6 / 117
第五章その1 ~ほんとに勝ったの?~ 半信半疑の事後処理編
神さまの前でうたた寝。でも今日は許す!
しおりを挟む
しばし後。
神職ふうに正装した鳳飛鳥は、板張りの拝殿に座っていた。
居並ぶ一同は、奥の高座に向かって、数列に分かれて正座している。
鳳は2列目であり、すぐ前には救国の聖女である大祝鶴姫様。
そして彼女の傍らには、同じく救国の英雄たる黒鷹様……鳴瀬氏が座っていた。
彼の後ろ姿を見つめ、鳳は何ともいえない気持ちになった。
(黒鷹様……ご立派になられましたね……!)
心からそう思えてしまう。
黒鷹様は、自分より2つ年下の17歳。初めて会った時は、何とも頼りなく見えたものだった。
姫様が現世に来るまでは苦戦の連続だったので、単に最初は疲れ果てていただけかもしれない。だが、それにしても驚くべき成長ぶりである。
四国で、九州で、そして能登半島での戦いで。あらゆる艱難辛苦に立ち向かい、最後には富士の裾野の大決戦にて、あの無敵の魔王を打ち倒してしまった。
もちろん他の多くの人の協力があってこそだったが、それでも彼の活躍なくして、魔王ディアヌスを葬る事は出来なかっただろう。
自分はこの人に仕え、この国を守るお役目を果たしたのだ。
そう思える事が誇らしく、また少し寂しくも思えた。
(日の本奪還の戦いを終えて……私は警護のお役目を解かれる……そしたら黒鷹様と会う事も、恐らくなくなる……)
鳳はその事が切なく、ぎゅっと手を握り締める。
そんな鳳の内心をよそに、彼の肩に乗る神使のキツネが、嬉しそうに話しかけていた。
「ええか、ほんまに調子に乗るんやないで? 稲荷大明神様と、ワイらあっての勝利やからな?」
「いや、何回も聞いたから。もう10回目だろ」
「嘘こけっ、まだ9回やぞ!」
「分かってて言ってるのかよ……」
黒鷹様は困って引き気味である。
その横顔はいかにも歳相応であり、とても大役を果たしたようには見えない。
鳳は少しおかしくなって微笑んだが、そこで高らかに声が響いた。
「闘神・葦原永津彦命様、ご来光!」
やがて強い光が閃き、高座の椅子に神の姿が現れた。
立ち上がったなら、4メートル近い体躯だろう。
顔の両脇で髪を結んだ角髪。胸元に下げられた勾玉の首飾り。
白い袴は膝下辺りで足結いの紐で結ばれ、いかにも神話の絵巻物に描かれる神の姿であった。
日本奪還を指揮した永津彦様は、この混乱が起きた直後、自ら魔王ディアヌスと戦われたのだ。
邪気に溢れた環境であり、全力を出す事は出来なかったが、ディアヌスも不完全な状態だったため、相打ちに持ち込む事が出来たのである。
おかげでディアヌスは派手な行動が取れなくなり、10年近くも戦いの表舞台に出て来なかった。
人々はその間に経済力と技術力を蓄え、日の本奪還の大きな原動力になったのだ。
鳳は心の中で感謝の祈りを捧げるが、闘神は自らの武功を誇示するでもなく、静かにこちらを見下ろしている。
「……仔細、全て見ていた。日の本の奪還、そして大蛇の討伐。ただひたすらに見事である」
永津彦様は淡々と、しかし普段より確実に柔らかな語気で言った。
「今は現世に来られぬが、他の神々も、そして私を指揮した邇邇芸様も、大層お喜びである。本当によくやってくれた」
「お褒めに預かり、誠に光栄でございます。全ては偉大な神々と、支えてくださった皆様のおかげでございます……」
姫様はそう涼やかなお声で答え、深々と頭を下げる。
戦いを始めた頃は、肩に届かなかった彼女の髪も、今は長く伸びていた。
……その成長が何を意味するのか、これから先にどういう影を落とすのかも、鳳はよく分かっていた。
もちろんそれは姫様もご存知のはずだったが、彼女は少しも辛そうな素振りを見せないのだ。
姫様のご口上が終わると、全神連の1人が今後の説明を始める。
「数日中にも、復興に関する全船団の宣誓が行われるでしょう。魔の残党は小規模に潜んでいるでしょうが、今はともかく……」
だがその時、鳳は気付いたのだ。
目の前に座する姫様と黒鷹様の体が、ふらふらと揺れ動いている事を。
(まさか、お加減が悪いのでは……!?)
鳳がそう思った瞬間、両者はゆっくりと倒れ込んだ。
「だっ、大丈夫ですか!?」
鳳は思わず立ち上がったが、それは他の面々も同じである。
ただ永津彦様だけは、動じる事なく2人を見つめている。
頬杖をついたまま、静かにこう言うのだ。
「……心配いらぬ。寝ているだけだ」
「…………あ、そういう事でしたか……」
一同は胸を撫で下ろしたが、そこで慌てて2人を起こしにかかった。
「……って、いやいや、ちょっとお二方! 永津彦様の御前でありますぞ!」
「そそそうですっ、もうちょっとだけ頑張っていただいて!」
口々に騒ぐ全神連の面々に、永津彦様は短く言った。
「構わぬ」
「し、しかし……」
「いいから寝かせてやれ」
永津彦様は再び静かに言った。
口元が少しだけ上がっているのは、どうやらご機嫌がいいらしい。
神職ふうに正装した鳳飛鳥は、板張りの拝殿に座っていた。
居並ぶ一同は、奥の高座に向かって、数列に分かれて正座している。
鳳は2列目であり、すぐ前には救国の聖女である大祝鶴姫様。
そして彼女の傍らには、同じく救国の英雄たる黒鷹様……鳴瀬氏が座っていた。
彼の後ろ姿を見つめ、鳳は何ともいえない気持ちになった。
(黒鷹様……ご立派になられましたね……!)
心からそう思えてしまう。
黒鷹様は、自分より2つ年下の17歳。初めて会った時は、何とも頼りなく見えたものだった。
姫様が現世に来るまでは苦戦の連続だったので、単に最初は疲れ果てていただけかもしれない。だが、それにしても驚くべき成長ぶりである。
四国で、九州で、そして能登半島での戦いで。あらゆる艱難辛苦に立ち向かい、最後には富士の裾野の大決戦にて、あの無敵の魔王を打ち倒してしまった。
もちろん他の多くの人の協力があってこそだったが、それでも彼の活躍なくして、魔王ディアヌスを葬る事は出来なかっただろう。
自分はこの人に仕え、この国を守るお役目を果たしたのだ。
そう思える事が誇らしく、また少し寂しくも思えた。
(日の本奪還の戦いを終えて……私は警護のお役目を解かれる……そしたら黒鷹様と会う事も、恐らくなくなる……)
鳳はその事が切なく、ぎゅっと手を握り締める。
そんな鳳の内心をよそに、彼の肩に乗る神使のキツネが、嬉しそうに話しかけていた。
「ええか、ほんまに調子に乗るんやないで? 稲荷大明神様と、ワイらあっての勝利やからな?」
「いや、何回も聞いたから。もう10回目だろ」
「嘘こけっ、まだ9回やぞ!」
「分かってて言ってるのかよ……」
黒鷹様は困って引き気味である。
その横顔はいかにも歳相応であり、とても大役を果たしたようには見えない。
鳳は少しおかしくなって微笑んだが、そこで高らかに声が響いた。
「闘神・葦原永津彦命様、ご来光!」
やがて強い光が閃き、高座の椅子に神の姿が現れた。
立ち上がったなら、4メートル近い体躯だろう。
顔の両脇で髪を結んだ角髪。胸元に下げられた勾玉の首飾り。
白い袴は膝下辺りで足結いの紐で結ばれ、いかにも神話の絵巻物に描かれる神の姿であった。
日本奪還を指揮した永津彦様は、この混乱が起きた直後、自ら魔王ディアヌスと戦われたのだ。
邪気に溢れた環境であり、全力を出す事は出来なかったが、ディアヌスも不完全な状態だったため、相打ちに持ち込む事が出来たのである。
おかげでディアヌスは派手な行動が取れなくなり、10年近くも戦いの表舞台に出て来なかった。
人々はその間に経済力と技術力を蓄え、日の本奪還の大きな原動力になったのだ。
鳳は心の中で感謝の祈りを捧げるが、闘神は自らの武功を誇示するでもなく、静かにこちらを見下ろしている。
「……仔細、全て見ていた。日の本の奪還、そして大蛇の討伐。ただひたすらに見事である」
永津彦様は淡々と、しかし普段より確実に柔らかな語気で言った。
「今は現世に来られぬが、他の神々も、そして私を指揮した邇邇芸様も、大層お喜びである。本当によくやってくれた」
「お褒めに預かり、誠に光栄でございます。全ては偉大な神々と、支えてくださった皆様のおかげでございます……」
姫様はそう涼やかなお声で答え、深々と頭を下げる。
戦いを始めた頃は、肩に届かなかった彼女の髪も、今は長く伸びていた。
……その成長が何を意味するのか、これから先にどういう影を落とすのかも、鳳はよく分かっていた。
もちろんそれは姫様もご存知のはずだったが、彼女は少しも辛そうな素振りを見せないのだ。
姫様のご口上が終わると、全神連の1人が今後の説明を始める。
「数日中にも、復興に関する全船団の宣誓が行われるでしょう。魔の残党は小規模に潜んでいるでしょうが、今はともかく……」
だがその時、鳳は気付いたのだ。
目の前に座する姫様と黒鷹様の体が、ふらふらと揺れ動いている事を。
(まさか、お加減が悪いのでは……!?)
鳳がそう思った瞬間、両者はゆっくりと倒れ込んだ。
「だっ、大丈夫ですか!?」
鳳は思わず立ち上がったが、それは他の面々も同じである。
ただ永津彦様だけは、動じる事なく2人を見つめている。
頬杖をついたまま、静かにこう言うのだ。
「……心配いらぬ。寝ているだけだ」
「…………あ、そういう事でしたか……」
一同は胸を撫で下ろしたが、そこで慌てて2人を起こしにかかった。
「……って、いやいや、ちょっとお二方! 永津彦様の御前でありますぞ!」
「そそそうですっ、もうちょっとだけ頑張っていただいて!」
口々に騒ぐ全神連の面々に、永津彦様は短く言った。
「構わぬ」
「し、しかし……」
「いいから寝かせてやれ」
永津彦様は再び静かに言った。
口元が少しだけ上がっているのは、どうやらご機嫌がいいらしい。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる