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第五章その7 ~その柱待った!~ 魔族のスパイ撃退編

御殿台(みあらかうてな)という人物

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 全神連・東国本部の中枢であり、いにしえから日本を見守り続ける法式殿ほうしきでん。そこにある己の席から、御殿みあらかうてなはほぼ三百年間動いていない。

 湯浴みや排泄など、生活に必要とされる最低限の行為を除き、僅かな睡眠すらも座したままだ。

 常に目を閉じているのは、配下が見ている景色を脳裏に映すため。

 常に静かな物言いなのは、自らの声で部下の思念波を聞き漏らさぬため。

 神々の手足となって駆け回る配下から、いつどのような連絡が来るやも知れぬ。

 その報せに間髪入れず対応するため、女である事すら捨てた。子を産むための器官は霊力で眠らせ、月経つきのもので体調がぶれる事はない。

 湯浴みの最中であっても、火急であれば裸で飛び出し、そのまま指揮をとった事もある。

 全身に微弱な時忘れの呪詛をかけているため、老化も極端に遅かったが、代償として今の世に親しい友人の1人もいない。

 その孤独に耐えながら、命の全てをこの日の本に捧げ、見守り続ける。

 それが全神連の総代が務めであり、数百年前、村と家族を魔物から救われたうてなが誓った恩返しであった。

 台の背後に飾られていた巨大な鏡、そして簡易の壁は取り払われ、奥の部屋があらわになっている。

 普段は何人なんぴとたりとも踏み込めないその場には、闘神・永津彦様が……そしてまだ幼いが、全神連の最高顧問たる『お二方』が腰掛け、これから始まる儀式を見守っておられた。

(これでようやく終わる……いえ、始まるのですね)

 台は久方ぶりに目を見開き、虚空の映像に目をやった。厳重に警護された御柱殿みはしらどのの映像であり、巨大な柱が映されているのだ。

 柱を囲む円形の足場も、今は殆どが取り外され、代わりに1つの足場だけが、手すりを含めてきらびやかに飾られている。

 やがて足場を通り、複数の人物が歩を進めた。

 儀式用の正装に身を包み、手に手に祭具さいぐ神宝しんぽうを掲げる彼らは、柱の創造に関わった全神連・御柱方みはしらがたの者達である。
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