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第四章その5 ~さあ反撃だ!~ やる気満々、決戦準備編

闇の聖者をどう倒すのか

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「おおおおっ、なんかほんまにいけそうやわ!」

 難波の声を皮切りに、一同は盛り上がった。まるで一学期の終業式が終わり、夏休みを喜ぶ学生のようだ。

 筑波は腰に手を当てて笑い、ひかるは餃子のぬいぐるみでお手玉している。

 隅っこには弥太郎がいたらしく、親指を立てて誠をねぎらってくれた。

(弥太郎すまない、気付かなかった……!)

 誠も親指を立てて応えたが、そこで難波にヘッドロックされた。

「うりうり~、まったく、起きたらすぐにこうなんやもん。鳴っち、あんたほんっっっまにアホやったんやなあ!」

「うぐっ……お褒めの罵倒どうも。けどまだ問題もあるんだ」

 えっ、と一同が固まり、首を回して誠の方を見る。

 騙された、という表情であり、夏休みだと思ったら「明日から補習な!」と言われた生徒のようである。

「鳴っち、あんたほんま外道やな! ほんまにいつもいつも、うちの乙女心をもてあそびおって!」

「……い、いや、そんな事言われても。まだ一番手強い、あの闇の神人が残ってるだろ」

「………………あ、そやな……あの怖い奴か……」

 難波は急に大人しくなった。

 誠は当時気絶していたのだが、直後に難波達が駆けつけ、闇の神人・鳳天音おおとりあまねと戦ったらしい。

 しかし勝負にすらならない一方的な蹂躙じゅうりんで、こちらの部隊は壊滅。彼女が自ら退いてくれなければ、間違いなく全員この場にいなかっただろう。

 カノンの様子が少しおかしいのは、その時のダメージのせいもあるかもしれない、と誠は思った。

「ちなみにその怖ぇ人ってなんだい?」

 伊能が不思議そうに問いかけてくる。

「それは……」

 誠は鳳を横目で見たが、鳳は「お気になさらず、お願いします」と言ってくれた。

「……その、ディアヌスの加護を受けた元人間で、重機だろうが何だろうが相手になりません。しかも遠くからこっちの場所を全部見抜いて、どこまでも追いかけてくるし……いざとなれば餓霊や悪霊だって呼び出せます。たった1人で、避難区丸ごと壊滅させる力があるんです」

「ひでえな、反則だ……魔王以外に、まだそんなヤツがいるのかい」

 伊能もさすがに腕組みして眉をひそめた。

「魔王に砲撃しようにも、そいつがいたらこっちの配置が全部バレる。困ったぜ」

 誠も黙って考えた。

 一番厄介なのは、その強さより感知能力だ。本当にそう痛感した。

(こっちがどう動こうと、全部居場所を読む相手か……今までヒメ子がいただけで、敵がどれだけ攻めにくかったか分かるな……)

 座ったままうつらうつらしている鶴に目をやり、誠は内心感謝するのだったが、そこでコマが前足を上げた。

「ねえ黒鷹、それについては、少し鶴と調べたんだけどさ」

「どういう事だ?」

「黒鷹が気絶した後、僕らはあいつに吸収されて……そこで色々見てきたんだ。確かに感知範囲は長いけど、ディアヌスのエネルギーを受けて活動してるから、魔王とあまり離れられない。それに崇拝すうはいするディアヌスを守るために、あいつは必ず先に立って警戒するよ」

「ふーむ……」

 誠は頭の中で想像してみた。

 ディアヌス本体を飼い主とすると、あの闇の神人はリードの先にいる猟犬のようなものか。もちろん猟犬というには強過ぎるのだが、誠はそこで気が付いた。

(リード……触手を伸ばす……遠くから感知する相手と戦う? 確か北陸で、似たような事無かったか?)

(そうだ、あの時は逆の立場だった。こっちには鶴がいて、敵を遠くから感知できた。敵はそれを逃れようとして……何をした?)

 答えは明確。誠は少し躊躇ためらいながら口を開いた。

「……魔王より先に来るって言ったよな? だったらあいつとだけ先に戦おう……!」

 その場の一同が?マークを浮かべそうだったし、鳳も悲しむだろうが、誠はもう覚悟を決めた。

 皆を見渡し、それからコマに目を向ける。

「酷い言い方なのは分かってるけど……どうせ富士市に来るまでディアヌスを止める方法は無い。だったら先に、最後のポイント以外を開放出来ないかな」

「ええっ!?」

 コマは露骨に慌てている。

「確か能登半島で、邪気が強いと敵の居場所が見えにくかったじゃんか。だから地脈を開放して、そこらじゅう強力な気で覆ったら……あの女もこっちの位置を感知出来なくなるんじゃないかな」

「た、確かに理屈はそうだけどさ。永津様の許可が出るかな?」

 コマは両の前足を上げ、たてがみをくしゃくしゃして悩んでいるが、誠は力強く言った。

「コマに責任はかぶせない、俺が説得してみせる。地脈を開放し、溢れたエネルギーに潜って隠れて、あの女を撃退するんだ。待ち伏せの場所は……少しでも凹凸があって、隠れやすい南アルプス付近がいいか」

 そこで鳳が同意してくれた。

「名案だと思われます、黒鷹様……! 山深い所ですし、少しでも清らかな気が残っている場所。姉を止めるにはそこしかありません。いかがでしょう、船団長殿」

 内心かなり辛いだろうに、彼女の目は覚悟に満ちている。

「……南アルプスでその女を止めて、富士市で魔王を待ち伏せするわけか。とんでもない2連戦だが、どのみち黙ってたらこっちの負けだもんなぁ」

 伊能は口元に不敵な笑みを浮かべ、やはり手で帽子の位置を直した。そうするのが癖になっているのか、もしかしたらサイズの違う形見なのか。

「よっしゃ、この俺が全面的にバックアップするぜ。筑波、参謀方にはお前から話せ。試算してすぐに迎撃準備だが、情報は最重要機密扱い、絶対に漏らすなよ」

「了解した」

 筑波は立ち上がり、白衣をなびかせて退出していく。海老名はついていくかどうか迷っていたが、諦めて顔を伏せた。

 少し顔が赤いような気がするが、そこで伊能は立ち上がった。

「任しとけあんちゃん。日本がバラバラに砕けるなんて、そんなのまっぴら御免だぜ。自分の地図が無意味になっちゃ、ご先祖様が可愛そうだからな」

「よろしくお願いします!!」

 誠は姿勢を正し、伊能に一礼。それから鳳に向き直る。

「鳳さん、あの神殿に……永津彦さんに会えないでしょうか。さっきの許可を貰いたいから」

「わ、分かりました。すぐに打診いたします……!」

 鳳が頷くと、鶴が目をこすりながら誠の傍に来た。

「ヒメ子、まだ寝てていいぞ。ヒメ子が一番大変だし、戦いっぱなしで疲れてるだろ」

「もう平気よ。よく分からないけど、神殿だったら私も行くわ」

「……分かった。ありがとう」

 誠は鶴に感謝する。

 自分はただの人間だし、鶴のように霊的に身分が高いわけではない。鶴がいなければ、永津彦に謁見えっけんする事は叶わないのかもしれない。

 それでも誠は力を込めて言った。

「でも、今回ヒメ子は座ってるだけでいい。今度は俺がお願いするから……!」

 コマも鳳も目を丸くしていたが、鶴は嬉しそうに微笑んだ。

「そうね。黒鷹がそう言うなら、きっと出来るわ」

 誠は頷くが、そこでふと気が付いた。

(ヒメ子……また髪伸びたな)

 艶やかな鶴の髪は、本当に伸びるのが早い。

 以前より更に長くなったそれは、今は完全に肩を越えているのだ。
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