30 / 110
第四章その3 ~ようこそ関東へ!~ くせ者だらけの最強船団編
雪菜の襲撃
しおりを挟む
「みっみんなっ! 無事かしらっ!?」
ボウリング球のような体当たりで扉を押し開け、雪菜は医務室に雪崩れ込んだ。
かなり慌てていたせいで、壁際の空箱が吹っ飛んで転がっている。
当然ながら、中にいる全員が雪菜の顔に注目した。
「あっ……いえ、オホン。失礼しました。ふ、普段はもっと上品なんですよ?」
雪菜は咳払いすると、そそくさとドアを閉めた。
散らばった箱を適当に重ね、周囲を見渡す。
室内には沢山の傷病者がパイプベッドに寝かされ、また椅子に座り、次々治療を受けている。
医療班は皆忙しそうに、話しかけ辛いオーラ全開で動き回っていたが、雪菜は一番偉い感じのお爺さんを勘で見定めた。白髪と白衣がいかにも名医な印象だ。
「ひっ!?」
全力の目力でロックオンされ、老医はたじろぎながら後ずさるも、雪菜は真っ直ぐ彼に近づいていく。
現役のパイロットだった頃から経験済みだが、こんなご時勢、医療業務は多忙を極める。
もじもじ待っていても誰も答えてくれないため、一度見定めた相手を逃がさない事が勝利のカギだ。
「あの、お騒がせして申し訳ありません! 第5船団から派遣されました、鶉谷雪菜少佐です!」
「は、はあ……それは、遠いところを……」
老医はじりじりと後ずさり、背を壁に当ててハッとした表情になった。
しばし駆け引きがあった後、彼は咄嗟に横移動した。
一瞬右と見せかけて左へ動く……だが雪菜はそこにも先回りしていた。
「ひいっ!?」
動きを完全に封じられ、老医は絶望の色を浮かべた。
命だけは……彼の目がそう言っていたが、雪菜は構わず頭を下げる。
「あ、あのっ、私の配下の者が到着したとお聞きしまして!」
「……あ、なるほど。そ、それなら別室ですな……」
老医は雪菜を入り口まで連れて行き、通路の先の部屋を指差す。
「112号室の、奥の3人です。それではこれ……でっ!?」
雪菜は逃げようとする老人の肩を握り、笑顔で引き止める。
「先生、部下の容態をお聞きしてよろしいでしょうかっ!?」
ここまで来て、説明無しで去られては意味が無いのだ。
「うっ、ゴホゴホ、それでは少しだけ……」
老医は諦めたのか、雪菜とともに別室内に入った。
白いカーテンで間仕切りされた病室には、10程のベッドが並び、奥の3つが雪菜の求める人物達である。
一番手前が香川少年、次が宮島少年。そして一番奥が鳴瀬少年だった。
ベッドの足元にはネームプレートがはめ込まれていたが、平等に治療を行うためか、ぱっと見に分かるような階級は書き込まれていない。
「香川くん、宮島くんは問題ないでしょう。火傷や打撲、骨折もありますが、あれだけ搭乗用区画が黒焦げになっていたのに命に別状はありません。もみじ饅頭が食べ切れないとか、毎日うどん天国だ~とか寝言を言うので、周囲から腹が減ったと苦情が来ますが……」
「良かった……良くないけどほんとに良かった」
雪菜は心底安堵した。
「それで、鳴瀬くんの方は……」
雪菜が問うと、老医は黙って首を振った。
「……分かりませんな。外傷はほぼ無いのですが……厳しい状態なのは間違いないでしょう」
「そ、そんな……」
雪菜は鳴瀬少年のベッド脇に移動した。
今は目を閉じて眠り続ける彼は、時折苦しげに顔を歪ませている。
額にはうっすら汗がにじみ、どうやら悪夢の中にいるようだ。
目をやると、布団から彼の左手が覗いていたため、雪菜は無意識に握ってしまった。
「鳴瀬くん…………」
ふと先日の事を思い出す。
あの日雪菜を治療した後、彼は眠りに落ちていた。当時はとても安らかで満足げな寝顔だったのに……今はこんなに苦しそうで。
何とか彼の力になれないだろうか、と思ったが、あの鎧姿のお姫様と違って、雪菜には不思議な力は何もないのだ。
(私じゃ駄目だ、鶴ちゃんじゃないと……)
雪菜は一瞬弱気になりかけたが、そこでぶんぶん首を振った。
(違うっ、そうじゃないわ雪菜! 鶴ちゃんだって大変なんだもの、今は私に出来る事をやるの。差しあたって……特に無いけど、無いなら無いで念を送るわ!!)
雪菜はぎゅっと彼の手を握り、自らの額に近づける。
(お願い鳴瀬くん……元気になって! 元気になって、これからいっぱい幸せになってね……だからお願い……!!)
見守る老医は理解してニヤニヤしている。「ほほう、やたら慌てると思ったら、そういう事でしたか。これだから若い人は……」などとほざいているが、今はそれどころではないのである。
(届け、届け……何でもいいから目覚めなさい、私の未知なるハイパーパワー……!!)
あまりに強く念じすぎ、頭がくらくらしてくる雪菜だったが、そこで通路から慌しい足音が聞こえてきた。
ボウリング球のような体当たりで扉を押し開け、雪菜は医務室に雪崩れ込んだ。
かなり慌てていたせいで、壁際の空箱が吹っ飛んで転がっている。
当然ながら、中にいる全員が雪菜の顔に注目した。
「あっ……いえ、オホン。失礼しました。ふ、普段はもっと上品なんですよ?」
雪菜は咳払いすると、そそくさとドアを閉めた。
散らばった箱を適当に重ね、周囲を見渡す。
室内には沢山の傷病者がパイプベッドに寝かされ、また椅子に座り、次々治療を受けている。
医療班は皆忙しそうに、話しかけ辛いオーラ全開で動き回っていたが、雪菜は一番偉い感じのお爺さんを勘で見定めた。白髪と白衣がいかにも名医な印象だ。
「ひっ!?」
全力の目力でロックオンされ、老医はたじろぎながら後ずさるも、雪菜は真っ直ぐ彼に近づいていく。
現役のパイロットだった頃から経験済みだが、こんなご時勢、医療業務は多忙を極める。
もじもじ待っていても誰も答えてくれないため、一度見定めた相手を逃がさない事が勝利のカギだ。
「あの、お騒がせして申し訳ありません! 第5船団から派遣されました、鶉谷雪菜少佐です!」
「は、はあ……それは、遠いところを……」
老医はじりじりと後ずさり、背を壁に当ててハッとした表情になった。
しばし駆け引きがあった後、彼は咄嗟に横移動した。
一瞬右と見せかけて左へ動く……だが雪菜はそこにも先回りしていた。
「ひいっ!?」
動きを完全に封じられ、老医は絶望の色を浮かべた。
命だけは……彼の目がそう言っていたが、雪菜は構わず頭を下げる。
「あ、あのっ、私の配下の者が到着したとお聞きしまして!」
「……あ、なるほど。そ、それなら別室ですな……」
老医は雪菜を入り口まで連れて行き、通路の先の部屋を指差す。
「112号室の、奥の3人です。それではこれ……でっ!?」
雪菜は逃げようとする老人の肩を握り、笑顔で引き止める。
「先生、部下の容態をお聞きしてよろしいでしょうかっ!?」
ここまで来て、説明無しで去られては意味が無いのだ。
「うっ、ゴホゴホ、それでは少しだけ……」
老医は諦めたのか、雪菜とともに別室内に入った。
白いカーテンで間仕切りされた病室には、10程のベッドが並び、奥の3つが雪菜の求める人物達である。
一番手前が香川少年、次が宮島少年。そして一番奥が鳴瀬少年だった。
ベッドの足元にはネームプレートがはめ込まれていたが、平等に治療を行うためか、ぱっと見に分かるような階級は書き込まれていない。
「香川くん、宮島くんは問題ないでしょう。火傷や打撲、骨折もありますが、あれだけ搭乗用区画が黒焦げになっていたのに命に別状はありません。もみじ饅頭が食べ切れないとか、毎日うどん天国だ~とか寝言を言うので、周囲から腹が減ったと苦情が来ますが……」
「良かった……良くないけどほんとに良かった」
雪菜は心底安堵した。
「それで、鳴瀬くんの方は……」
雪菜が問うと、老医は黙って首を振った。
「……分かりませんな。外傷はほぼ無いのですが……厳しい状態なのは間違いないでしょう」
「そ、そんな……」
雪菜は鳴瀬少年のベッド脇に移動した。
今は目を閉じて眠り続ける彼は、時折苦しげに顔を歪ませている。
額にはうっすら汗がにじみ、どうやら悪夢の中にいるようだ。
目をやると、布団から彼の左手が覗いていたため、雪菜は無意識に握ってしまった。
「鳴瀬くん…………」
ふと先日の事を思い出す。
あの日雪菜を治療した後、彼は眠りに落ちていた。当時はとても安らかで満足げな寝顔だったのに……今はこんなに苦しそうで。
何とか彼の力になれないだろうか、と思ったが、あの鎧姿のお姫様と違って、雪菜には不思議な力は何もないのだ。
(私じゃ駄目だ、鶴ちゃんじゃないと……)
雪菜は一瞬弱気になりかけたが、そこでぶんぶん首を振った。
(違うっ、そうじゃないわ雪菜! 鶴ちゃんだって大変なんだもの、今は私に出来る事をやるの。差しあたって……特に無いけど、無いなら無いで念を送るわ!!)
雪菜はぎゅっと彼の手を握り、自らの額に近づける。
(お願い鳴瀬くん……元気になって! 元気になって、これからいっぱい幸せになってね……だからお願い……!!)
見守る老医は理解してニヤニヤしている。「ほほう、やたら慌てると思ったら、そういう事でしたか。これだから若い人は……」などとほざいているが、今はそれどころではないのである。
(届け、届け……何でもいいから目覚めなさい、私の未知なるハイパーパワー……!!)
あまりに強く念じすぎ、頭がくらくらしてくる雪菜だったが、そこで通路から慌しい足音が聞こえてきた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
アマテラスの力を継ぐ者【第一記】
モンキー書房
ファンタジー
小学六年生の五瀬稲穂《いつせいなほ》は運動会の日、不審者がグラウンドへ侵入したことをきっかけに、自分に秘められた力を覚醒してしまった。そして、自分が天照大神《あまてらすおおみかみ》の子孫であることを宣告される。
保食神《うけもちのかみ》の化身(?)である、親友の受持彩《うけもちあや》や、素戔嗚尊《すさのおのみこと》の子孫(?)である御饌津神龍《みけつかみりゅう》とともに、妖怪・怪物たちが巻き起こす事件に関わっていく。
修学旅行当日、突如として現れる座敷童子たちに神隠しされ、宮城県ではとんでもない事件に巻き込まれる……
今後、全国各地を巡っていく予定です。
☆感想、指摘、批評、批判、大歓迎です。(※誹謗、中傷の類いはご勘弁ください)。
☆作中に登場した文章は、間違っていることも多々あるかと思います。古文に限らず現代文も。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

もふもふで始めるのんびり寄り道生活 ~便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!
ゆるり
ファンタジー
書籍化決定しました!
刊行は3月中旬頃です。
☆第17回ファンタジー小説大賞で【癒し系ほっこり賞】を受賞☆
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~』です)
ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。
最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。
この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう!
……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは?
***
ゲーム生活をのんびり楽しむ話。
バトルもありますが、基本はスローライフ。
主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。
カクヨム様でも公開しております。
後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜
菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。
私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる