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第四章その3 ~ようこそ関東へ!~ くせ者だらけの最強船団編
横須賀の勇士たち
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伊能の言葉に、筑波がベルトのスイッチを押す。すると虚空に様々な映像が浮かび上がった。
およそ見た事もないサイズの属性添加機や、白いカバーをかけられた巨大な人型。そしてトドメは、幾つものケーブルを接続された、恐ろしく長大な砲である。
周囲の作業員との比較から、どれも100メートル近いであろうそれらを、伊能は誇らしげに説明していく。
「まずは第4船団の開発した、超巨大属性添加・調律機の『京』。そして第3船団の対ディアヌス人型決戦兵器・『震天』。おまけに第5・第6船団で共同開発した超長距離属性添加砲の『摩州』。あとはまあ……第1・第2船団の虎の子の、新型航空戦艦も回してもらってる。表立った同盟が動く前から、関東以北で技術提携を進めてたからな」
航空戦艦の映像が表示された時、一同はどよめいた。
文字通り、電磁エネルギーで浮かび上がった艦隊が、対空呪詛の影響を受けにくい低空を移動していく。
艦船に積む巨大な属性添加機を利用し、敵に一気に強力な打撃を与えるという、一撃必殺の運用思想であった。
カノン達は息を飲んだ。
「すごい……これなら何とかなるかも知れませんね」
「だろう? あんたら若ぇのが、死に物狂いでみんなを守ってる間、大人もちょっとは頑張ったわけよ」
伊能はそこでパイロット連中の肩を叩いた。
「まあそういう交渉も、日本最強の船団って箔があっての事だがな。お前達の頑張りが、この国を守るでっかい流れになってるんだ」
「そ、それは……嬉しいですけど……」
伊能の言葉に、海老名達は少し照れたように微笑む。
「けど偉いもんやな。船団長自ら足で説得してるんか」
難波が感心すると、伊能はちっちっと人差し指を振った。
「偉くもなんともねえよ。ご先祖様はなあ、50歳過ぎてから徒歩で全国回って、日本地図を作ったんだぜ? だから始めるのに遅すぎるってこたねえさ。落花生と同じ、花が落ちてからまだ見せ場だ」
「そうだ、伊能の言う通り、人生ネバーギブアップの精神だ。砂漠みたいな道だろうと、歩き続けりゃなんとかなる。一句詠もうか? 砂浜を、九十九里浜歩けばよい香り、それはそうだよ、あっちは茨城」
「ああん? 納豆の匂いしかしねえだろ」
「言うねえこいつ」
伊能と筑波は肩を組んで、がっはっは、と笑い合った。
若者達は呆れたような、それでいて彼らを頼りにしているような複雑な表情で眺めていたが、伊能は最後に皆に言った。
「この日のために、10年力をためて来たんだ。皆で日本を取り戻して、絶対に幸せになってくれ。いっそ今度は、夢の国でも作ろうか?」
その発言が合言葉だったのだろうか。
第3船団のパイロット達は……いや、整備兵、技術者さえも手を止め、背筋を伸ばし、足を踏み鳴らした。
彼らは片手を胸に当て、雄々しく声を揃えたのだ。
如何な苦難があろうとも、この国には我々がいる!
ここは人々の最後の希望!
力弱き者たちの最後の砦!
持てる全ての力を集め、この禍を終わらせよう!
明けに生まれし可愛い子らに、夜を耐え抜く愛しき人に、幸ある明日を送らんがために!
我ら日本国第3船団、奇跡ではなく何度でも、横須賀の灯は希望を照らす!
恐らく第3船団に伝わる、決戦前のコールであろう。
先ほどまでふざけていた筑波でさえ、今は真剣な表情で声を限りに叫んでいた。
思いは一つ、みんなの未来を取り戻すためにだ。
カノンも難波も、ただ黙って見つめていた。
この人達は強い。どんな恐ろしい魔王にも、きっと負けない。
…………だがこの時、カノン達は気づかなかった。
盛り上がる人々を見つめる、悪意ある者の存在に。
日の本に巣食う、獅子身中の外道の動きに。
およそ見た事もないサイズの属性添加機や、白いカバーをかけられた巨大な人型。そしてトドメは、幾つものケーブルを接続された、恐ろしく長大な砲である。
周囲の作業員との比較から、どれも100メートル近いであろうそれらを、伊能は誇らしげに説明していく。
「まずは第4船団の開発した、超巨大属性添加・調律機の『京』。そして第3船団の対ディアヌス人型決戦兵器・『震天』。おまけに第5・第6船団で共同開発した超長距離属性添加砲の『摩州』。あとはまあ……第1・第2船団の虎の子の、新型航空戦艦も回してもらってる。表立った同盟が動く前から、関東以北で技術提携を進めてたからな」
航空戦艦の映像が表示された時、一同はどよめいた。
文字通り、電磁エネルギーで浮かび上がった艦隊が、対空呪詛の影響を受けにくい低空を移動していく。
艦船に積む巨大な属性添加機を利用し、敵に一気に強力な打撃を与えるという、一撃必殺の運用思想であった。
カノン達は息を飲んだ。
「すごい……これなら何とかなるかも知れませんね」
「だろう? あんたら若ぇのが、死に物狂いでみんなを守ってる間、大人もちょっとは頑張ったわけよ」
伊能はそこでパイロット連中の肩を叩いた。
「まあそういう交渉も、日本最強の船団って箔があっての事だがな。お前達の頑張りが、この国を守るでっかい流れになってるんだ」
「そ、それは……嬉しいですけど……」
伊能の言葉に、海老名達は少し照れたように微笑む。
「けど偉いもんやな。船団長自ら足で説得してるんか」
難波が感心すると、伊能はちっちっと人差し指を振った。
「偉くもなんともねえよ。ご先祖様はなあ、50歳過ぎてから徒歩で全国回って、日本地図を作ったんだぜ? だから始めるのに遅すぎるってこたねえさ。落花生と同じ、花が落ちてからまだ見せ場だ」
「そうだ、伊能の言う通り、人生ネバーギブアップの精神だ。砂漠みたいな道だろうと、歩き続けりゃなんとかなる。一句詠もうか? 砂浜を、九十九里浜歩けばよい香り、それはそうだよ、あっちは茨城」
「ああん? 納豆の匂いしかしねえだろ」
「言うねえこいつ」
伊能と筑波は肩を組んで、がっはっは、と笑い合った。
若者達は呆れたような、それでいて彼らを頼りにしているような複雑な表情で眺めていたが、伊能は最後に皆に言った。
「この日のために、10年力をためて来たんだ。皆で日本を取り戻して、絶対に幸せになってくれ。いっそ今度は、夢の国でも作ろうか?」
その発言が合言葉だったのだろうか。
第3船団のパイロット達は……いや、整備兵、技術者さえも手を止め、背筋を伸ばし、足を踏み鳴らした。
彼らは片手を胸に当て、雄々しく声を揃えたのだ。
如何な苦難があろうとも、この国には我々がいる!
ここは人々の最後の希望!
力弱き者たちの最後の砦!
持てる全ての力を集め、この禍を終わらせよう!
明けに生まれし可愛い子らに、夜を耐え抜く愛しき人に、幸ある明日を送らんがために!
我ら日本国第3船団、奇跡ではなく何度でも、横須賀の灯は希望を照らす!
恐らく第3船団に伝わる、決戦前のコールであろう。
先ほどまでふざけていた筑波でさえ、今は真剣な表情で声を限りに叫んでいた。
思いは一つ、みんなの未来を取り戻すためにだ。
カノンも難波も、ただ黙って見つめていた。
この人達は強い。どんな恐ろしい魔王にも、きっと負けない。
…………だがこの時、カノン達は気づかなかった。
盛り上がる人々を見つめる、悪意ある者の存在に。
日の本に巣食う、獅子身中の外道の動きに。
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