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第五章その10 ~何としても私が!~ 岩凪姫の死闘編

父をまつる神社

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 砕けた瓦礫の中、岩凪姫は半身を起こした。

「……ぐっ……!」

 最早何ほどの力も残っていなかったが、それでも懐かしい気配を感じて辺りを見回す。

 懸命に目を凝らすと、土塀や瓦の破片に混じって、倒れた石碑が見て取れた。

 彫られた文字は三島神社。つまりは父の社である。

「三島神社……ととさまの社か……」

 その霊気に勇気付けられ、岩凪姫は立ち上がった。

 胸の傷が焼け付くように痛む。

 恐らくは霊核にまで達した魔法傷であり、油断すれば魂が崩れそうだったが、なんとか気力を振り絞った。

(まだ……諦めるわけにはいかぬ……! あの子達のところに、天音やつを行かせるわけにはいかんのだ……!)

 そう、考えてみればこれは幸運。

 絶体絶命には違いないが、まだ僅かながら勝機はある。

(幸いここはととさまの社、私と似た気が残っている。今の弱った私なら、十分紛れられるはず……!)

 足を引きずりながら、岩凪姫は歩を進めた。

 天音が降りてくる前に、どこかに身を隠さねばならない。

(とどめは必ず奴自身で来る。その一瞬に、残った力の全てを賭ければ……!)

 ふと目をやると、瓦礫の中に御幣ごへいが倒れていた。長い間、拝殿の奥で人々を見守り続けてきたものだ。

 今は薄汚れ、半分土に塗れた御幣に、岩凪姫は心で祈る。

(ととさま、どうか力をお貸し下さい……! 出来の悪い、親不孝な娘ですが、どうか私に最後の勇気を……!)

 やがて崩れた社の跡地に、天音がゆっくり舞い降りてきた。

「……それで隠れたつもりか? 私には見えているぞ……?」

 天音はあざ笑うように言うと、ひたひたと近づいてくる。

 どこまでも残酷に、どこまでも冷徹に。

 こちらの命を奪おうと、かつての弟子は迫ってくるのだ。
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