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第五章その2 ~おめでとう!~ やっと勝利のお祝い編

これはからしレンコンの涙よ!

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 誠達が目をやると、剛角も紫蓮も、刹鬼姫までもが青ざめている。

 そこで鳳がお酒を配りながら説明した。

「……あ、そう言えば、鬼神族は渡辺姓が苦手なのです。昔、渡辺綱わたなべのつなという豪傑がおられて、鬼退治で名を馳せましてね。守護霊的にもそういう感じで……」

 鳳が指差すと、渡辺さんの後ろに凄まじい形相かおの荒武者が浮かび上がった。

『ひいいいいっっっ!?』

 鬼達は悲鳴を上げて後ずさったが、鳳はにこにこしながら説明を続ける。

「昔、カノンさんが里抜けした時も、腕こきの渡辺達が追いましたからね」

「あの時は死ぬかと思ったわ……そうだっ、あたし料理の続きしてこよう」

 カノンはそそくさと台所に逃げていく。そう言えばカノンは、昔から渡辺さんの前では大人しかったのだ。

 宮島が頭の後ろで手を組み、ちょっとイタズラっぽく言った。

「うわ、ちょっとがっかりだな。俺、鬼神族ってかっこいいと思ってたのに。なあ香川?」

「確かにな。武人ぽくて尊敬出来ると思ってたが……どうやらそうじゃなかったようだ」

「む、むむむむっ……!」

 剛角は目を白黒させていたが、立ち上がって啖呵たんかをきった。

「ええい、何が渡辺綱じゃあっ! このほまれ高き剛角様が、そんなシーチキンみたいなヤツに負けるかいっ!」

 渡辺さんは嬉しそうに剛角の肩を叩く。

「そうそう、仲良くが一番だよ」

「ひいいいっ!? やっぱり怖いっ! 紫蓮、代われっ!」

「いやじゃ剛角、わしだって怖いぞっ!」

 一同は大いに笑ったのだが、そこで雪菜と天草が、誠の両隣に腰を降ろした。

「ゆ、雪菜さん? 天草さんも……えっ、もう飲んでる!?」

 見ると2人とも赤い顔である。

 さっきから静かだと思ったら、あの僅かな隙に酒をかっくらっていたのだ。

「嬉しい時はすぐ酔うんだよ。辛い時はいくら飲んでも酔えないけどね」

 渡辺さんがもっともらしい事を言うが、四国と九州が誇る美女2人に挟まれ、誠は内心穏やかではない。

「鳴瀬く~ん、あなたって子は、あなたって子はっっ……!」

 雪菜はぐぐぐっと頭を下げ、そこで一気に顔を上げた。

「ほんっっっとぉ~に、自慢の弟子らわっ……!!!」

 もしかして雪菜は絡み酒タイプなのか。目はとろんとしてうるみ、頬は真っ赤に上気している。

 とにかく距離がやたらと近く、あちこちに柔らかな何かが押し当てられている。

 普段はぴしっとした彼女の隙だらけな態度に、誠の脳内操縦席は大混乱である。

 誠の欲望担当であるエロ瀬誠、理性の象徴たる正義誠の両名は、口々に「いけ! いけ!」と声援を送っている。

 いや、だからエロ瀬はともかくもう1人は止めろよ、などと混乱する誠だったが、そこで反対側から肩を掴まれた。

「そうよ誠くんっ! あなた、さすが明日馬くんの弟子ねっ……! あんな魔王に勝つなんて……私、本気で感動したものっ……ううっ…!!!」

 天草はそこで感涙にむせび始める。どうやら彼女は泣き上戸のようだ。

「あ、天草さん、泣かないで……」

「泣いてないっ、これはからし蓮根の涙よっ! 誠くんも食べなさいっ!」

「うわっ!?」

 不意打ちでからし蓮根を口に押し込まれた。

 つーんとした辛みがくせになる……確かにおいしい、おいしいのだが、いかんせん量が多過ぎである。

「辛いっ、水、水っ!!!」

 誠は傍にあったコップを掴み、一気にからし蓮根を流し込んだ。

「……………………あ、あれっ???」

 それは何とも言えない味の水だった。

 今までに飲んだ事がない水。ていうか絶対水じゃない。

「……あ、それ私が置いたやつだわ」

 雪菜の声が聞こえるが、既に彼女の顔は何個にも分裂している。

 つまり、誠が飲んだ液体は……

「や、やばい、ちょっと顔あらってきま、」

 誠は慌てて立ち上がったが、世界がいきなりぐらりと回り、そこから記憶が無くなったのだ。
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