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第四章その2 ~大活躍!~ 関東からの助っ人編

ヒカリは話の腰を折る2

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「以上が第5船団からの増援状況です。どんどん追加されてるけど、魔王の動きによっては、今後更に増えるわね」

 雪菜は肘を抱えるタイプの腕組みをしながら、正面のメインモニターを見上げた。

 解析班の懸命の作業により、モニターには各種情報が忙しく表示されている。

 ディアヌスを含めた餓霊軍の進路予想。

 各地の被害状況と、迎撃にあたるこちらの戦力。

 それらが刻一刻と変化しながら、膨大なデータとなって集積しているのだ。

「そうだね雪菜。それと……魔王の動きと言えばこれかな。ディアヌスが剣を突き立てた途端、各地の地震計がこぞって反応してる。これほど広い範囲の揺れは、剣の衝撃だけじゃ説明つかないよね」

 ヒカリはまだ出来る女モードでPCをいじりながら言った。

「実際、あちこちで地殻変動が見られるし、断層も活発化。小規模な噴火まで起きてるよ。まさにあの魔王は、日本そのものをブチ割るつもりだね」

「……俺達の理解を超えてる……が、現象として事実を受け入れるしかないか」

 つかさも腕組みしながら頷いた。

 ヒカリはなおも機器を操作し、モニターに白く輝く半球ドームを映し出した。

「それで現在ディアヌスは、摩訶まか不思議な光に包まれて停止中……だけど、それもどうやら一時的みたいさ」

 やがてドームの映像の横に、音声と振動を示す数値が表示される。

「音はどんどん大きくなってるし、近いうちに再侵攻すると思うよ」

 ヒカリはそこで口元に手を当て、考え込むような仕草をとった。

 雪菜は昔を思い出す。

 神武勲章レジェンド隊のパイロットだった頃から、ヒカリはこうして戦況分析するのが得意だった。

 彼女や輪太郎の冷静かつ大胆な思考回路に、隊は何度も助けられてきたし、真面目にしてさえいれば、非常に頼れる仲間なのだ。

 遠すぎる親戚に、日本史上屈指の偉大な政治家がいた、という話を聞いた事があるが、もしかしたらそういう血筋も影響しているのかも知れない。

「……でも問題は、ディアヌスが再侵攻した際、ボク達に有効な迎撃手段が無い事なんだよねえ。あらゆる物理攻撃ぶつりを弾き、いかな属性添加攻撃エレメントをも無効化する。逆に相手が繰り出すのは、神話の魔法かと思われる、災害級の連続攻撃さ」

「………………」

 ヒカリの言葉に、雪菜もつかさも押し黙った。

 それは付近にいる解析班のメンバーも同じだ。皆、作業の手が鈍り、重苦しい空気に包まれてしまう。

 対策を練ろうにも、相手が強すぎてどうにもならない。そんな絶望が場を覆いかけていたが、ヒカリはそこで声のトーンを変えた。

「なーに落ち込んでるの、これはあくまで現時点の話さ! 攻略法はこれからザクザク見つけるし、奥の手だってあるんだから。そこのチミ達、手が止まってるよ? ちょっと休んで、ボクにいっちょう任せてごらんよ!」

 座っていた若年兵達をぬうりゃっ、そいやと放り投げ、デスクに座るヒカリだったが、そこで腰に手を当てる。

「だ、駄目だ……ボクはここまでさ。つかさ、後は頼むよ……」

 つかさはヒカリが投げた兵員達をキャッチしていたが、たまりかねてツッコミを入れる。

「だぁから、やるまでにエネルギー使い果たすなっ! 体ボロボロなんだから、何でもかんでも全力で動くなっ!」

 ヒカリは再びカッと目を光らせる。

「このバカ野郎っ、全力は使うためにあるんだぜっ! 男は黙って全力投球ぅっ!」

「だからお前は女……!」

「1回ずつそれやってたらっ、話に100年かかるでしょうがっ!!!」

 たまりかねて雪菜が怒鳴り、2人はしゅんとなって反省している。

 自分で怒っておきながら、雪菜は苦笑してしまった。本当に……現役時代から何も変わっていない。

 だが雪菜は、そこでふと気が付いた。

「そうだヒカリ。さっき奥の手って言ってたけど……」

「それは今度言うよ。5年後ぐらいに……」

「それじゃ遅いのよっ!」

 雪菜は再びツッコミを入れてしまう。ヒカリは満足そうに笑いながら言った。

「ごめんごめん、それじゃあちょっとだけ。小笠原おがさわらから希望の光さ」

「小笠原……?」

 雪菜は不思議そうに繰り返すが、そこではっと思い当たった。

「小笠原諸島って……まさか震天しんてん!? 完成してたの……!?」

「まだ未完成さ。でもいざとなればね。ボクも随分関わったけど、筑波つくばのおっちゃんが島で缶詰だし、今頃必死で仕上げてると思うよ」

 ヒカリはウインクし、ぐっと力強く拳を握る。

「アレが動けば、戦況は変わる。分は悪いけど、ちょっとだけね」

「……ちょっとか。ま、ゼロよりマシだな……!」

 つかさは引き締まった表情で、手でバンダナのずれを直した。

 軍用ジャケットとは全く似合わぬ、場違いな赤いバンダナ。

 現役時代から……いや、わらが髪に入らないよう、畜産農家の息子だった頃からの愛用品であるが、彼がそれをつけ続ける理由は明白だ。

 旧自衛軍の人達が、今も迷彩服を着るのと同じく、若者達にこちらの存在を見せるためだ。苦しい思いで戦っている彼らに、「大人は今も君達を見捨てていない」と伝えるためだ。

 かつて日本中を駆け巡り、人々を守ってきた『第001人型重機実験小隊』、通称『神武勲章レジェンド隊』の勇士が、ここにありと見せるためである。

 長い戦いによる負傷と、神経負荷で体はボロボロ。それでもお飾りぐらいはやってやる。

 くたびれて何度も染め直したバンダナは、そんな気概を示すかのように誇らしげに見えた。

「その意気だよつかさ。君は本来脳筋キャラ、根拠なき勇気こそ君の持ち味さ」

 ヒカリは適当な事を言いつつ親指を立てるが、そこでふと手元の携帯端末を見やる。

「……おおっ、どうやらお偉いさんの会議も終わったみたいだよ」

 ヒカリが端末を操作すると、正面の巨大モニターに、船団長達の姿が映った。

 やがて彼らを代表し、第5船団の船団長・佐々木氏が、人々に向けて決戦の決意表明を行っている。

『現在我々は、未曾有みぞうの危機に見舞みまわれております。魔王の力は絶大で、これに対し、いがみ合っていては勝利する事は出来ません。よって我々は、ここに対ディアヌスの究極的、かつ包括ほうかつ的な軍事協力体制を発動し、全ての国民の安全と未来をかけて、魔王との最終決戦に臨む事を……』

 佐々木の演説は長かったが、示す内容は単純明快だった。

 通常の条約・協定のような、細かく詰めた項目など一切皆無。そんな調整は勝った後にやればいいからだ。

 ただ可能な限り戦力を融通し、可能な限り指揮を統合。可能な限り避難に協力し、可能な限り継戦する。

 つまりそれは、日本中が全ての力を結集し、ディアヌスとの最後の戦いに臨むという事だ。

「……あのバケモノのおかげとはいえ、もう一度、日本が1つになって戦うなんてね」

 雪菜の言葉に、つかさも力強く頷いた。

「魔王だか何だか知らないが……日本中が力を合わせて、四十七士しじゅうしちしの討ち入りだ。負けてたまるかってんだ……!」

「いいぞぉ脳筋! もっとやれ!」

「お前は脳筋言い過ぎなんだよ!」

 つかさのツッコミに、周囲には少し笑いが巻き起こるのだった。
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