってた船団同士が1つになっ
てる。こうなった時の日本は強えぜ?」
震天の調整作業につきっきりの誠も、身が引き締まる思いだった。
格納庫に横たわる震天……全長100メートルに及ぶ超巨大な人型重機は、特殊な人工筋肉、そして高性能な属性添加機を多数備えた怪物である。
更に機体の中枢には、各船団の祭神が力を凝縮して生み出した分身とも言える、濃縮結晶細胞が納められている。
結晶を環状細胞装填庫に収め、回転・通電して共鳴させると、相乗効果で特殊な電磁エネルギーが発生。
それを人工筋肉に流す事で、まるで雷を帯びた雷神のように、爆発的な筋力強化が可能だった…………が、現時点で無視出来ない問題もあった。
各結晶からのエネルギーを調律する際、バランスが乱れて頻繁に機能停止に陥る事と、消滅した祭神・テンペストの細胞が欠けているため、魔王の力に及ばない可能性がある事だ。
現時点では7つ目の環状細胞装填庫に、人工的な結晶細胞を収めているものの、無理やり作り上げた『擬似結晶テンペスト』は出力が安定せず、すぐにパワーダウンしてしまう。
「やはりいかん……擬似結晶のテンペストは使わず、6つでバランスを取るしかないか。安定を求めるなら、最初から7個目の装填庫は取った方がいいかもな」
筑波は画面の出力変遷図を見ながら呟くが、誠はそこで口を挟んだ。
「筑波さん、まだ残しておきませんか。相手はディアヌス……実際に戦って思いましたが、とんでもない格上です。最初から安定を狙って勝てるとは思えません」
「……そうか、そうだな。つい弱気になっちまった、俺らしくもない」
筑波は頭をくしゃくしゃと掻いて、白衣のポケットに手を突っ込んだ。
「二風谷氏の娘さんがいたら、チョップされる所だった。名前は何だったかな」
「ひよりちゃんとなぎさちゃんです。てか、その件いい加減忘れて下さいよ」
誠は苦笑しながら答える。
第5船団に勤めるひよりとなぎさ姉妹は、北海道を管轄する第1船団の長の娘である。
かなり昔、神武勲章隊と誠達が北海道遠征した際に顔見知りになり、関東にまでついて来た。更に誠達が第5船団に移動すると、なぜか2人もやって来たわけだ。
理由は分からないが、そう言えば彼女達は雪菜によく懐いていた。
誠が弱気になったりすると、チョップをちらつかせて元気付けてくれる姉妹は、今この場にはいない。いないはずなのだが……油断した筑波氏の後頭部に、そっと手刀が添えられる。
誠達が振り返ると、パイロットスーツ姿の海老名が立っていた。
「こりゃー海老名くん。今日はいつもより手加減してるな」
「それは……今日は真面目に頑張ってるからです」
海老名は赤い顔で呟いた。
「また弱音を吐いたら強めにいきますから、いつでもどうぞ?」
「……そうか。それじゃ怖気づいたら頼むわ」
筑波は微笑んで海老名の頭をポンポン叩いたが、そこで格納庫内に注意喚起の放送が響いた。
どうやら付近の離着陸場に、航空機が降下してくるようだ。
それも一機だけではない。各地の船団から、続々と増援勢力が降り立っているのだ。
航空機の傾斜路扉が開くと、中から数体の人型重機が降りてくる。
1機は長い槍を持ち、次の1機はやや小柄で2刀流。最後の1機は、他の2機よりもかなり大きく、巨大な砲を携えていた。
「あれって……もしかしなくても小牧隊か?」
誠が呟いた途端、傍のモニターに気の強そうな少女が映った。
長い髪をオールバックにした小牧千春は、嬉しそうに語りかけてくる。
「よっ、久しぶりだね、鳴瀬の大将。四国じゃ世話になったけど、こっちはあたしらのホームグラウンドだから。何でも任せてよ」
「やっほー、あたしと玄太も来てるよ~!」
「やめろこころっ、俺の機体ぶら下げるなって! うわ、振り回すな!」
画面が分割され、おっとりした巨体の少女・清水こころと、彼女に振り回される武田玄太が映し出される。
だが助っ人は、彼女達だけではなかったのだ。
祭神を乗せた各船団の旗艦は、敵に悟られぬよう遠回りしながら、最終的には相模湾に……旧静岡県・熱海市の沖合いに集結する事になっている。
陸上では、既に愛鷹山山頂に砲座が築かれ、巨大な属性添加機の『京』、そして長距離砲の『摩州』が設置されていた。
そこから熱海までエネルギー伝導ケーブルが引かれ、相模湾に来た各船団の旗艦へと接続されるのである。
もちろん全てが突貫工事のため、全国から大勢の技術者が駆けつけ、懸命に作業に取り組んでくれていた。
それはかつて幾度もこの国を襲った大災害において、日本中が協力してきた姿と似ている。
人々のヘルメットは泥に塗れ、油の付いた頬を作業服でぬぐう。皆が己の使命に燃えて、迅速に作業をこなしていく。
普段は銃後の支えに徹する作業員達だったが、今は彼らこそが頼りだ。軟弱地盤や崩落部の対処など、現場で発生するあらゆる想定外の問題を、知恵と経験で解決してくれている。
全てはあの魔王を倒すために、そしてこの10年に及ぶ絶望を終わらせるために。物言わぬ多くの人々の情熱が、列島そのものを熱く燃え上がらせるようだった。
各種作業を見守っていた船団長の伊能は、手で帽子の位置を直しながら笑みを浮かべた。
「……皮肉なもんじゃねえか。あの魔王のおかげで、いがみ合ってた船団同士が1つになっ
てる。こうなった時の日本は強えぜ?」
震天の調整作業につきっきりの誠も、身が引き締まる思いだった。
格納庫に横たわる震天……全長100メートルに及ぶ超巨大な人型重機は、特殊な人工筋肉、そして高性能な属性添加機を多数備えた怪物である。
更に機体の中枢には、各船団の祭神が力を凝縮して生み出した分身とも言える、濃縮結晶細胞が納められている。
結晶を環状細胞装填庫に収め、回転・通電して共鳴させると、相乗効果で特殊な電磁エネルギーが発生。
それを人工筋肉に流す事で、まるで雷を帯びた雷神のように、爆発的な筋力強化が可能だった…………が、現時点で無視出来ない問題もあった。
各結晶からのエネルギーを調律する際、バランスが乱れて頻繁に機能停止に陥る事と、消滅した祭神・テンペストの細胞が欠けているため、魔王の力に及ばない可能性がある事だ。
現時点では7つ目の環状細胞装填庫に、人工的な結晶細胞を収めているものの、無理やり作り上げた『擬似結晶テンペスト』は出力が安定せず、すぐにパワーダウンしてしまう。
「やはりいかん……擬似結晶のテンペストは使わず、6つでバランスを取るしかないか。安定を求めるなら、最初から7個目の装填庫は取った方がいいかもな」
筑波は画面の出力変遷図を見ながら呟くが、誠はそこで口を挟んだ。
「筑波さん、まだ残しておきませんか。相手はディアヌス……実際に戦って思いましたが、とんでもない格上です。最初から安定を狙って勝てるとは思えません」
「……そうか、そうだな。つい弱気になっちまった、俺らしくもない」
筑波は頭をくしゃくしゃと掻いて、白衣のポケットに手を突っ込んだ。
「二風谷氏の娘さんがいたら、チョップされる所だった。名前は何だったかな」
「ひよりちゃんとなぎさちゃんです。てか、その件いい加減忘れて下さいよ」
誠は苦笑しながら答える。
第5船団に勤めるひよりとなぎさ姉妹は、北海道を管轄する第1船団の長の娘である。
かなり昔、神武勲章隊と誠達が北海道遠征した際に顔見知りになり、関東にまでついて来た。更に誠達が第5船団に移動すると、なぜか2人もやって来たわけだ。
理由は分からないが、そう言えば彼女達は雪菜によく懐いていた。
誠が弱気になったりすると、チョップをちらつかせて元気付けてくれる姉妹は、今この場にはいない。いないはずなのだが……油断した筑波氏の後頭部に、そっと手刀が添えられる。
誠達が振り返ると、パイロットスーツ姿の海老名が立っていた。
「こりゃー海老名くん。今日はいつもより手加減してるな」
「それは……今日は真面目に頑張ってるからです」
海老名は赤い顔で呟いた。
「また弱音を吐いたら強めにいきますから、いつでもどうぞ?」
「……そうか。それじゃ怖気づいたら頼むわ」
筑波は微笑んで海老名の頭をポンポン叩いたが、そこで格納庫内に注意喚起の放送が響いた。
どうやら付近の離着陸場に、航空機が降下してくるようだ。
それも一機だけではない。各地の船団から、続々と増援勢力が降り立っているのだ。
航空機の傾斜路扉が開くと、中から数体の人型重機が降りてくる。
1機は長い槍を持ち、次の1機はやや小柄で2刀流。最後の1機は、他の2機よりもかなり大きく、巨大な砲を携えていた。
「あれって……もしかしなくても小牧隊か?」
誠が呟いた途端、傍のモニターに気の強そうな少女が映った。
長い髪をオールバックにした小牧千春は、嬉しそうに語りかけてくる。
「よっ、久しぶりだね、鳴瀬の大将。四国じゃ世話になったけど、こっちはあたしらのホームグラウンドだから。何でも任せてよ」
「やっほー、あたしと玄太も来てるよ~!」
「やめろこころっ、俺の機体ぶら下げるなって! うわ、振り回すな!」
画面が分割され、おっとりした巨体の少女・清水こころと、彼女に振り回される武田玄太が映し出される。
だが助っ人は、彼女達だけではなかったのだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
名古屋錦町のあやかし料亭〜元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
櫛田こころ
キャラ文芸
名古屋は錦町。
歓楽街で賑わうその街中には、裏通りが数多くある。その通りを越えれば、妖怪変幻や神々の行き交う世界───通称・『界隈』と呼ばれる特別な空間へと足を運べてしまう。
だがそこは、飲食店や風俗店などが賑わうのは『あやかし』達も変わらず。そして、それらが雑居するとあるビルの一階にその店はあった。数名のカウンター席に、一組ほどの広さしかない座敷席のみの小料理屋。そこには、ちょっとした秘密がある。
店主が望んだ魂の片鱗とも言える『心の欠片』を引き出す客には、店主の本当の姿──猫の顔が見えてしまうのだ。
これは元地獄の補佐官だった猫が経営する、名古屋の小料理屋さんのお話。地獄出身だからって、人間は食べませんよ?
吾輩はネコである。名前はちび太。
マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
キャラ文芸
作家志望の「ご主人様」と、同居するネコの「ちび太」が織りなす
へーわでゆるーい日常。
ときどき「いもうと」。
猫の「ちび太」視点です。
しゃべれないけど言葉を解すのでちょっとだけファンタジー。
異世界転生しません。
チートありません。
天狼、ドラゴン、精霊神竜、ロボット倒しません。
荷電粒子砲うちません。
便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~
卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。
店主の天さんは、実は天狗だ。
もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。
「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。
神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。
仲間にも、実は大妖怪がいたりして。
コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん!
(あ、いえ、ただの便利屋です。)
-----------------------------
ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。
カクヨムとノベプラにも掲載しています。
異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】
ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!
下宿屋 東風荘 2
浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※
下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。
毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。
しかし、飛んで仙になるだけだと思っていた冬弥はさらなる試練を受けるべく、空高く舞い上がったまま消えてしまった。
下宿屋は一体どうなるのか!
そして必ず戻ってくると信じて待っている、残された雪翔の高校生活は___
※※※※※
下宿屋東風荘 第二弾。
龍神のつがい~京都嵐山 現世の恋奇譚~
河野美姫
キャラ文芸
天涯孤独の凜花は、職場でのいじめに悩みながらも耐え抜いていた。
しかし、ある日、大切にしていた両親との写真をボロボロにされてしまい、なにもかもが嫌になって逃げ出すように京都の嵐山に行く。
そこで聖と名乗る男性に出会う。彼は、すべての龍を統べる龍神で、凜花のことを「俺のつがいだ」と告げる。
凜花は聖が住む天界に行くことになり、龍にとって唯一無二の存在とされる〝つがい〟になることを求められるが――?
「誰かに必要とされたい……」
天涯孤独の少女
倉本凜花(20)
×
龍王院聖(年齢不詳)
すべての龍を統べる者
「ようやく会えた、俺の唯一無二のつがい」
「俺と永遠の契りを交わそう」
あなたが私を求めてくれるのは、
亡くなった恋人の魂の生まれ変わりだから――?
*アルファポリス*
2022/12/28~2023/1/28
※こちらの作品はノベマ!(完結済)・エブリスタでも公開中です。
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる