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第四章その4 ~守り切れ!~ 三浦半島防衛編

鬼神族のメンツにかけて

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 三浦半島の守りは鉄壁だった。

 幾重にも張り巡らされた防御壁と、強力な電磁バリア。常に展開・監視を続ける多数の人型重機。

 強化された短距離レーダーシステムに加え、振動や音声、温度感知サーモなどの複合センサーが睨みを効かせ、餓霊が近づけばたちどころに撃ち倒されるだろう。

 例え人間サイズの魔族であっても、重機が高速散弾ショットシェルで対処すれば、間違いなく蜂の巣となる。

 ……しかし、である。

 さしもの鉄壁の防御網にも、想定外の事態イレギュラーは積み重なる。

 丁度兵員の入れ替え時間だったため、普段より注意散漫さんまんだった。

 更に魔王との決戦を控え、少なからず動揺していた。

 そして何より、警備に関わる重要な者が敵側に寝返っていた。トラブルに見せかけたごく局地的な停電で、一時的に全てのセンサー類を止めたのだ。

 すぐに予備経路から電力が復旧したが、時既に遅し。

 あらゆる『不運』が重なって、日本最強の第3船団、その象徴たる横須賀に、魔の一族が入り込んだのだ。



「……それじゃお前達、始めるぞ」

 刹鬼姫が目配めくばせすると、鬼の1人が木箱を取り出し、地面に置いた。かなり手の込んだ呪法具じゅほうぐであり、見るもおぞましい『呪遺物じゅいぶつ』が多数詰まっているらしい。

 数百年も前に生贄いけにえにされた者の首だったり、口減らしに殺された子の髪であったり。無実の罪で憤死した男の目玉であったり。

 触れる者全てに害を為し、亡者を呼び寄せる災厄の詰め合わせだ。

 五老鬼にとっても虎の子の切り札であろうが、それを使わせるという事は、今がよほどの勝負どころなのだろう。

 箱はやがて赤い光を帯びると、中から話し声が聞こえてきた。息を潜め、ささやくような大勢の会話だ。

 数瞬ののち、箱の周囲に魔法陣が浮かび上がると、ゆっくりと、巨大な亡者どもが湧き上がってきた。魔界の怨霊を受肉させ、この世に呼び出す反魂はんごんの術である。

 自らも多少は術の心得のある刹鬼姫は、忌々いまいましげにつぶやいた。

「ちっ……龍穴りゅうけつじゃないから、箱の力を大量に喰う。あのバケモノ女、これを自力でやりやがったのか……!」

 本来反魂の術は、しかるべき地脈エネルギーの噴出点、つまり龍穴で行うものだ。地面から大量のエネルギーが得られるので、術の元となる祭壇さいだんなどをきずき、しろとなる細胞を置けば、後は勝手に邪霊どもが呼び出され、細胞が増殖して餓霊の肉体からだになっていく。

 しかしこの三浦半島には龍穴がないため、術者本人が膨大なエネルギーを消費し、無理やり魔界の扉を開くしかない。

 道具無しで出来るとすれば、まずあの闇の神人・鳳天音おおとりあまねただ1人。

 もちろん鬼には無理であって、だからこそ貴重で高度な呪法具じゅほうぐを使わざるを得ないわけだ。

 反魂の術が効いている時間は恐らくわずか、それが終われば餓霊どもは消えてしまう。

 しかしそれでも、人の備えを混乱させるには十分だろう。その隙に潜入し、新兵器とやらを破壊するのだ。

 やがて魔法陣から這い出た餓霊は、次々に前進を始めた。歯をむき出し、盛んに邪気を吐き出して、生者しょうじゃの肉を求めているのだ。

 刹鬼姫は腰の太刀を抜くと、配下の鬼に言い放つ。

「さあお前達、ここが正念場だ。あの聖者がおらぬ今が好機、なんとしても人間どもの切り札を潰すのだ……!」

 鬼達はうなるように答えると、一斉に闇を蹴立てた。
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