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第四章その2 ~大活躍!~ 関東からの助っ人編

個性がないのが個性

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「怪我は平気? お嬢さんがた」

 濃紺の人型重機は、そう言って優美な動作で振り返る。

「あっはいっ、でもまだ餓霊てきが……!」

 カノンは周囲を見回しながら答えた。

 戦闘は継続中であり、いまだ10体以上の餓霊が暴れているのである。

 まるで戦いを終え、優雅にお茶でもしているかのようなパイロットの口調に戸惑うカノンだったが……

「大丈夫。弥太郎やたろうなら問題ないわ」

 彼女の言葉通りだった。

 残り3機に比べ、いささか特徴に欠けるその機体は、難なく敵を片付けていく。

 普通に銃を的確に当て、普通に刀を上手く操り。

 これと言って個性はないが、普通に見事な戦闘技術だ。

 程なく彼は餓霊どもを制圧した。

「……ね? 問題ないでしょ?」

 少しおかしそうに言う紺の機体のパイロットだったが、そこで他の機体も会話に割り込んできた。

「う~ん、そつはないけど売りもないねえ? 商品化は厳しいかな~?」

 ドハデでカラフルな重機が、機体の顎に手を当てて言うと、黄金の機体も参加してくる。

「へっ、てんで地味だな、却下だ」

「改修したのに変わってないわね。個性が無いのが個性かしら……」

「見た目はともかく、出力は変わってるんだよ! 隊長機だから汎用性はんようせい高い方がいいだろっ!」

 地味な機体は地団太じだんだを踏んだ。

 まるでロボットの人形劇を見ているような気分であるが、そこで地味な機体がこちらに向き直った。

「……ま、まあじゃれ合いはこのぐらいにして、今はとにかく退避しよう」

 彼がそう言う間にも、先ほどまでふざけていた他の機体は、既に撤収準備を始めていた。

 誠の白い人型重機を助け起こし、香川機や宮島機の黒こげ操縦席コクピットブロックも、そのまま持ち上げて回収している。

 中でどのように負傷しているか分からないし、慎重にこじ開けている時間が無いからなのだろう。

 やがて例の航空機が戻ってくると、降下速度を調整しながら垂直に着陸した。

 上空に広がる邪気の乱流、つまり対空呪詛の影響は、ほとんど受けていないようである。

 カノン達を乗せ終わると、航空機はすぐに浮上し、高い空へと舞い上がった。



 よろよろと機体を降りたカノン達は、胴体格納庫の……その外部モニターに流れる景色を見つめ、感嘆の声を上げた。

「それにしてもすごいわね……対空呪詛を中和して飛べるなんて……!」

 そこでカノンに、1人の女性が語りかけてくる。

「まだごく短時間よ? さっきみたいに濃すぎる時は、対空呪詛緩和レジスト電磁弾だんで中和しないと近付けないし」

 彼女は鳳に匹敵する背丈で、紺の髪を長く伸ばしている。

 大人びた肢体をパイロットスーツに包み、特に飾り気は無いのに、動作の1つ1つが洗練されて上品である。

 間違いなく、彼女があのベイシティと称された人型重機のパイロットなのだろう。

「大丈夫かしら皆さん。リクエストがあるなら遠慮なく言ってね?」

 思わず見とれるような物腰だったが、難波がそこで我に返った。

「い、いや、うちらより先に、男連中を……!」

「もうやってるわ。生きてるし、思ったより無事みたいよ」

 女性パイロットはウインクした。

 指差す彼女の言葉どおり、白い人型重機・心神から、そして黒焦げだった2つの操縦席から、少年達が助け出されていく。

 車両班も軽症だったが、特に生存が危ぶまれた宮島、香川の2人は、あちこち負傷し、火傷も負っているものの、奇跡的に命に別状は無さそうである。

 まるであのお姫様が、最後の力で幸運を分けてくれたかのようだ。

 救護の手はずも迅速で、車輪付き担架ベッドストレッチャーが少年達を運んでいく。

「よ……良かった……! このアホどもっ、心配させんやないでほんま! 後でしこたまおごらせたるからな!」

 難波は泣き笑いのような顔で少年達をぺしぺし叩き、医療班が悲鳴を上げている。

 カノンは難波を止めながらも、深々と頭を下げた。

「あ、あの、本当にありがとうございました。先ほどはお礼を申し上げるのが遅れ……」

 女性は特に気にした様子もなく、片手をカノンに差し出した。

「大丈夫、助かってよかったわね。私は海老名えびな……そう、海老名でいいわ。階級は大尉だけど、どうせ子供同士だし。適当に呼んでね」

 という事は10代なのだ。大人びて色っぽいのに、見た目よりかなり若い……と思いながら、カノンも手を握り返した。

「はい、海老名さん。私は望月もちづきカノン、こちらは難波なんばこのみ。どちらも人型重機のパイロットです。そしてこちらが鳳……ええと」

鳳飛鳥おおとりあすかです」

 鳳は背筋を真っ直ぐに伸ばし、海老名に深々と一礼した。

「危機をお救いいただき、感謝の言葉もありません。このご恩はいずれ……」

 そこで能天気な声が後を続けた。

「ほんとに~? だったらうちの店に食べに来てほしいなあ~♪」

 カノン達が振り返ると、そこにはいかにも明るい顔の少女が手を振っていた。

「第3船団が誇る名店、『餃子のひかる』のオーナーこと、杉並晃すぎなみひかるだよ。日の光が合体してひかる! レジェンドのヒカリさんとも似てるし、けっこーいい名前でしょ?」

 彼女は指で空中に漢字を書き、ドヤ顔で腰に手を当てた。

「へっ、何が名店だよ、まだ1店舗じゃねぇか」

 腕組みしてそっぽを向くのは、今の時代では珍しい、黒の学生服を着た少年だ。

 それもかなり着崩しており、ソデは腕まくり、腹にはサラシを巻いている。

 髪はやや長く、後ろで一つに結んでおり、野生的ワイルドな男前と言っても過言ではないだろう。

「俺は前橋翔馬まえばししょうま。操縦もさる事ながら、素手喧嘩ステゴロだってお手のものさ。関東一の暴れ馬なんだゼ?」

 少年は八重歯を見せてニヤリと笑い、さっとターンして背中を見せる。

 背中には馬の刺繍がおどっていたが、直下のロゴは『RUMBLEランブル HOSEホース』……やはり馬ではなく、水道のホースであった。

 難波も鳳も黙ってスペルを見つめているので、恐らく全員脳内にて、HORSE(※馬)と訂正しているのだろう。

「やだねえこれだからヤンキーは。あたしはれっきとした経営者、美少女オーナーなんだから。ゴムホースと一緒にしないでちょーだい」

「こっ、これはちょっと間違えただけだろっ!」

 真っ赤になって反論する翔馬を、もう1人の少年が止めた。

「まあいいだろ翔馬、次は間違えずに発注しろよ」

 彼はごく普通の風貌の、普通すぎる少年だった。

 髪は黒で、特に長くも短くもない。

 既成品のパイロットスーツで改造なし、言動も常識的で、おかしな所は何もなかった。

 少年はカノン達に手を差し出す。

「第3船団の特殊人型重機遊撃隊、指揮官の春日部弥太郎かすかべやたろうです。よろしく」

「ど、どうも……」

 カノンはまじまじと相手を観察しながら握手した。

 難波も鳳も、かなり静かに握手している。

 困った空気が流れたが、そこでひかるがツッコミを入れる。

「ありゃりゃ、こいつだけ特徴無いって思ってるね?」

「いっいえ、そんな! そんな事は別に!」

 カノン達は慌て、弥太郎少年はかなりショックを受けていたが、ひかるは特に気にするでもなく片手を上げた。

「いよっしゃ、そんじゃひとまず関東に凱旋がいせんだぜい!」
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