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第四章その4 ~守り切れ!~ 三浦半島防衛編

鬼の姉妹の再会劇

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(急げ……!!)

 カノンは更に加速し、いくつもの格納庫を駆け抜けた。やがて目の前に、整備中の航空輸送機が現れる。

 避けるのも面倒になって、カノンは大きくジャンプした。一瞬で輸送機を飛び越え、反対側の壁の穴を抜ける。

 次の格納庫に駆け込むと、カノンは目的の物を見つけた。白いカバーをかけられた人型の巨体だ。

(見えた、あれだ……!)

 カノンはもう一度地面を蹴る。

 宙に浮いたまま状況を確認すると、格納庫の中は既に凄惨な光景だった。

 守備隊の兵はその多くが負傷している。整備班も同様だ。

 立ち尽くす白衣を着た人物は、あの風変わりな研究者の筑波つくばである。

 彼のそばには、太刀を持った女の鬼。そして金棒を持つ、巨体で頑強そうな鬼がいた。

 …………ああ、やはり何年経っても覚えている。女の方は刹鬼せっき、男の方は剛角ごうかくなのだ。

 剛角は金棒を振り上げ、今にも筑波氏に振り下ろそうとしていた。

 あれが当たれば、人は間違いなく粉微塵こなみじんになる。肉と血の入り混じった飛沫ひまつとなって、辺りはあけに染まるだろう。

 カノンは一旦、新兵器らしきものの上で着地、方向と角度を定め、再び前にジャンプした。いや、ジャンプと言うより、斜め下への加速であろうか。

 何の武器も持ち合わせていない、けれど体が勝手に理解していた。自分はものだ……だから出来ると……!

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 轟音と共に、凄まじい衝撃が伝わってくる。

 足元の床はひび割れたものの、金棒をガードした腕は何とも無い。そもそも人間相手の攻撃であり、剛角も本気でなかったのだろう。

 白衣の男は気を失ったのか、そのままゆっくり倒れていくが、剛角は、そしてその傍に立つ刹鬼は、驚きで目を見開いていた。

「お、お前、もしや……!?」

 刹鬼は一旦言葉を躊躇ためらい、けれど力を込めて言った。

「いや、間違い無い、七月なづきだな貴様……!!」

「バカな、七月姫なづきひめ……里抜けした華南王かなんおう様が!?」

 配下の鬼達が動揺している。

 華南王……耳にするだけで恥ずかしくなってくるが、彼らの一族では、活躍した者や立場ある者に2つ名を与えるのだ。

「一族を捨てた裏切り者めが……よくも我の前に姿を見せられたな!」

 刹鬼は怒り狂ってえたが、カノンは何も言えなかった。

 遠い昔に捨てた一族であり、そこに残った妹である。

 全てをかなぐり捨てた身で、今更何を言えばいいのだ。

 許しをうのは厚かましく、開き直るには覚悟が足りなかった。

「ええい、何とか言えっ!!」

 答えないカノンに苛立ったのか、刹鬼は傍らの機器を太刀で薙ぎ払った。

 破片が激しく宙に舞うも、カノンは特に避けなかった。

 鋭い金属片が肌を叩いたが、傷一つ付かない。既にそこまで人から遠ざかっていたのだ。

 刹鬼は怒り狂い、配下の鬼に命令する。

「お前ら、さっさとこいつを殺せ! 剛角、お前もやれ、早く!」

「し、しかし姫さん、双角天様の本家の血じゃし…………」

 剛角は混乱の極みのような表情で、刹鬼とカノンを交互に見やった。他の鬼も同様である。双角天の直系の末裔、しかも色濃く血の目覚めたカノンと刹鬼は、身分としては別格だからだ。

「やれ、やれと言っているんだ!! この私の命令だぞ!!」

「……無理よ。五老鬼の黒人形でもなければ、お前や私に牙はけない」

 カノンは刹鬼を見つめ、静かに言った。

「……お願い、ここは退いて欲しいの」

「退けるか馬鹿者ぉっ!! 後戻りは破滅なのだ!!」

 刹鬼は牙をむき出しにし、手を大きく振って叫んだ。

「我が一族が巻き返すには、ここで手柄を立てるしか無い! そうでなくても常夜之命とこよのみことは、地の底で苛立っておられる! もたもたすれば、また呪い殺されるぞ!」

常夜之命とこよのみこと……」

 あのドクロが言ったのと同じ名だが、カノンも知らない神である。今まで秘匿ひとくされていたのか、それとも最近現れたのか。

 ただのハッタリとも思えない。目の前の妹は、この状況でそんな嘘がつけるような子ではなかった。

 一族のごうを双肩に背負い、猛り狂っているものの、そうさせたのは他ならぬカノンなのだから。
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