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第五章その2 ~おめでとう!~ やっと勝利のお祝い編
怪盗ツルパン。聖者にあるまじき呼称
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誠達は、しばらく無言で歩みを進めた。
きちんと見るのは、およそ10年ぶりの故郷の島だ。
壊れた建物も多かったし、高台には造成された富裕層の居住区も見える。
そうしたある程度の変化はあったが、猪に追われたみかん畑も、車に跳ねられて飛び込んだ無人販売所も、けっこう昔の面影が残っているのだ。
時折襲ってくる痛みに顔をしかめる誠だったが、内心では納得していた。
(歩くとちょっと痛いけど……このぐらいで済んだならラッキーか)
あの魔王と長時間戦って、大量の邪気を浴び続けたのである。更には巨大な人型重機・震天を操縦し、神経系の負担も限界を超えていた。
なのにこの程度で済んだのは、むしろ幸運過ぎると言っていいだろう。
「………………」
誠はそっと目を動かし、傍らの鶴を見やった。
普段はイタズラばかりの鶴は、今は静かに景色を眺めている。
根結いの垂髪……今風に言えばポニーテールの長い毛先が、歩みを進める度に楽しげに揺れていた。
特に飾り立ててはいないが、健康的で爽やかで、自然のままの美しさとでも言うのだろうか。
後ろ手を組み、頬を撫でる風を楽しむように歩む様子は、まるで育ちのいい姫君のように落ち着いて見えるのだ。
(……時々、変にそれっぽく見えるんだよな)
誠は少しどぎまぎして、雑念を追い払うべく首を振った。
大通り……といっても、島にしてはの大通りであるが、そこまで来ると少し景色が賑やかになった。
よく買い物に行ったスーパーマーケットを通り過ぎ、観光用の広い駐車場まで辿り着く。
道の反対側には藤棚が広がる公園があったが、餓霊が踏みしめて陥没しているため、今は立ち入り禁止になっていた。
道路脇から触手のように伸びてきた蔓や、主を失い、ほとんど野生化した庭木達。
見知ったレストランもかなり傷んで、いくつかの店は更地になっていた。確かこのへんには、誠と仲の良かった犬が繋がれていたはずだ。
観光客が並んだ海鮮料理屋も、夏にかき氷の旗がなびいた喫茶店も、以前の賑わいが嘘のように静まり返っている。
あの時食べたかき氷は、多分世界一おいしかった、などと思いながら進むと、大山祗神社に辿り着いた。
「ここは……ぜんぜん変わってないな……!」
日光を浴びた石の鳥居……正式には『二の鳥居』と、奥にそびえる木造の総門。
奇跡的に被害が少なかったのか、それとも全神連が直してくれたのだろうか。
両脇に生い茂る楠も、石の狛犬像もそのままで、何だか嬉しくなってしまう。
「黒鷹、お参りして行きましょうよ」
鶴は鳥居の前で一礼すると、再び誠の手を引いていく。
広い境内をぐいぐい進むが、落ち葉もほとんど見当たらない。
誰かが掃除してくれたのだろう、長い竹箒をワイパーのように動かした跡が、地面にはっきり残っていた。
樹齢2600年を越える乎知命御手植の楠を通り過ぎ、檜皮葺の神門を潜ると、もう拝殿の前である。
鶴は拝殿の前に立つと、得意げに言った。
「さ、着いたわ。今は三島大明神もお留守だけど、こういうのは気持ちが大事なのよ」
「そっか。殆どの神は、地上を留守してるんだっけ」
魔を封じ込めるため、大地に張り巡らした結界と、それを抑える封印の柱。その架け替えが終わるまで、神々は天に昇り、高天原の霊力も使って、上から結界を抑えてくれているのである。
誠達は参拝を済ませ、ぐるっと境内を見渡した。
本当にここは変わっていない。
右手の授与所、つまりお守りの販売所は無人なので、今日はおみくじに怯えないで済む。左手の回廊には、昔のままに沢山の酒樽が並んでいた。
それからふと思い立って、宝物殿に寄ってみる。
当然施錠されていたが、鶴が手をかざすと、易々とカギは開いた。鶴は過去最高のドヤ顔を見せ、「怪盗ツルパンよ」と言いながら宝物殿に踏み込む。
霊力で灯りを点し、貴重な武具を見て回ったのだが、渡り廊下で別館に行くと鶴が小走りになった。
「黒鷹、見て、私!」
追いつくと、そこにはかの有名な鶴姫の鎧が飾られていた。
いかにも女性用の鎧であり、ウエストの部分が狭く、胸の部分が膨らんでいる。
「ああ、やっぱり私はいいわねえ。国宝ですって。うんうん、未来の人は見る目があるわ」
鶴は上機嫌で頷きまくると、誠の手を引いて駆け出した。
「調子が出てきたわ、このままどんどん行きましょう!」
きちんと見るのは、およそ10年ぶりの故郷の島だ。
壊れた建物も多かったし、高台には造成された富裕層の居住区も見える。
そうしたある程度の変化はあったが、猪に追われたみかん畑も、車に跳ねられて飛び込んだ無人販売所も、けっこう昔の面影が残っているのだ。
時折襲ってくる痛みに顔をしかめる誠だったが、内心では納得していた。
(歩くとちょっと痛いけど……このぐらいで済んだならラッキーか)
あの魔王と長時間戦って、大量の邪気を浴び続けたのである。更には巨大な人型重機・震天を操縦し、神経系の負担も限界を超えていた。
なのにこの程度で済んだのは、むしろ幸運過ぎると言っていいだろう。
「………………」
誠はそっと目を動かし、傍らの鶴を見やった。
普段はイタズラばかりの鶴は、今は静かに景色を眺めている。
根結いの垂髪……今風に言えばポニーテールの長い毛先が、歩みを進める度に楽しげに揺れていた。
特に飾り立ててはいないが、健康的で爽やかで、自然のままの美しさとでも言うのだろうか。
後ろ手を組み、頬を撫でる風を楽しむように歩む様子は、まるで育ちのいい姫君のように落ち着いて見えるのだ。
(……時々、変にそれっぽく見えるんだよな)
誠は少しどぎまぎして、雑念を追い払うべく首を振った。
大通り……といっても、島にしてはの大通りであるが、そこまで来ると少し景色が賑やかになった。
よく買い物に行ったスーパーマーケットを通り過ぎ、観光用の広い駐車場まで辿り着く。
道の反対側には藤棚が広がる公園があったが、餓霊が踏みしめて陥没しているため、今は立ち入り禁止になっていた。
道路脇から触手のように伸びてきた蔓や、主を失い、ほとんど野生化した庭木達。
見知ったレストランもかなり傷んで、いくつかの店は更地になっていた。確かこのへんには、誠と仲の良かった犬が繋がれていたはずだ。
観光客が並んだ海鮮料理屋も、夏にかき氷の旗がなびいた喫茶店も、以前の賑わいが嘘のように静まり返っている。
あの時食べたかき氷は、多分世界一おいしかった、などと思いながら進むと、大山祗神社に辿り着いた。
「ここは……ぜんぜん変わってないな……!」
日光を浴びた石の鳥居……正式には『二の鳥居』と、奥にそびえる木造の総門。
奇跡的に被害が少なかったのか、それとも全神連が直してくれたのだろうか。
両脇に生い茂る楠も、石の狛犬像もそのままで、何だか嬉しくなってしまう。
「黒鷹、お参りして行きましょうよ」
鶴は鳥居の前で一礼すると、再び誠の手を引いていく。
広い境内をぐいぐい進むが、落ち葉もほとんど見当たらない。
誰かが掃除してくれたのだろう、長い竹箒をワイパーのように動かした跡が、地面にはっきり残っていた。
樹齢2600年を越える乎知命御手植の楠を通り過ぎ、檜皮葺の神門を潜ると、もう拝殿の前である。
鶴は拝殿の前に立つと、得意げに言った。
「さ、着いたわ。今は三島大明神もお留守だけど、こういうのは気持ちが大事なのよ」
「そっか。殆どの神は、地上を留守してるんだっけ」
魔を封じ込めるため、大地に張り巡らした結界と、それを抑える封印の柱。その架け替えが終わるまで、神々は天に昇り、高天原の霊力も使って、上から結界を抑えてくれているのである。
誠達は参拝を済ませ、ぐるっと境内を見渡した。
本当にここは変わっていない。
右手の授与所、つまりお守りの販売所は無人なので、今日はおみくじに怯えないで済む。左手の回廊には、昔のままに沢山の酒樽が並んでいた。
それからふと思い立って、宝物殿に寄ってみる。
当然施錠されていたが、鶴が手をかざすと、易々とカギは開いた。鶴は過去最高のドヤ顔を見せ、「怪盗ツルパンよ」と言いながら宝物殿に踏み込む。
霊力で灯りを点し、貴重な武具を見て回ったのだが、渡り廊下で別館に行くと鶴が小走りになった。
「黒鷹、見て、私!」
追いつくと、そこにはかの有名な鶴姫の鎧が飾られていた。
いかにも女性用の鎧であり、ウエストの部分が狭く、胸の部分が膨らんでいる。
「ああ、やっぱり私はいいわねえ。国宝ですって。うんうん、未来の人は見る目があるわ」
鶴は上機嫌で頷きまくると、誠の手を引いて駆け出した。
「調子が出てきたわ、このままどんどん行きましょう!」
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