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エピローグ ~風凪ぐ日々を取り戻そう~
クイズ・人界百選
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「鶴、鶴、しっかりしなよ」
星空のような空間に、鶴とコマは漂っていた。力を使い果たしたコマは、また小さく縮んでいたが、懸命に鶴をつついて起こそうとしている。
「うーん、むにゃむにゃ、あと100年……」
「何があと百年だよ、ねぼすけにもほどがあるじゃないか。ほら起きろっ、さっさと現世に帰るんだよ。僕の霊力は尽きたから、君が自力で進むんだ」
コマはなおも鶴の頬をばしばし叩くが、生まれついてのタフガイ?である鶴は動じない。
「でもねコマ、なんだかとっても気持ちがいいの。そんでもって疲れたかな。嫌な感じじゃなくて、なんかこう、とろーんて溶けてく感じ。これは極楽だわ」
「極楽を道場破りしといて何を今更」
「あはは、道場破りか。極楽も地獄も、黒鷹を探して走り回ったわね。今思えば、ちょっと楽しかったかも」
鶴は足をばたばたさせて笑ったが、そこでぽんと手を叩く。
「そうだ、地獄で思い出した。ひとっ風呂浴びてさっぱりしましょう」
「あのね鶴、地獄は温泉施設じゃないんだよ」
「だって天国のはぬるいんだもん」
「ヒャッハーッ、このゴミクズどもがーっ!」
鶴が不在の地獄では、鬼達が過去の威厳を取り戻そうと頑張っていた。
倉庫から出したバイクにまたがり、リベットつきの革ジャンを着て、チェーンを振り回しては罪人をひっぱたいている。
中でも一番輝きを放つのは、かつて鶴を担当していた血の池地獄の管理人だ。
「オラオラーッ、まだまだ罪はつぐなえねえぞ!」
その頑張りに、周囲の鬼も関心していた。
「やっぱり鬼助さんは真面目だな」
「あの人がああじゃなくっちゃ、地獄は回らないからな。俺達も見習おう」
仲間の鬼の呟きも知らず、鬼助は張り切って亡者達に怒鳴りつけた。
「いいかこのビチグソども、これから血の池で魂の芯までホクホクに焼き上げてやる。二度と悪事を働けねえよう、懺悔の悲鳴を上げさせてやるぜ!」
だが彼がそこまで言った時だった。
ふいに奥の岩扉がノックされる。どがん、どがんと力強すぎるノックで扉が吹き飛ぶと、砂塵の中から1人の少女が進み出た。
少女は気軽に手を挙げる。
「みんな久しぶり。お風呂沸いてる?」
一瞬、流れる沈黙。そして。
「きゃああああっ、いやあああっ!」
懺悔の悲鳴は鬼達のものだった。
鶴は沸き立つ湯に浸かりながら、思い出話に花を咲かせた。
「それでね鬼助、あたしはほんとに頑張ったのよ。それはもう毎日毎日、勉学に武芸に励みに励み、ひたすら真面目に、かつ可愛く、あまつさえ上品に。復活して楽しい人生を送りたいところを、持ち前の健気さで全てを投げうって……ちょっと聞いてる?」
「あ、あの鶴さん、聞くのはいいんですが、せめて鎧は脱いでから入ってくれないと、他の人の迷惑に……ひいいいっ!? すみません、あっしが悪かったんで笑顔で睨まないで!」
鬼達は一瞬でやつれていたし、もちろん亡者も怯えている。鬼の方がまだましだ、とか言う声も聞こえてくるが、鶴は全く気にしない。
「ちょっと寂しい気もするけど、前よりはずっといいかも。黒鷹も雪菜さんも幸せになれるかな。あたし頑張ったかな。ねえコマ?」
鶴が傍らを見ると、コマはいつの間にか木の箱を引きずって来ていた。箱の上側には丸い穴が開いていて、中には折り畳まれた白い紙が沢山入っていた。
「はい鶴、戯れにどうだい? 久しぶりにおみくじだよ」
「むう、それは粋ねえ。どれどれ、これよっ」
鶴は手を伸ばし、紙を1枚引き抜いた。破らないよう広げてみると、クイズ人界百選と書かれている。
「何よこれ。占いじゃないわよ」
「いいから読む読む」
コマに促され、鶴は紙面に目を凝らした。
「クイズ、人界の風習について。病気や怪我に備え、跡取りを絶やさないよう、武将達が行なった結婚形態……何それ?」
不思議そうに首をかしげる鶴に、コマがそっと耳打ちする。
「あのね鶴。君は知らないだろうけど、大抵の武将はね、」
「えええええっ!?」
鶴は思わず身を起こし、湯船の中に立ち上がった。折角修理した竜の注ぎ口がへし折れて、再び宙へと舞い上がった。
「ちょ、ちょっとおコマさん、それを先に言わないとダメでしょ! こうしちゃあいられないわ!」
鶴は湯船から飛び上がると、地獄の入り口へと駆け出した。
後ろ手を振りながら、鬼達に別れを告げる。
「いざ現世へ! みんな、元気でね!」
鬼達に歓声を上げて見送られながら、鶴は地獄を後にしたのだ。
星空のような空間に、鶴とコマは漂っていた。力を使い果たしたコマは、また小さく縮んでいたが、懸命に鶴をつついて起こそうとしている。
「うーん、むにゃむにゃ、あと100年……」
「何があと百年だよ、ねぼすけにもほどがあるじゃないか。ほら起きろっ、さっさと現世に帰るんだよ。僕の霊力は尽きたから、君が自力で進むんだ」
コマはなおも鶴の頬をばしばし叩くが、生まれついてのタフガイ?である鶴は動じない。
「でもねコマ、なんだかとっても気持ちがいいの。そんでもって疲れたかな。嫌な感じじゃなくて、なんかこう、とろーんて溶けてく感じ。これは極楽だわ」
「極楽を道場破りしといて何を今更」
「あはは、道場破りか。極楽も地獄も、黒鷹を探して走り回ったわね。今思えば、ちょっと楽しかったかも」
鶴は足をばたばたさせて笑ったが、そこでぽんと手を叩く。
「そうだ、地獄で思い出した。ひとっ風呂浴びてさっぱりしましょう」
「あのね鶴、地獄は温泉施設じゃないんだよ」
「だって天国のはぬるいんだもん」
「ヒャッハーッ、このゴミクズどもがーっ!」
鶴が不在の地獄では、鬼達が過去の威厳を取り戻そうと頑張っていた。
倉庫から出したバイクにまたがり、リベットつきの革ジャンを着て、チェーンを振り回しては罪人をひっぱたいている。
中でも一番輝きを放つのは、かつて鶴を担当していた血の池地獄の管理人だ。
「オラオラーッ、まだまだ罪はつぐなえねえぞ!」
その頑張りに、周囲の鬼も関心していた。
「やっぱり鬼助さんは真面目だな」
「あの人がああじゃなくっちゃ、地獄は回らないからな。俺達も見習おう」
仲間の鬼の呟きも知らず、鬼助は張り切って亡者達に怒鳴りつけた。
「いいかこのビチグソども、これから血の池で魂の芯までホクホクに焼き上げてやる。二度と悪事を働けねえよう、懺悔の悲鳴を上げさせてやるぜ!」
だが彼がそこまで言った時だった。
ふいに奥の岩扉がノックされる。どがん、どがんと力強すぎるノックで扉が吹き飛ぶと、砂塵の中から1人の少女が進み出た。
少女は気軽に手を挙げる。
「みんな久しぶり。お風呂沸いてる?」
一瞬、流れる沈黙。そして。
「きゃああああっ、いやあああっ!」
懺悔の悲鳴は鬼達のものだった。
鶴は沸き立つ湯に浸かりながら、思い出話に花を咲かせた。
「それでね鬼助、あたしはほんとに頑張ったのよ。それはもう毎日毎日、勉学に武芸に励みに励み、ひたすら真面目に、かつ可愛く、あまつさえ上品に。復活して楽しい人生を送りたいところを、持ち前の健気さで全てを投げうって……ちょっと聞いてる?」
「あ、あの鶴さん、聞くのはいいんですが、せめて鎧は脱いでから入ってくれないと、他の人の迷惑に……ひいいいっ!? すみません、あっしが悪かったんで笑顔で睨まないで!」
鬼達は一瞬でやつれていたし、もちろん亡者も怯えている。鬼の方がまだましだ、とか言う声も聞こえてくるが、鶴は全く気にしない。
「ちょっと寂しい気もするけど、前よりはずっといいかも。黒鷹も雪菜さんも幸せになれるかな。あたし頑張ったかな。ねえコマ?」
鶴が傍らを見ると、コマはいつの間にか木の箱を引きずって来ていた。箱の上側には丸い穴が開いていて、中には折り畳まれた白い紙が沢山入っていた。
「はい鶴、戯れにどうだい? 久しぶりにおみくじだよ」
「むう、それは粋ねえ。どれどれ、これよっ」
鶴は手を伸ばし、紙を1枚引き抜いた。破らないよう広げてみると、クイズ人界百選と書かれている。
「何よこれ。占いじゃないわよ」
「いいから読む読む」
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不思議そうに首をかしげる鶴に、コマがそっと耳打ちする。
「あのね鶴。君は知らないだろうけど、大抵の武将はね、」
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鶴は思わず身を起こし、湯船の中に立ち上がった。折角修理した竜の注ぎ口がへし折れて、再び宙へと舞い上がった。
「ちょ、ちょっとおコマさん、それを先に言わないとダメでしょ! こうしちゃあいられないわ!」
鶴は湯船から飛び上がると、地獄の入り口へと駆け出した。
後ろ手を振りながら、鬼達に別れを告げる。
「いざ現世へ! みんな、元気でね!」
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