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第五章その2 ~おめでとう!~ やっと勝利のお祝い編

前世とは違う答えを…!

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 その後はコマの霊力で瞬間移動し、あちこち島内を見て回った。

 道の駅でしあわせの鐘を鳴らし、3人で記念撮影をした。

 生樹の御門や、斜面を下る階段みたいな美術館。少年自然の家に温泉施設。

 はてはなんてことないみかん畑や海水浴場、しまなみ海道の橋の上まで。

 コマがヘトヘトになるまで連れまわし、ようやく家の近くに戻ってきたのだ。

 コマは鶴の頭に乗って、ぐんにゃり手足を伸ばしている。

「もう、いくら病み上がりだからって、全部僕に転移させるんだもん。僕は転移が下手なんだよ?」

「まあまあコマ、これは鶴ちゃんの親心よ。この後ご馳走があるんだから、うんとお腹を減らしとかなきゃ」

 誠もニヤニヤしながら聞いていたが、そこでふと足が止まった。

 目に差し込んだ茜色の光が、何かの記憶を呼び覚ましたのだ。

 夕暮れの道。どす黒く変わっていくアスファルトの舗装。

 何もかもが夜に沈もうとする逢魔時おうまがときは、幼い頃に何度も見た光景だ。

 友達と別れ、猪が出ないよう祈りながら家路を走った、少し寂しい時間帯である。

 『また明日ね』と手を振って………だって、明日が来ると信じていたから。

 !!!!!!!!!!!!!!!! 

 不意に甲高いサイレンが、頭の中で鳴り響いた。本来は火災や水害を報せる防災用のものである。

「…………っっっ!!!」

 記憶が、心が、頭の中が混乱していく。呼吸が段々荒くなる。

 次の瞬間、足が勝手に動いた。目印もない路地に駆け込み、民家に飛びつく。玄関を開け、友を呼んだ。

 また走り、数件先の家を開ける。

 何度も何度も、夢中になって扉を開け、10年呼んでいない名を叫んだ。

 トモ、ヒデ、ミッチー、タカシ、アキにヨッシーにナベちゃん。

 それでも何の返事も無い。

 皆でアイスを買った店も、犬にバッグを取られた美術館前のバス停も。

 近所の人が誰かしらいた喫茶店も、おみやげやみかんを売っていた店も、今は冷たく静まり返っている。

 薄暗い玄関の床に、カレンダーが落ちていた。

 あの日のまま、いつまでも時の止まったカレンダーと、友がよく履いていたスニーカーが転がっている。

(………………そうか………………みんないなくなったんだ…………)

 分かり切っていた……けれどずっと目を背けてきた現実が、実感となって押し寄せて来たのだ。

 何もかもかなぐり捨てて、ただ日本を取り戻すために戦ってきた。

 勝ちさえすれば、魔王を倒しさえすれば、きっと何もかも解決する。そう思って死に物狂いで戦ってきたのに…………振り返ると、誰もいなくなっていたのだ。

 誠はしばし無言だったが、不意に誰かに手を握られた。

「!!!」

 びくっとして振り返ると、そこには鶴の姿があった。

 亡者の手ではない。

 温かくて柔らかい。それでいて力強い、命に満ちた女性の手だった。

「……大丈夫。もう平気よ……!」

「……っ」

 誠は口を開き、何か答えたつもりだった。何と答えたかは覚えていない。

 ただ鶴に手を引かれるまま、その場からぐいぐい引き離されていた。

 右手に広い公園が見えたため、鶴はそっちに踏み込んでいく。

 遺物が残る町並みより、こっちの方が誠の負担が少ないと思ったのだろう。

「平気よ黒鷹、私がいるもの」

 立ち止まると、鶴は少し怒ったように夕焼けを見つめていた。

 それは誠に対してではなく、世のあらゆる理不尽に対する怒りなのだろう。

 やがてコマが遠慮がちに口を開いた。

「………………ねえ、あっちに2人の像があるよ?」

 コマは鶴の肩から飛び降りて、公園の奥へと案内していく。

 薄闇に目を凝らすと、確かに何かの像が見える。

 近づいて確認すると、水路を挟んで鶴と安成やすなり……つまり、前世の2人が立っているのだった。

 像は手を差し伸べ、互いに見つめ合っている。

 鶴はしばしそれを眺めていたが、やがて像の傍に歩み寄った。

 それから対岸に手を伸ばし、声を張り上げた。

「黒鷹、駄目よ、行っちゃ駄目!」

「……ヒメ子……?」

 誠は少し戸惑ったが、やがて早足で橋の反対側へと回った。

 病み上がりなためか、少し体が重く感じる。

 それから呼吸を整え、鶴に返答した。

「泣いたら……泣いたら私が死ぬみたいですよ、姫様」

 鶴は尚も言葉を返す。

「だって、黒鷹がいくら強くても、小勢を率いて切り込むだなんて無茶だわ!」

「……大丈夫。きっと何とかなりますよ……!」

 前世で言った気休めだ。

 嘘八百だと分かっていたが、それでもあの日あの時には、この言葉しか無かったのだ。

 鶴は髪を振り乱し、ほとんど泣きそうになって叫んだ。

「私も行く! 私も一緒に連れてって、お願いっ!」

(…………っ!!!!!!!!!)

 一瞬、頭の中が真っ白になった。

 前世の自分は、ここで何と答えただろうか。

 思い出せない? 

 いや違う、思い出したくないのだ。

 今生こんじょうで得た新しい答えが、誠の中に宿っているから。

「………勿論です、姫様……!」

 誠は無意識に答えた。そう答える若武者姿の自分が見えた気がした。

「長き時を越え、幾度も命を救われたご恩、決して忘れておりません! この安成やすなり、どこまでもあなたの傍で、あなたをお守りいたします……!」

 あの日言えなかった本当の気持ちが、せきを切ったように溢れ出す。

 これでいいのだと誠は思った。

 この破天荒なお姫様と出会い、日本中を駆け巡った今、この答えしか無かったのだ。

「……500年遅いわ。ずっとそれが聞きたかったのに」

 鶴は嬉しそうだった。

 微笑みながら、目には涙を浮かべていた。

 泣きながら、足を前に踏み出していた。

 誠もつられて足が動いた。

 ごく自然に、魂に呼び寄せられるように。500年来の因果に引かれ、誠は鶴に歩み寄ったのだ。

 やがて橋の中央で、2人は向き合った。

 夕日に照らされ、鶴はいつもよりずっと大人びて見える。

「……大丈夫。何度でもやり直しましょう」

 鶴は力強く言った。

「どんな戦があっても、何度でも立ち上がってきたんだから。私達、きっと負けないわ……!」

 誠は無言で頷いた。

 目の前の彼女が、何かとても尊い存在のように思えた。

 …………だが、次の瞬間。
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