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第五章その4 ~神のギフト!?~ 魔王の欠片・捜索編

500年分の玉手箱

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「まったく、ナギっぺも現金なものだわ」

 鶴はそう毒づきながら話を続ける。

「最初の頃は、それはもう毎日お説教だったのよ? それが日本を取り戻したら、それ見たことか! 私の活躍に舌を巻いて、こうも手の平返すんだから」

 だから言ったのよ、この私を甘く見てはいけないと……などと楽しげに言う鶴の話を聞きながら、誠は歩みを進めていた。

 野営陣地からそう離れていない、ごく近場の散歩である。

 旧市街から少し離れ、かつては畑地だっただろうこの場所は、今は草ぼうぼうの荒れ具合だ。

 本格的な冬を迎え、夏には黄色い花を付けていたセイタカアワダチソウは、丈の高い枯れ草になっていた。

 真っ直ぐ伸びたこげ茶色の主茎は1メートルに達し、その先端には、枯れた小枝がドライフラワーのように残っている。

 幼い誠は、この枯れ草を根元から折り、友達とチャンバラごっこをしたものだ。

 外来植物なので、戦国時代には無かったはずなのだが、鶴は無造作にそれを手折たおり、機嫌よく振りながら熱弁している。

(昔も今も、人のやる事は変わらないんだな)

 誠は少し微笑ましく思い、それから少し想像してみる。

(もしこの時代に鶴が生まれてたら、どんな子供だったんだろう)

 とうもろこしを砕き、円錐状に固めた菓子……つまり●んがりコーンを渡したら、指に嵌めて遊ぶのだろうか。

 アイスを模したカプ●コをマイクに見立てて演説したり、台所のラップの芯を望遠鏡として覗いたりするのだろうか。

 ……そう、きっと誠達と変わらない子供時代だったろう。

 鎧や着物を着ていても、天から立派な使命を受けていても、彼女も同じ人間なのだから。

 あの竜宮で鎧を脱いだ鶴を見た時、誠はその事を実感した。

 どんなに明るく振る舞っても、辛い事も悲しい事もある。

 そんな事、前世でとっくに分かってたはずなのに……今生では殆ど彼女を労われなかった。

 そんな己の未熟さに、今になって後ろめたさを感じて……思い切って言ってみる。

「全部、ヒメ子のおかげなんだよな」

「えっ?」

 鶴はちょっと驚いたように目を丸くしたが、すぐに調子を合わせてくれる。

「そう、それよ! 黒鷹もようやく私の良さが分かってきたわね。でも鶴ちゃんの素晴らしさを知るには、まだまだ努力が必要よ? まずはこのテキストを買って、特別講座に申し込んで。定員が埋まり次第締め切るから、早いもの勝ちよ?」

 段々調子に乗り、テキストや映像教材を渡してくる鶴を眺めながら、誠は更に尋ねてみた。

「何か……言いたい事があるんじゃないか……?」

「言いたい事……?」

 鶴はそこでふざけるのを止めた。

 誠の顔を見つめ、少し今までと違うテンションで尋ねる。

「……………………どうして?」

「いや……そんな顔してたから」

 誠も根拠があるわけではない。それでも言葉は止まらなかった。

「言いたい事あるなら言ってくれよ。俺に出来る事もあるし……出来なくても、聞くだけで違うと思うからさ」

「…………………………そうね」

 鶴は珍しく冗談も言わず、黙って遠くの景色を眺めた。

 改めて見れば、とてつもなく贅沢な光景である。

 何気ない畑地の向こうに、冠雪かんせつした霊峰富士が見えるのである。

 勇壮な山体と、気高く白い雪の冠。シンプルで、それでいて無上の美しさを湛える姿。

 誰が見てもこの国の心のどころだと分かる特別な山だった。

「綺麗だわ。佐久夜姫さくちゃんのお山だもの」

 鶴はしばし富士に見とれ、それから再び口を開いた。

「……ね、ナギっぺの山も、隣にあればいいのにね」

 鶴は結局、誠の話をはぐらかした。つまり言わない決断をしたのである。

「ヒメ子……」

 誠は一瞬食い下がりかけた。でもそれ以上聞けなかった。

 彼女が決断した事だ、これ以上何を尋ねる?

 誠は首を振って迷いを断ち切り、無理やりに話を合わせる。

「岩凪姫の山か。どんな山になるんだろう」

「きっと怖い山よ? 高くて尖ってて、登る人みんな落っこちて。ぜんぜん誰も近づけないの」

「酷い言いようだな」

 誠が苦笑すると、鶴はそこで振り返った。

 手を後ろで組み、イタズラっぽく微笑んでいる。

 ポニーテールの髪がひらりと舞う様は、いつもの元気な鶴である。

「でも、本当は優しい山だわ。誰も登れないけど、ふもとの村を守ってるの。野風のかぜとか強い雨から、ずっとみんなをかばってるのよ」

「俺もそんな気がする。大三島だってそうだもん。石鎚山いしづちさんが守ってくれてるから、風の被害が出にくいしさ」

 2人はそれから、色々な事を話した。

 辛かった事、楽しかった事。

 子供の頃にやった遊びや、好きだった食べ物。

 行ってみたい場所、これからやってみたい事。

 前世の事も、今生の事も……ずっと戦い尽くめで話せなかった分、思いつく限りの事を喋ったのだ。

 本当に楽しい時間だったし、鶴も同じように感じたはずだ。

 なぜ竜宮で、あの時の止まった楽園で、もっと沢山話さなかったんだろう?

 そんな微かな後悔を覚えながら、誠は鶴と語り合った。

 まるで玉手箱を開いたみたいに、500年分の思い出を出し合って。

 そしてその時は、唐突に訪れたのだ。
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