上 下
24 / 110
第四章その2 ~大活躍!~ 関東からの助っ人編

バケモノ女の呪い

しおりを挟む
 第3船団の旗艦『武蔵むさし』に設置された『対ディアヌス臨時特別司令部』は、かなりの混乱に見舞われていた。

 ドクロの降伏勧告により、人々の怯えや動揺が表面化。一部の人はヒステリックに泣き叫び、各避難区で問題を引き起こしていた。

 映像に映る彼らは、目を見開き、必死に降伏を呼びかけている。

 あれだけ冷酷無比な行いをしてきた相手に降伏し、生殺与奪せいさつよだつの権利を与える……それが地獄への特急便である事を、何一つ理解していないのだ。

「……ったく、信じられねえな。あんな誘いに乗る奴があるか……!」

 赤いバンダナを被った青年……元神武勲章レジェンド隊のパイロットであり、今は第3船団で指揮をとるつかさが、悔しそうにそう言った。

「降伏して外堀埋められたら終わりだろ。大阪の陣と同じだろうが」

「みんな正気じゃ無くなってるのよ」

 雪菜も悔しさを隠し切れずに言った。

 しかし恐るべきは敵方の策。知恵ある敵と対峙するとは、これほど危険な事なのだ。

 全てを薙ぎ払う邪神の力を有しながら、二の手三の手を打ってくる。必死にあらがおうと力を結集しているこの国を、内側から引っ掻き回そうとしているのだ。

「……流石のボクも、このまま決戦とは行きたくないね。希望的条件が少なすぎるよ」

 やはり神武勲章レジェンド隊のパイロットであり、普段はエネルギーに満ち溢れるヒカリも、今は覇気に乏しかった。

「……こんな時、あの子達が居てくれれば……」

 弱気のせいだろう、雪菜はつい内心を口に出してしまった。

 ヒカリは少し気遣って問いかけてくれる。

「あの子達って、例の鳴瀬くん達の事かい? 確かに居れば心強いだろうね」

「彼らに頼り過ぎてるのは分かってるの。でも……」

 雪菜は少し迷いながら答えた。

 大人として情けないのは承知しょうちだが、それでもこんな状況下だ。奇跡に近い何かの力にすがりたくもなってしまう。

 だが今度の敵は、そんな最後の希望すらも打ち砕こうとしていたのだ。

 ごったがえす司令部の人波を押し退け、歳若い少年兵が駆け寄ってくる。

「……も、申し訳ありません、鶉谷うずらたに少佐。配下の方々のご容態が変わりまして」

「鳴瀬くん……鳴瀬少尉達の!?」

 食いつく雪菜に、通信兵は言いにくそうに報告を続ける。

「はい、それが……他の方々は比較的無事なのですが……鳴瀬少尉が、どうもおかしいそうなんです」



 救護室に着いた一同は、医療班から説明を受けた。

「容態が急変……?」

 カノンの問いに、医療班の青年は頷いた。

「ええ、最初は問題無いと思ったんです。外傷も少ないですし、内臓にも異常がない。それが段々苦しみ始めまして……」

 彼はモニターを操作し、横たわる誠の脳波形を映し出した。

 脳波は著しく乱れ、波形はいびつに暴れまわっている。

「ご覧の通りです。とても意識を失ってるとは思えませんし、最大限の大声で叫びながら眠っているようなものですね」

 その言葉通り、ベッドに眠る誠の表情は苦しげで、呼吸もかなり荒かった。

 カノンはそこで思い出した。

『あんまり、無事、じゃないわ! 呪いを受けてる!』

 あの戦いの最中さなか、確か鶴はそう言ったのだ。

「呪いだわ……お姫様が言ってた」

 カノンが呟くと、難波が驚いたようにこちらを見る。

「呪いってカノっち、あのバケモンみたいな女がやったんか?」

「そうとしか考えられない。外傷がほぼ無いし、精神だけを攻撃されたって事だと思う」

「そ、そんな事出来るんかいな……」

「出来るわ。あの化け物なら。魔王と契約した……闇の神人だもの」

 苦しむ誠の頬に、カノンはそっと手を触れる。

 確かに感じる。激しい呪詛が滅茶苦茶に入り乱れながら、愛しい人の身の内を駆け巡っているのだ。

(お願い、治まって……っ!)

 カノンは目を閉じ、意識を集中する。脳裏には、魔法で治癒ちゆを行う鶴の姿が思い浮かんだ。

 あの鎧姿のお姫様のように、この人の危機を救いたい。

 だがどんなに懸命に念じても、少年の呪いはとけないのだ。

「…………」

 カノンは諦め、そっと手を離した。

 そうだ、最初から分かっている。

 自分はこんな高度な術をとく事は出来ない。

 長い間に色々な知恵を身に付けたけれど、元より器用な一族ではないのだ。

 馬鹿力だけが自慢の、ガサツで粗野な育ちだったのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日のお昼ご飯

栄吉
キャラ文芸
スーパーでアルバイトをしているさとみは60歳 一人暮し そんなさとみのお昼ご飯を紹介するお話です

【2章完結】あやかし嫁取り婚~龍神の契約妻になりました~

椿蛍
キャラ文芸
出会って間もない相手と結婚した――人ではないと知りながら。 あやかしたちは、それぞれの一族の血を残すため、人により近づくため。 特異な力を持った人間の娘を必要としていた。 彼らは、私が持つ『文様を盗み、身に宿す』能力に目をつけた。 『これは、あやかしの嫁取り戦』 身を守るため、私は形だけの結婚を選ぶ―― ※二章までで、いったん完結します。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

アマテラスの力を継ぐ者【第一記】

モンキー書房
ファンタジー
 小学六年生の五瀬稲穂《いつせいなほ》は運動会の日、不審者がグラウンドへ侵入したことをきっかけに、自分に秘められた力を覚醒してしまった。そして、自分が天照大神《あまてらすおおみかみ》の子孫であることを宣告される。  保食神《うけもちのかみ》の化身(?)である、親友の受持彩《うけもちあや》や、素戔嗚尊《すさのおのみこと》の子孫(?)である御饌津神龍《みけつかみりゅう》とともに、妖怪・怪物たちが巻き起こす事件に関わっていく。  修学旅行当日、突如として現れる座敷童子たちに神隠しされ、宮城県ではとんでもない事件に巻き込まれる……  今後、全国各地を巡っていく予定です。  ☆感想、指摘、批評、批判、大歓迎です。(※誹謗、中傷の類いはご勘弁ください)。  ☆作中に登場した文章は、間違っていることも多々あるかと思います。古文に限らず現代文も。

流行らない居酒屋の話

流水斎
キャラ文芸
 シャッター商店街に居酒屋を構えた男が居る。 止せば良いのに『叔父さんの遺産を見に行く』だなんて、伝奇小説めいたセリフと共に郊外の店舗へ。 せっかくの機会だと独立したのは良いのだが、気がつけば、生憎と閑古鳥が鳴くことに成った。 これはそんな店主と、友人のコンサルが四苦八苦する話。

お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………

ブラックベリィ
キャラ文芸
俺、神咲 和輝(かんざき かずき)は不幸のどん底に突き落とされました。 父親を失い、バイトもクビになって、早晩双子の妹、真奈と優奈を抱えてあわや路頭に………。そんな暗い未来陥る寸前に出会った少女の名は桜………。 そして、俺の新しいバイト先は決まったんだが………。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました

ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー! 初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。 ※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。 ※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。 ※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m

処理中です...