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エピローグ ~風凪ぐ日々を取り戻そう~

つるになるのよ?

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 ふいに景色が元に戻り、誠達は食堂に座っていた。

 鶴達は何事も無かったように栄養補給を再開する。誠も食事をとろうとすると、いきなり賑やかな声がかけられた。

「あーっ、鳴っち、こんなとこにおったんやな!」

「俺達も混ぜろよな! 俺、食いもんとかジュースとか、もっとじゃんじゃん取って来るぜ!」

「宮島、こういう時はうどんがいいぞ」

 部隊の仲間達が、元気に駆け寄ってくるのである。

「ちょっと、ケガしてるじゃない!」

 カノンが誠を包帯でぐるぐる巻きにし、自前の包丁を研ぎ始める。

「すぐ手術するから。あたし自慢の包丁コレクションが火を噴くわ」

「やめてくれ、軽傷なんだ!」

 エビフライのようになって跳ねる誠だったが、向こうから雪菜も走って来る。

「鳴瀬くん、お疲れさま……って、きゃああっ!」

 雪菜は案の定、頭からテーブルに突っ込んだ。

「雪菜さん、大丈夫ですか!?」

「ううん、もう大分良くなったのよ。長い事走ってなかったから、まだ慣れてないみたい」

 誠が包帯から脱出し、雪菜を助け起こしていると、小牧隊の面々も到着したようだ。小牧は腰に手を当て、誠に向かって文句を言う。

「ったく何なのさ、あたしらにしんどい仕事させといて、さっさと宴会始めてるしさあ」

 長身のこころは玄太をぶら下げ、玄太は手足をばたつかせている。

「やっほーっ、みんなまた会ったねえ」

「おい、やめろこころ、お前こないだも俺をぶん投げただろ」

 小牧はそんな2人を一瞥いちべつし、安心したように笑顔を見せた。

「……それと、佐々木さんから聞いたけどさ。第3船団に戻る手続きの間、あたしらしばらく厄介になるらしいの」

 小牧はそう言って、悪戯っぽくウインクをした。

「ちょっとお城は小さいけど、そこは我慢してあげるからさ」

「そりゃこっちはつつしみ深いお城だから」

 誠が言うと、小牧は苦笑した。

 更に小牧の後ろから、小さな神使達が駆け寄ってくる。眼帯アイパッチを付けた狛犬、キツネ、牛、猿、そしてダンベルを持った龍。

「やいやい、何を勝手に始めとるんじゃあ!」

「ワイらを置いていくとは許せへんで!」

「モウレツに反省すべきです!」

「今日はあっしもおふざけしやすぜ!」

「うおおおっ、お前やるなあ! 俺のダンベルをやろう!」

「あ、ありがとう。ぐはっ!?」

 龍にダンベルを持たされてよろける誠だったが、更に四方から神使達に飛び蹴りされて悶絶する。

 倒れる誠の視界の隅には、岩凪姫とサクヤ姫の姿まで見えた。岩凪姫は酒樽をどんと置き、上座の席に腰をかけた。

「ふむ、皆楽しそうではないか。賑やかなのは私は好きだぞ」

「なんだかお花見みたいよね、お姉ちゃん。早く平和になって、みんなとお花見がしたいわ」

「そ、それなら土佐の、皿鉢さわち料理をお勧めします!」

 サクヤ姫の発言に、雪菜が興奮気味に食いつく。

「普段は高知の美味しい物を盛るんですけど、日本全国のおいしいものをいっぱい盛ったら、最高のお祝いになると思うんです。復興皿鉢ですよ!」

 鶴はたちまち興味を引かれている。

「まあ、皿鉢料理ね。覚えておきましょう。私のお嫁入りにも並べたいわ」

「鶴は盛るのが得意だもんね。いてっ!」

 コマは鶴のチョップを食らっている。

「姫様、稲荷寿司も入れた方がええで」

「油揚げにプロテインを詰めたらどうだ」

「モウどこの料理なのか分からないですね」

 鶴と神使達が紙を広げ、復興皿鉢の設計図を描いている。覗き込んだ他の人々も、ああでもないこうでもないと口を挟んだ。

 みんな完全にお祝い気分だったが、誠には、まだ大きな仕事が残っている。それは恐るべき魔王の軍勢から、日本全土を取り戻す事。

 あまりの大役に目が回りそうだったが、誠は勇気を振り絞った。

 この国のどこかにいる立派な人達も、それを導いている神々も、きっとヘトヘトになっているはずなのだと。

「グルメのために、頑張りましょう黒鷹! 今は苦しいけど、それは未来をつくる産みの苦しみよ」

 鶴は神器の画面に、つくるという文字を映した。

「つくるにはが入ってて、避けて通れないわ。でも完成して苦が消えたら……ほらっ、つるになるのよ?」

「何でだよ」

 元気良く羽を広げる丹頂タンチョウ鶴の絵が表示されて、誠は思わず笑ったが、そこでコマが割り込んでくる。

「苦しみねえ。鶴は苦しんだ事無いのに、よくそんな事を言うよ。いつも楽ばっかりしてる癖にさ」

「まあ、だまらっしゃい、生意気な狛犬ね!」

「だって事実だろ」

 鶴とコマは相変わらずもめている。

「……っ!?」

 そんな鶴の横顔を見つめ、誠はふいに胸が熱くなった。

「えっ……? ええっ……!?」

 誠は思わず戸惑ってしまう。その感覚はまだ弱かったが、雪菜あのひとに対するそれと似ていたのだ。

(な、なんだこの感じ。まさか、そんな、あんな鎧のすっとんきょうな女の子に!?)

 誠は少し赤くなった顔で視線を落としたが、そこで左手の逆鱗が青く輝いている事に気付いた。

「あっ……!」

 誠は女神の言葉を思い出した。たしか神器の太刀を、逆鱗に宿らせた時だったのだが……

『使う度、前世の記憶が蘇るかもしれぬが……大事はない』

(あれはこういう意味だったのか。前世の記憶、つまりヒメ子への情を思い出す??)

 岩凪姫は誠の視線に気付くと、少し口元を笑みの形にする。

「ま、そういう事もあるだろうさ」

 そう言って杯を傾ける女神と、目の前に置かれたおみくじもどきを交互に見つめ、誠は「余計な事を」と呟いた。

 だから昔からくじは苦手なのだ。

 船上の大宴会は、いつ果てるともなく続いている。

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