新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)

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第五章その3 ~夢のバカンス!~ 隙あらば玉手の竜宮編

ポマード3回、かおり参上

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 焦ったかおりは、何とか軌道修正を試みた。

 礼儀正しく振る舞おうとか、お茶やお花を習おうとか。日本舞踊を始めようとまでした。

 しかしかおりの噂は、最早都市伝説のように一人歩きしていた。

 煮えたぎる湯を浴びせ、気に入らないお茶の先生を血祭りにした『らしいぜ』とか、巨大な剣山にモミの木を生け、倒した相手をクリスマスの飾りにした『そうだぜ』とか。

 舞踊の先生がかおりの機嫌をそこね、焼けた鉄板の上で踊らされたと『友達の知り合いのクラスメートのいとこが言ってたぜ』とか。

 かおりに会ったら車でも追いつかれる(※実際そうだったが)、だからポマードと3回唱えたら助かるとか、根も葉もない……いや、多少は信憑性のある噂が飛び交ったのだ。

「あのクソガキどもっ、何がポマードだよ。あたしは口裂け女かっ……!」

 逃げ惑う子供達を眺め、電柱を握りつぶしながら震えるかおりだったが、やがて最後のトドメが起こった。

 ある時島に、高名な女性運動家が来たのだ。

 強い女性をうたうポスターが島中に貼られたが、かおりは別に興味が無かった。これ以上強くなりたくなかったからである。

 しかし、女性運動家がかおりの噂を聞きつけ、ぜひ講演に参加して欲しいと誘ったのだ。

 贈り物のビールで父が買収されたため、かおりはわけも分からず連れて行かれた。

 隣で演説する青いスーツのおばさんは、しきりにかおりをアピールする。

「そこで彼女です! 彼女こそ、今世紀の強い女性像なのです!」

「あ、いや……確かに強いのは……強いかと思うっすけど……(物理的に)」

「皆さん、彼女を見習いましょう! 男に負けてはいけません! 戦うのです!」

「……い、いや、別にケンカする必要ないんじゃないすかね。助け合った方が、色々と便利なような……」

「駄目なのよそれじゃ! 男は憎むもの、打倒すべきものなの!」

(なんでそんな敵視すんだよ)

 かおりは後頭部をかきながら、早く帰りたいと思っていた。

(強くなりたきゃ、勝手にやりゃいいじゃねえか。こちとら好かれる方法知りたいってのに……)

 強くなりたいならなればいいし、仕事に打ち込みたいならやればいい。別にかおりは止めはしない。

 だが強制は御免である。全部の女がそういう生き方をしたいわけじゃないのだ。

 ガツガツ出世したくない女もいるし、争わず、のんびり生きたい女だっているのだ。

 適当にパートとかで働きながら、温かい家庭を築く生きがいだってあるだろうし……かおりはそれに憧れているッッ!

 そもそもなんでそこまで、異性を敵視せにゃならんのだ。

 男と女がケンカすれば、無駄に少子化になるだけだろう。

 子供が減れば物が売れない、税金だって入って来ない。

 そしたら国の財政??とかも悪くなるし、将来もらえる年金とかも……まあ減るっぽい感じだから、男尊女卑だんそんじょひ女尊男卑じょそんだんぴも、行き着く先は地獄なはずだ。

 あまり……いや、かなり頭の良くないかおりでもそう思うのに、なぜこの人は対立を煽るのだろうか。

(うぜえ……良く分かんねえけど滅茶苦茶うぜえ……!)

 かおりのイライラはどんどん溜まっていくが、おばさんは鈍いのか、特に気にする様子もない。

(いや待て、我慢だあたし。何のために習い事とかやってんだよ。全てはモテるためだろうがよ……!)

 必死で耐えるかおりだったが、そこでおばさんがかおりの手を高く掲げた。

「さあみなさん、この人を見習いましょう! これからの打倒男の戦いは、この人が旗印はたじるしなのですっ!」

「えええええっ!? ちょっ、何をおまっ、お前っ!?」

 いきなりとんでもない事を言われ、かおりは頭が白くなった。

 何で男を攻撃するシンボルに使われなきゃならんのだ。

 そんな事をしたら、もう一生幸せになれないじゃないか。

 やめろ、やめろ、ふざけるな。

 怒鳴りつけたい気持ちを必死に押し殺すかおりだったが、その時ふと、おばさんの手に目が行った。

 こちらの腕を取ったおばさんの薬指には、銀の指輪が光っていた。

(!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

 ブチブチとリアルな音が聞こえ、かおりの堪忍袋は破裂したのだ。

「てめえっ、結婚してんじゃねえかっっっ!!!!!」

 今までの鬱憤うっぷんが爆発し、かおりは怒声をはりあげた。

「お前っ自分だけ結婚しといてっ、人の幸せ邪魔してんじゃねえっっっ!!!」

 ワゴン車を破壊し、撮影係をぶん投げて。気付けば辺りは焦土と化していたのだ。

 そして最悪な事に、その様子は動画としてリアルタイムで配信されていた。

『恐るべし、大三島最強の女』

『男を憎む現代のアマゾネス』

『強すぎて草不可避www』

 そんなネットの煽り文句と共に、かおりの武勇は全国規模で拡散された。

 色恋を望もうにも、最早どうにもこうにもならなくなったのだ。



「…………いやまあ、あんたに大人しくなんて無理だろうけどさあ」

 パソコンでかおりの暴れる動画を眺め、コップ酒を傾けながら、母は諦めたように呟いた。

 テーブルの上には、破壊した機材の請求書の山がある。

「まったく、どこで育て方を間違えたんだろうねえ……」

「くうっ……!」

 正座して説教を受けながら、かおりは内心悔しがった。

(母さんだってそんなまともか? 年がら年中、24時間飲んでるじゃん、自称サバサバ系だけど、結構チクチク嫌味言うじゃん!)

 そう文句を言いたいかおりだったが、母の目はこう語っていた。

『でも私には、選んでくれたお父さんがいるからね!』

 今は農作業を終え、縁側でタコ踊りのような体操をしている父ではあったが、それでも母を選び、一度しかない人生を捧げてくれた。

 そして自分には、そういう相手がいないのである。

 何を言っても負け惜しみとなるため、かおりは小さくなるしかなかった。
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