上 下
36 / 117
第五章その3 ~夢のバカンス!~ 隙あらば玉手の竜宮編

ポマード3回、かおり参上

しおりを挟む
 焦ったかおりは、何とか軌道修正を試みた。

 礼儀正しく振る舞おうとか、お茶やお花を習おうとか。日本舞踊を始めようとまでした。

 しかしかおりの噂は、最早都市伝説のように一人歩きしていた。

 煮えたぎる湯を浴びせ、気に入らないお茶の先生を血祭りにした『らしいぜ』とか、巨大な剣山にモミの木を生け、倒した相手をクリスマスの飾りにした『そうだぜ』とか。

 舞踊の先生がかおりの機嫌をそこね、焼けた鉄板の上で踊らされたと『友達の知り合いのクラスメートのいとこが言ってたぜ』とか。

 かおりに会ったら車でも追いつかれる(※実際そうだったが)、だからポマードと3回唱えたら助かるとか、根も葉もない……いや、多少は信憑性のある噂が飛び交ったのだ。

「あのクソガキどもっ、何がポマードだよ。あたしは口裂け女かっ……!」

 逃げ惑う子供達を眺め、電柱を握りつぶしながら震えるかおりだったが、やがて最後のトドメが起こった。

 ある時島に、高名な女性運動家が来たのだ。

 強い女性をうたうポスターが島中に貼られたが、かおりは別に興味が無かった。これ以上強くなりたくなかったからである。

 しかし、女性運動家がかおりの噂を聞きつけ、ぜひ講演に参加して欲しいと誘ったのだ。

 贈り物のビールで父が買収されたため、かおりはわけも分からず連れて行かれた。

 隣で演説する青いスーツのおばさんは、しきりにかおりをアピールする。

「そこで彼女です! 彼女こそ、今世紀の強い女性像なのです!」

「あ、いや……確かに強いのは……強いかと思うっすけど……(物理的に)」

「皆さん、彼女を見習いましょう! 男に負けてはいけません! 戦うのです!」

「……い、いや、別にケンカする必要ないんじゃないすかね。助け合った方が、色々と便利なような……」

「駄目なのよそれじゃ! 男は憎むもの、打倒すべきものなの!」

(なんでそんな敵視すんだよ)

 かおりは後頭部をかきながら、早く帰りたいと思っていた。

(強くなりたきゃ、勝手にやりゃいいじゃねえか。こちとら好かれる方法知りたいってのに……)

 強くなりたいならなればいいし、仕事に打ち込みたいならやればいい。別にかおりは止めはしない。

 だが強制は御免である。全部の女がそういう生き方をしたいわけじゃないのだ。

 ガツガツ出世したくない女もいるし、争わず、のんびり生きたい女だっているのだ。

 適当にパートとかで働きながら、温かい家庭を築く生きがいだってあるだろうし……かおりはそれに憧れているッッ!

 そもそもなんでそこまで、異性を敵視せにゃならんのだ。

 男と女がケンカすれば、無駄に少子化になるだけだろう。

 子供が減れば物が売れない、税金だって入って来ない。

 そしたら国の財政??とかも悪くなるし、将来もらえる年金とかも……まあ減るっぽい感じだから、男尊女卑だんそんじょひ女尊男卑じょそんだんぴも、行き着く先は地獄なはずだ。

 あまり……いや、かなり頭の良くないかおりでもそう思うのに、なぜこの人は対立を煽るのだろうか。

(うぜえ……良く分かんねえけど滅茶苦茶うぜえ……!)

 かおりのイライラはどんどん溜まっていくが、おばさんは鈍いのか、特に気にする様子もない。

(いや待て、我慢だあたし。何のために習い事とかやってんだよ。全てはモテるためだろうがよ……!)

 必死で耐えるかおりだったが、そこでおばさんがかおりの手を高く掲げた。

「さあみなさん、この人を見習いましょう! これからの打倒男の戦いは、この人が旗印はたじるしなのですっ!」

「えええええっ!? ちょっ、何をおまっ、お前っ!?」

 いきなりとんでもない事を言われ、かおりは頭が白くなった。

 何で男を攻撃するシンボルに使われなきゃならんのだ。

 そんな事をしたら、もう一生幸せになれないじゃないか。

 やめろ、やめろ、ふざけるな。

 怒鳴りつけたい気持ちを必死に押し殺すかおりだったが、その時ふと、おばさんの手に目が行った。

 こちらの腕を取ったおばさんの薬指には、銀の指輪が光っていた。

(!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

 ブチブチとリアルな音が聞こえ、かおりの堪忍袋は破裂したのだ。

「てめえっ、結婚してんじゃねえかっっっ!!!!!」

 今までの鬱憤うっぷんが爆発し、かおりは怒声をはりあげた。

「お前っ自分だけ結婚しといてっ、人の幸せ邪魔してんじゃねえっっっ!!!」

 ワゴン車を破壊し、撮影係をぶん投げて。気付けば辺りは焦土と化していたのだ。

 そして最悪な事に、その様子は動画としてリアルタイムで配信されていた。

『恐るべし、大三島最強の女』

『男を憎む現代のアマゾネス』

『強すぎて草不可避www』

 そんなネットの煽り文句と共に、かおりの武勇は全国規模で拡散された。

 色恋を望もうにも、最早どうにもこうにもならなくなったのだ。



「…………いやまあ、あんたに大人しくなんて無理だろうけどさあ」

 パソコンでかおりの暴れる動画を眺め、コップ酒を傾けながら、母は諦めたように呟いた。

 テーブルの上には、破壊した機材の請求書の山がある。

「まったく、どこで育て方を間違えたんだろうねえ……」

「くうっ……!」

 正座して説教を受けながら、かおりは内心悔しがった。

(母さんだってそんなまともか? 年がら年中、24時間飲んでるじゃん、自称サバサバ系だけど、結構チクチク嫌味言うじゃん!)

 そう文句を言いたいかおりだったが、母の目はこう語っていた。

『でも私には、選んでくれたお父さんがいるからね!』

 今は農作業を終え、縁側でタコ踊りのような体操をしている父ではあったが、それでも母を選び、一度しかない人生を捧げてくれた。

 そして自分には、そういう相手がいないのである。

 何を言っても負け惜しみとなるため、かおりは小さくなるしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...