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第四章その3 ~ようこそ関東へ!~ くせ者だらけの最強船団編

雪菜の襲撃

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「みっみんなっ! 無事かしらっ!?」

 ボウリング球のような体当たりで扉を押し開け、雪菜は医務室に雪崩なだれ込んだ。

 かなり慌てていたせいで、壁際の空箱が吹っ飛んで転がっている。

 当然ながら、中にいる全員が雪菜の顔に注目した。

「あっ……いえ、オホン。失礼しました。ふ、普段はもっと上品なんですよ?」

 雪菜は咳払いすると、そそくさとドアを閉めた。

 散らばった箱を適当に重ね、周囲を見渡す。

 室内には沢山の傷病者がパイプベッドに寝かされ、また椅子に座り、次々治療を受けている。

 医療班は皆忙しそうに、話しかけ辛いオーラ全開で動き回っていたが、雪菜は一番偉い感じのお爺さんを勘で見定めた。白髪と白衣がいかにも名医な印象だ。

「ひっ!?」

 全力の目力アイパワーでロックオンされ、老医はたじろぎながら後ずさるも、雪菜は真っ直ぐ彼に近づいていく。

 現役のパイロットだった頃から経験済みだが、こんなご時勢、医療業務は多忙を極める。

 もじもじ待っていても誰も答えてくれないため、一度見定めた相手を逃がさない事が勝利のカギだ。

「あの、お騒がせして申し訳ありません! 第5船団から派遣されました、鶉谷雪菜うずらたにゆきな少佐です!」

「は、はあ……それは、遠いところを……」

 老医はじりじりと後ずさり、背を壁に当ててハッとした表情になった。

 しばし駆け引きがあった後、彼は咄嗟とっさに横移動した。

 一瞬右と見せかけて左へ動く……だが雪菜はそこにも先回りしていた。

「ひいっ!?」

 動きを完全に封じられ、老医は絶望の色を浮かべた。

 命だけは……彼の目がそう言っていたが、雪菜は構わず頭を下げる。

「あ、あのっ、私の配下の者が到着したとお聞きしまして!」

「……あ、なるほど。そ、それなら別室ですな……」

 老医は雪菜を入り口まで連れて行き、通路の先の部屋を指差す。

「112号室の、奥の3人です。それではこれ……でっ!?」

 雪菜は逃げようとする老人の肩を握り、笑顔で引き止める。

「先生、部下の容態をお聞きしてよろしいでしょうかっ!?」

 ここまで来て、説明無しで去られては意味が無いのだ。

「うっ、ゴホゴホ、それでは少しだけ……」

 老医は諦めたのか、雪菜とともに別室内に入った。

 白いカーテンで間仕切りされた病室には、10程のベッドが並び、奥の3つが雪菜の求める人物達である。

 一番手前が香川少年、次が宮島少年。そして一番奥が鳴瀬少年だった。

 ベッドの足元にはネームプレートがはめ込まれていたが、平等に治療を行うためか、ぱっと見に分かるような階級は書き込まれていない。

「香川くん、宮島くんは問題ないでしょう。火傷や打撲、骨折もありますが、あれだけ搭乗用区画コクピットブースが黒焦げになっていたのに命に別状はありません。もみじ饅頭が食べ切れないとか、毎日うどん天国だ~とか寝言を言うので、周囲から腹が減ったと苦情が来ますが……」

「良かった……良くないけどほんとに良かった」

 雪菜は心底安堵あんどした。

「それで、鳴瀬くんの方は……」

 雪菜が問うと、老医は黙って首を振った。

「……分かりませんな。外傷はほぼ無いのですが……厳しい状態なのは間違いないでしょう」

「そ、そんな……」

 雪菜は鳴瀬少年のベッド脇に移動した。

 今は目を閉じて眠り続ける彼は、時折苦しげに顔を歪ませている。

 額にはうっすら汗がにじみ、どうやら悪夢の中にいるようだ。

 目をやると、布団から彼の左手が覗いていたため、雪菜は無意識に握ってしまった。

「鳴瀬くん…………」

 ふと先日の事を思い出す。

 あの日雪菜を治療した後、彼は眠りに落ちていた。当時はとても安らかで満足げな寝顔だったのに……今はこんなに苦しそうで。

 何とか彼の力になれないだろうか、と思ったが、あの鎧姿のお姫様と違って、雪菜には不思議な力は何もないのだ。

(私じゃ駄目だ、鶴ちゃんじゃないと……)

 雪菜は一瞬弱気になりかけたが、そこでぶんぶん首を振った。

(違うっ、そうじゃないわ雪菜! 鶴ちゃんだって大変なんだもの、今は私に出来る事をやるの。差しあたって……特に無いけど、無いなら無いで念を送るわ!!)

 雪菜はぎゅっと彼の手を握り、自らの額に近づける。

(お願い鳴瀬くん……元気になって! 元気になって、これからいっぱい幸せになってね……だからお願い……!!)

 見守る老医は理解してニヤニヤしている。「ほほう、やたら慌てると思ったら、そういう事でしたか。これだから若い人は……」などとほざいているが、今はそれどころではないのである。

(届け、届け……何でもいいから目覚めなさい、私の未知なるハイパーパワー……!!)

 あまりに強く念じすぎ、頭がくらくらしてくる雪菜だったが、そこで通路からあわたしい足音が聞こえてきた。
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