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第四章その3 ~ようこそ関東へ!~ くせ者だらけの最強船団編
せっかくの呪いだから
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気が付くと、誠は闇の中に立ち尽くしていた。
レバーを握り締める手は、いつの間にか大人になっている。
闇は漆黒の宇宙のように遠く広がり、彼方に白い光が見えた。
(現実じゃない……精神世界なんだ)
誠はそう理解し、記憶の糸を辿った。
あの女……堕ちた聖者たる鳳天音に襲われ、妙な術をかけられて、今まで眠っていたのだろう。
(恐らく……ずっと絶望して思考がループする類の呪いか。時間の感覚も、たぶん現実と違う……)
そうでなければ、幼少から人生を追体験するなど出来ないはずだし、時の流れが独特なのだ。
彼方の光は、段々大きくなっていく。あの光の元まで行けば、この夢幻の術から抜け出せる事も、誠は直感で分かっていた。
(今なら目覚められる……けど)
……だがそこで、誠はぶんぶん首を振った。
「折角のチャンスだからな……!」
何となく勿体無い気がした。どうせなら、今出来る事をやった方がいい。
誠はあの琵琶湖の沿岸で見た、巨体の魔王を思い浮かべた。全く隙が無いように思えた魔王だったが、どこかに弱みがあるかもしれない。
(どうせ思考がループするなら……時間の流れが違うなら、あの魔王を観察してやる。百回でも千回でも、徹底的に研究してやる……!)
「よしっ、やるか!」
誠は闇にあぐらをかき、膝をパンと叩いて魔王を見つめる。
記憶の中で、あの戦いを延々とリピートしていくのだ。そのペースは段々早くなる。
……最早何度目かも分からなくなり、おぼろげに魔王の動きの癖まで分かるようになった時、ふと誠は気が付いた。
「……何だこれ……?」
魔王を覆う強力な電磁バリアに、不自然な乱れが見つかったのだ。
ごく僅かな乱れではあるが、何度繰り返しても確かに見える。その場所は、魔王の右肩付近であった。
「そうか、永津彦……さんがつけた傷だ! まだ治り切ってないんだ!」
恐らく魔王の体内には、未だ永津彦の剣の霊気が残っている。
一見して塞がったように見えていたが、さすが闘神の攻撃、完全に回復出来ていなかったのだ。
(あそこを狙えば防御も乱れるし、あそこを狙えば倒せるかも知れない)
だが誠がなおも観察を続けようとすると、全身に強い地響きを感じた。
!!!!!!!!!!
(これは……多分幻じゃない……?)
背面に強く感じる衝撃は、恐らく現実ではベッドに寝かされているからだろう。
もう一度、地響きを感じる。今度は人々の悲鳴も聞こえた。
誠は覚悟を決め、強く手の中のレバーを握り締めた。
まだ完全ではないけれど、魔王の研究はいったん停止だ。
やがて全身が光に包まれ、唐突に闇の世界は終わりを告げたのだ。
レバーを握り締める手は、いつの間にか大人になっている。
闇は漆黒の宇宙のように遠く広がり、彼方に白い光が見えた。
(現実じゃない……精神世界なんだ)
誠はそう理解し、記憶の糸を辿った。
あの女……堕ちた聖者たる鳳天音に襲われ、妙な術をかけられて、今まで眠っていたのだろう。
(恐らく……ずっと絶望して思考がループする類の呪いか。時間の感覚も、たぶん現実と違う……)
そうでなければ、幼少から人生を追体験するなど出来ないはずだし、時の流れが独特なのだ。
彼方の光は、段々大きくなっていく。あの光の元まで行けば、この夢幻の術から抜け出せる事も、誠は直感で分かっていた。
(今なら目覚められる……けど)
……だがそこで、誠はぶんぶん首を振った。
「折角のチャンスだからな……!」
何となく勿体無い気がした。どうせなら、今出来る事をやった方がいい。
誠はあの琵琶湖の沿岸で見た、巨体の魔王を思い浮かべた。全く隙が無いように思えた魔王だったが、どこかに弱みがあるかもしれない。
(どうせ思考がループするなら……時間の流れが違うなら、あの魔王を観察してやる。百回でも千回でも、徹底的に研究してやる……!)
「よしっ、やるか!」
誠は闇にあぐらをかき、膝をパンと叩いて魔王を見つめる。
記憶の中で、あの戦いを延々とリピートしていくのだ。そのペースは段々早くなる。
……最早何度目かも分からなくなり、おぼろげに魔王の動きの癖まで分かるようになった時、ふと誠は気が付いた。
「……何だこれ……?」
魔王を覆う強力な電磁バリアに、不自然な乱れが見つかったのだ。
ごく僅かな乱れではあるが、何度繰り返しても確かに見える。その場所は、魔王の右肩付近であった。
「そうか、永津彦……さんがつけた傷だ! まだ治り切ってないんだ!」
恐らく魔王の体内には、未だ永津彦の剣の霊気が残っている。
一見して塞がったように見えていたが、さすが闘神の攻撃、完全に回復出来ていなかったのだ。
(あそこを狙えば防御も乱れるし、あそこを狙えば倒せるかも知れない)
だが誠がなおも観察を続けようとすると、全身に強い地響きを感じた。
!!!!!!!!!!
(これは……多分幻じゃない……?)
背面に強く感じる衝撃は、恐らく現実ではベッドに寝かされているからだろう。
もう一度、地響きを感じる。今度は人々の悲鳴も聞こえた。
誠は覚悟を決め、強く手の中のレバーを握り締めた。
まだ完全ではないけれど、魔王の研究はいったん停止だ。
やがて全身が光に包まれ、唐突に闇の世界は終わりを告げたのだ。
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