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第四章その1 ~大ピンチ!?~ 無敵の魔王と堕ちた聖者編

逃げられると思っているのか?

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「う、嘘やろ鶴っち……!?」

 カノンの機体の画面上で、難波が小さく呟いた。宮島、香川も驚きは同じで、ただ呆然と宙を見上げている。

 無理も無い。

 絶望的だった現世に現れ、魔物の群れをあっという間に追い払ってしまった無敵の姫君が。

 いつも元気いっぱいで、苦難など感じさせない幸運の化身が。

 このお姫様と一緒なら、魔王だって倒せるんじゃないか……そんなふうに思わせれてくれたあの鶴が。

 あっさりと、ほぼ手も足も出ずに、敵の体に取り込まれたのだから。

「あはははは、喰った! 喰ってやった! これであの忌々しい女神の弟子は消え失せたのだ!」

 女は凄まじい邪気を巻き上げながら大声で笑った。内心の興奮を表すように、その声は幾重にも重なって響き渡る。

「……か、カノっち、ウチらどないしたらええんよ……?」

「どうするったって……とにかく、とにかく逃げるのよっ!」

 カノンも混乱していたが、あの女の注意がこちらから逸れている間がチャンスだ。

 鶴を助けるにしろ、あの女を倒すにしろ、今はとにかく情報が不足している。一度距離をとり、それから対策を考えるしかない。

 カノン達の機体は、数台の輸送車に分かれて乗り込み、急ぎその場を後にする。

 行き先も方向も定かではないが、とりあえず離れるしかないからだ。

 輸送車のタイヤは激しい火花を上げ、高速で悪路を移動していく。

 …………が、あの姫君を倒した女は、そんな甘い相手ではなかった。

 不意に輸送車の前方に、激しい落雷が立て続けに起こった。

 輸送車はたまらず横滑りに急停止し、一同は周囲をうかがった。

「……無駄だ芋虫ども。逃げられると思っているのか……?」

 やがて空全体から鳴り響くかのような声と共に、女が暗雲から姿を現したのだ。

 女がゆっくりと降下し、胸の前で手を合わせると、辺りに円盤状の……半透明の地図が浮かび上がった。あの鶴が使う神器の地図とそっくりである。

 そして地図が拡大されると、輸送車と荷台に乗るカノン達の重機が、ありありと映し出されていたのだ。

「……我は魔界が選びし闇の神人しんじんぞ。道和多志みちわたし大鏡おおかがみと似た技ぐらい、魔界こちらも編み出してある……!」

 女は口を大きく開き、にんまりと歯を剥き出しにした。

「どこまで逃げても見つけ出し、全ての手札あがきを読み切ってやる。あの姫君がしてきた事を、そっくりそのまま返してやろう……!」

(……甘かった。簡単に逃げれるような相手じゃないんだ……!!)

 カノンは瞬時に覚悟を決めた。

 相手はあの鶴をも倒した存在。

 闇の神人と称し、異常な力を持つこの女に見つかって、誰も犠牲にならずに逃げるなど不可能だったのだ。

「ふざけるな、待てって言われて待つやつがいるかよ!」

 画面上で輸送班が気勢を吐くと、車体はホイルを唸らせて急速に加速する。

「いよっしゃその意気だ! すっ飛ばせ、後ろは俺達が守るからよ!」

 宮島が叫び、人型重機を操作すると、宙に浮かぶ女に弾丸をばら撒く。

「愚か者……ならば苦しみの中に死ね」

 女が差し出した手の平から、黒い邪気の球体が立て続けに発射される。

 車両班がぎりぎりでかわすも、その間に女はこちらに迫っていた。

 だがそれを待っていたように、左右から2台の輸送車が彼女を挟んだ。

 それぞれの荷台に乗る宮島、香川の人型重機は、手にした強化刀を振りかぶっている。

「おおおおおっ!!!」

「南無三っ!!!」

 左右同時に斬りつける宮島、香川の機体だったが、女を覆う邪気の光は、それを易々と受け止める。

 火花が散り、激しいエネルギーが乱れ飛ぶも、彼女の肌に傷一つ付く事はなかった。

「……だから無駄だと言うたであろうが」

 だが女が嘲笑おうとした時、画面上で宮島が叫んだ。

「よっしゃ止まった! 香川、いくぜ!」

 宮島の言葉と共に、2体の人型重機は刀を離す。そのまま機体の腰に手をやった。

 そこには円盤状の分厚い物体が備わっていた。

 他の船団でも採用されている、対大型餓霊用の投擲地雷とうてきじらい……つまりは強力な爆弾である。

 1つでも強力なその爆弾が、両方の腰、いや、装着帯ウェポンベルトを応用して、背にも胸にも巻きつけられている。

「あんた達、まさか……!!?」

 カノンが叫ぶと、画面上で宮島少年がウインクした。

「俺は伝説を残す男だぜ! こういう時ぐらいかっこつけねえとな!」

「そういう事だな。弘法大師にゃ及ばないが、俺も少しは名を残すさ!」

 スキンヘッドの香川少年が、片手で拝むようなポーズを取る。

 人型重機をジャンプさせ、女に迫ると、宮島は叫んだ。

「行けお前らっ、加速しろっ!!!」

 宮島の言葉に、3台の輸送車は猛烈に加速した。

 輸送車はそのまま、荷台後方に防御の電磁シールドを展開した。

 次の瞬間、目もくらむばかりの大爆発が起こったのだ。
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