新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
59 / 117
第五章その6 ~やっと平和になったのに!~ 不穏分子・自由の翼編

千年の悲願。驚異的な魔族の執念

しおりを挟む
 この国の人々が、新たな火種に揺れていた頃。闇の勢力もまた、その状況を変化させていた。

 まず魔王ディアヌスである。

 結論から言えば、ディアヌスは生きていた。ただし人型決戦兵器・震天との戦いによって、その力の殆どを失っていたのだ。

 巨大な体は砕け、飛び散り、残ったのは僅か数メートル程の小型の肉体のみ。当然、短時間で回復するのは不可能だったし、その間に八百万やおよろずの神が地上に戻ってくるだろう。

 同様に、ディアヌスと共に東海地方に迫っていた餓霊軍の精鋭も、その多くが消滅していた。

 餓霊とは、魔界の魂を反魂はんごんの術で呼び寄せ、大地のエネルギーで一時的に肉体を具現化させたもの。それは極めて高度なわざで、同時に大量の術をかける事は『本来は』難しいのだ。

 だからまず軸となる大将級の存在を定め、反魂の術をかける。そしてそこから派生的に周囲に術を及ぼし、配下の餓霊を呼び出すのである。

 つまりディアヌスが健在なら、周囲の餓霊も強力になるが、逆にディアヌスが弱れば、その配下どもは消え去るわけだ。

 鬼や熊襲くまそといった魔族も逃げ去り、見つからぬよう隠れていたが、もうしばらくすれば、魔族同士の壮大な責任のなすり付け合いが始まるのは明白だった。

 つまり絶望的な状況であり、ここからの逆転はあり得ないのが普通の感覚だった。

 …………そう、あくまで通常ならばだ。



「ああ、なんと懐かしい……千年ぶりだというのに、何も変わっておりませんわ、兄様あにさま

 石の鳥居を潜った途端、女は溜め息のように言葉を漏らした。

 歳は一見して20代だろうか。

 喪服のごとき黒い和装。異様に長い両の手足。

 少し縮れた黒髪は、足元に届かんばかりに長く伸ばされ、不気味なほど色白な顔には、濃いアイラインを施された目が輝いていた。

 魔族の中でも土蜘蛛と呼ばれた一族の、纏葉まとはと名乗る女である。

纏葉まとはよ、変わってないのは当然だろう。時忘れの結界の中なのだ」

 彼女に答えるのは、同じ年恰好としかっこうの青年だった。

 やはり全身を黒衣に包み、黒い髪を肩ほどに伸ばしている。

 土蜘蛛の中でも中心的な働きをする人物であり、名は笹鐘ささがね

「そう、驚く事は何も無い。ただあるべき所に帰ってきた、それだけの事なのだから……!」

 そう述べる笹鐘ささがねだったが、口元には隠し切れぬ笑みが浮かんでいる。

 殆ど感情をあらわにする事が無かった彼も、さすがに興奮を抑えられないのだろう。

 この2人を先頭として、黒衣をまとう数百人の集団は、静かに参道を進んで行った。

 敷石を踏みしめ、立ち並ぶ石灯籠いしどうろう一顧いっこだにせず。

 手に手に燃え盛る松明たいまつを掲げ、ただ無言で歩みを進める。あたかも深夜に神門をくぐり、祭事を行う神職のようだ。

 弓矢持つ像が飾られた随身門ずいしんもんを潜り、大紅葉おおもみじの林を過ぎれば、巨大な拝殿はいでんに辿り着いた。

 土蜘蛛達は足を止め、万感の思いで社に一礼した。

 そして松明から手を離した。松明は落下し、地に吸い込まれるように消えていく。



 …………極めて特筆すべき事として、この千年もの間、土蜘蛛は決してこの地を訪れなかった。

 彼らの祖霊神おやがみたる夜祖大神やそのおおかみまつるこの社だけでなく、それが鎮座する自分達の隠れ里さとそのものにだ。

 粗末な岩屋や放棄された寺社を転々とし、決して郷里くにに戻ろうとはしなかったのだ。千年の間ただの1度もであり、驚異的な忍耐力であった。

 それは日頃から里の本堂にたむろす鬼とは対照的だったし、万が一にも全神連に嗅ぎ付けられぬよう配慮した、徹底的な用心深さからである。



 一同が拝殿に座すと、先頭に座る笹鐘が口を開いた。

「ああ、偉大なる我らが祖霊神おやがみ夜祖大神やそのおおかみ様……! 千年の長きに渡り、貴方様の社にもうでませんでした事、どうぞお許し下さい……!」

 次の瞬間、拝殿奥に青紫の光が輝いた。やがて数瞬の後、眉目秀麗びもくしゅうれいな青年が座していたのだ。

 土蜘蛛達が崇める神であり、誠達を幾度となく絶望の淵に叩き込んだ知略の化身。つまりは夜祖大神やそのおおかみである。

「案ずるな笹鐘。心は常に共にあった」

 夜祖大神は頬杖をつくと、機嫌良さげに口元を緩める。

 それから右手をついと振り、虚空に映像を映し出した。

 そこにはほらで身を休めるディアヌスや、敗走し、みるみるうちに消滅していく餓霊の軍団。そして逃げ惑う他の魔族が映されている。

大蛇おろちは負傷……肉の巨体からだを失い、餓霊どもも残りわずかだ。他の魔族もしょぼくれている。普通なら、これで負けだと思うだろうが……」

 そこで笹鐘が身を乗り出した。

「はい大神様、これからが始まりで御座います。里に残した仕掛けも、全て生きておりました。問題なく動かせると思われます……!」

 あれほど冷静だった笹鐘が、珍しく血気にはやっている。

 もちろん他の土蜘蛛達も同様であった。

 纏葉も、そして配下の者達も、夜祖を見つめる目に異様な光を帯びているのだ。

 夜祖はそんな子孫を楽しげに眺めながら言った。

「よい顔だ、必ずや成功するであろう。爪繰あれが独断でなばるを動かした時は、さすがに危ぶまれたが……」

 夜祖はそこで右手を握り締めた。

 周囲に火花が舞い散り、邪気が燃え上がるように邪神かれの周囲に駆け巡る。

本音まことを言えば、お前達がなばるをつくると言い出した時、我は迷った。可愛い子孫をにえにしてまで、勝利したいと思わなんだが……」

 笹鐘は首を振り、声を高らかに訴えかけた。

「ああ、何と慈悲深い大神様! 何もお心を痛められる事はありません、我らが自ら申し出たのですから。それもこれも、一族が大神様の元、永遠に繁栄するために……隠れて逃げ惑う暮らしから開放されるためなのです……!」

 夜祖はゆっくりと頷いた。

「お前達の犠牲、決して無駄にはせぬ。いよいよ見せ付けよう、千年に及ぶ我らの覚悟を。欺瞞ぎまんに満ちたこの日の本の国を、絶望の海に沈めるのだ……!!!」

『夜祖大神様の仰せのままに!!!!!』

 土蜘蛛達が一斉に応えた。

 その気勢は拝殿を揺さぶり、隠れ里全体を震わせる程であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...