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第四章その1 ~大ピンチ!?~ 無敵の魔王と堕ちた聖者編

日本を叩き割るつもりだ

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「魔王は現在、伊吹山地いぶきさんち鈴鹿山脈すずかさんみゃくの間を抜け、関が原を通過中です。このまま東の濃尾平野のうびへいやに……旧名古屋方面に出るつもりですね」

 輪太郎はそこで画面を切り替える。

 近畿地方の地図は消え、代わりに実際の魔王の映像が映し出された。

「現在は自衛軍の方でもディアヌスを追跡しています。邪気の通信撹乱ジャミングを受けにくい、有線ケーブル車による映像ですが……それでもかなり乱れていますね」

 画面には、稲光いなびかりと豪雨を受けて進む魔王が、関が原を闊歩かっぽする様子が映っている。

 まるで強力な嵐そのものが、地響きを立てて近づいているようだったが……魔王は唐突に歩みを止めた。

「なんだってんだ……?」

 高山がいぶかしげに画面を見据える。

 湖南達も同様だったが、やがて魔王は刀を逆手さかてに持ち替えた。

 そのまま高々と刀を掲げ、両手で大地に突き刺したのだ。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 大地震かとも思える凄まじい衝撃に、地表は広範囲でひび割れ……信じられない事に、赤いマグマが噴き上がり始めたのだ。

 撮影車両も大きく揺れて、映像はそこで途切れてしまった。

「やりやがった……! 野郎、無理やり突き崩しやがったんだ……!」

 高山の呟きに、湖南が尋ねる。

「突き崩す?」

「おう……そうだな」

 高山はうつむき、ガリガリ頭をかきながら答える。

「……お前ら中央構造線とか、糸魚川いといがわ静岡構造線は知ってるか?」

「一応習いましたけど……学校が無くなったんで、津和野さんに教わって……」

 湖南は懸命に記憶の糸を手繰たぐった。色々と難しい理屈を端折はしょれば、要するにそれらは大地に走る巨大な割れ目だ。

 高山はうなずいて説明を続けた。

「……なら話が早いが、あれが日本の地脈エネルギーの境目であり、大地の裂け目、急所だと思え。エネルギーの流れは時間と共にずれるんで、厳密には今の地脈と構造線はズレがあるがな。とにかく、ああいう各地の裂け目の重要ポイント……大地のかなめをこじあけて、数多あまたの断層を目覚めさせる。要するに魔王は、日本をいくつかに叩き割るつもりだ」

「なっ!?」

 湖南は思わず声のボリュームを上げた。

「そんな、何が目的なんです!? 敵は日本を占領したいんでしょう!? そんな事したら…………あっ」

 口に人差し指を当てる輪太郎に気付き、湖南は声のトーンを落とした。

「…………そ、そんな事したら、支配する土地が滅茶苦茶になるじゃないですか」

「だろうな。だから敵も今までやりたくなかったんだろう」

 高山が目配せすると、輪太郎が再び画面の表示を切り替える。

 そこには日本列島が映し出され、地表に張り巡らされた、オレンジ色の光の網目が見て取れた。あの網が封印であり、日本の地下に邪神を閉じ込める結界なのだ。

 やがて網目の上空に、幾多の柱が映し出された。

 神々の指導の元、全神連が作り出した霊的な呪詛柱じゅそばしらであり、柱が網目に着地すると、柱はカギが閉まるような音を立てて回転し、封印の網目は強く引き締められていく。

 こうして柱によって封印の強度を保っているわけだが、現在地上はほとんど餓霊に占領されているため、柱は最も巨大な長野地方のそれを除き、破壊されてしまっているのだ。

「……現在残る最後の柱は、日本列島のかなめの地、信濃しなの大柱おおばしらのみだ。これがある限り、封印はギリギリで押さえられてるし、邪神の本体も出て来れない。かといって最後の柱は複雑で巨大、力技では解呪かいじゅ出来ない。だから強硬策に出たんだろう」

 高山がそこまで言うと、画面の日本列島が大きくひび割れ、いくつかに分かれていく。すると封印の網目も、同様に乱れて途切れていったのだ。

「……見ての通りだ。柱が破壊できなくても、列島そのものを切断すれば封印は揺らぐ。向こうにとってもあまり望ましくないだろうが……何か敵さんにも、勝負を焦るような事情があるかもしれねえな」

 湖南は映像を見つめ、ごくりと息を飲み込んだ。

「……で、でも、日本を割るって……本当に可能なんですか?」

「出来る。あの破壊神の『腕力と魔力量ばかぢから』があればな」

 高山はそう断言した。

 輪太郎は再び映像を切り替え、魔王の位置と予想進路を映し出した。

「進路から推測すれば、魔王は東進しながら重要な地脈ポイントを開放し続け、最終的には旧富士市付近に達する模様です。あの辺は古代、南から別の陸地が衝突して出来た場所ですし、地下のエネルギーも蓄積しています。もしそこまで魔王に開放されれば、日本は粉々に砕けてしまうでしょう」

「そんな……!」

 絶句する湖南達をよそに、高山は再び頭をかいた。

「かと言って永津様も消耗が激しく、しばらくは戦えない。姫様も黒鷹さんも行方知れずだし、ピンチ中の大ピンチってわけよ」

「ひ、姫様が? 黒鷹さんも?」

 混乱の極みに陥る湖南と才次郎だったが、そこで高山が手を上げて静止した。

「……待て待て、確かに大ピンチだ。だから取り急ぎ、高天原たかまがはらのご決定が下った。特1級の神器を使って、魔王を足止めしていただく」

「特1級の神器……」

 湖南と才次郎は、不思議そうに繰り返した。
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