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第四章その2 ~大活躍!~ 関東からの助っ人編

ヒカリは話の腰を折る1

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鶉谷うずらたに少佐、お待ちしておりました」

 案内役の兵員は、素早く敬礼して雪菜を誘導していく。

 甲板には他にも幾つかの航空機が着艦中だったが、誘導作業はよどみない。

 さすが日本最強と名高い第3船団ね、と感心しながら、雪菜は艦載かんさいエレベーターに乗った。



「こ、これは……壮観そうかんだわ……!」

 司令部に着くなり、雪菜は初見で圧倒された。

 そこは一言で例えるなら、体育館ほどもある巨大な事務室だ。

 ライトグレーに彩られた無骨な鉄骨、そして鉄壁に囲まれた格納庫区画に、大量のデスクとPC、連絡機材が持ち込まれ、幾多のケーブルがそれらを繋いでいるのだ。

 これが魔王との決戦に備えて設立された、第3船団の『対ディアヌス臨時特別司令部』である。

 旧自衛隊の迷彩服、そして新しい自衛軍の制服。様々な格好の人々が動き回り、日本中から集まる情報を解析していた。

 状況によっては全ての船団の人と情報が入り乱れる事になるため、通常の戦闘指揮所だけでは処理し切れないと予想されたからなのだが……それにしてもこの光景は異様である。

(さ……さすがにちょっと人に酔いそう……)

 幼い頃に蟻の巣をつついた時のような感覚に襲われる雪菜だったが、そこで元気な声に振り返った。

「おーやおやおやーっ、ヤッホーヤホホホーッ! これはこれは、愛しの雪菜くんじゃないかっ!」

「……はい?」

 雪菜が振り返ると、そこには軍用ジャケットにタイトスカートを着た女性が、腰に当てて立っていた。

 少し小柄だったが、歳は雪菜とほぼ同じぐらい。

 強い意志に満ちた顔立ち、膨大なエネルギーを発散する全身。

 艶やかなストレートの長髪で、前髪はスパッと断ち切るぱっつんタイプだ。

 目力が強く、眉は色濃く男らしい…………もとい、格好いい系の美人である。

 一見して出来るオーラ全開の人物であるが、彼女はシュバッ、と手を上げて中途半端な敬礼をしつつ、凄まじいスピードで駆け寄って来た。

「それじゃあ雪菜っ、この越中こしなかヒカリと喜びの抱擁デスマッチといこうじゃないか!」

「ひっ、相変わらず動きが速いっ!?」

 慌てる雪菜だったが、ヒカリは途中で腰を押さえ、ヘロヘロと崩れ落ちた。

「あいたた……やっぱ歳には勝てんね。つかさ、介錯かいしゃくヨロシクぅ……!」

「アホかヒカリ、まだ何もしてないだろっ! てかお前も20代だろうが」

 こちらも見覚えのある青年・赤穂士あこうつかさが、呆れながら彼女を助け起こした。

 同じく軍用ジャケットに身を包み、頭には海賊のように赤いバンダナを被っている。

 日に焼けて活発そうで、いかにも田舎の農家の青年、という印象だが、実際には四国より色々都会的な郊外農家だったらしい。全ての人が都会の色に染まるわけでは無いのだろう。

「……ったく、ベコの世話が終わったと思ったら、何で同期の面倒見るんだ」

「そりゃーチミぃ、ボクは元・神武勲章レジェンド隊だよ? 偉大なパイロットだったんだから、チミも先輩に敬意をだね」

「俺も同じ隊だっただろ! てか先輩って3日だけ、3日しか入隊違わんし」

 だがそこでヒカリはカッと目を光らせる。

「バカ野郎っ! 男子3日会わざれば刮目かつもくして見やがれぃっ!」

「女子だろお前はっ!」

 なおも揉める2人だったが、雪菜はそこでフルパワーで机を叩く。

「これじゃ、話が進まないでしょうがっ!!!」

 雪菜が怒鳴り、2人はその剣幕に大人しくなった。

 周りの兵員もかなり広範囲でドン引きしていたため、雪菜は周囲に頭を下げた。

 ヒカリは再び出来る女オーラを出しながら、何事も無かったように話し始める。

「ふざけて御免なさい、しばらくねレディー雪菜。こんな再会は望ましくなかったけど……うふふ、会えて嬉しいわ」

 髪を片手でふわさ、となびかせ、ヒカリは雪菜の手を握る。

 いちいち芝居がかっているのが気になるが、会話が進む分、さっきよりは全然マシだ。

「こっちも嬉しいわ、ヒカリ。急場しのぎのタッグだけど、ここは何とかしなくちゃね」

 3人はようやく本題に戻り、現状確認を進めるのだった。
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