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第一章その7 ~あなたに逢えて良かった!~ 鶴の恩返し編

鶴の恩返し

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「それはだめだ!」

 女神の提案に、誠は思わず声を上げた。

「あんな化け物、ヒメ子1人で制御なんて無理だ。それに貫くって言っても、弾の威力が足りないでしょう?」

「いや、祭神ガレオンの力を借りるのだ」

 女神はそう言葉を続ける。

「ガレオンの力で弾に直接属性を添加し、それを心神が射撃する。ガレオン本人が納得すればの話だが」

 そこで誠の逆鱗が輝き、ガレオンの声が聞こえた。

「ディアヌスの分身を倒せるのなら、私に反対する理由はない」

「だからダメだって言ってるだろ!」

 勝手な理屈を交わす女神とガレオンに叫ぶ誠だったが、その時。

「……なるほど、私の出番ですな?」

 たたずむコマの上で、鶴がぽんと手を打っている。

「ダメだ、絶対だめだ! お前1人犠牲になってどうするんだ!」

「何言ってるの、さっきは自分が無茶したくせに。何度生まれ変わっても、黒鷹は自分だけ心配かけすぎなのよ」

 鶴はふざけたように言うと、少し真面目な顔で嘆願する。

「お願い黒鷹、あたしに行かせて。あたしこの時代が大好きなの。だから守りたい。みんなとこの国を立て直して、一緒に幸せになりたいの」

「…………」

 誠は最早何も言えなかった。



「……行ってしまったな、鶴」

 飛び立っていく機体を見送りながら、コマが静かに言う。

「これで良かったのか? えらくあっさり別れたじゃないか」

「……うん」

 鶴は弱々しく微笑んだ。

 自分でも不思議だ。一体どうしてなのだろう?

 鶴は過去に思いを馳せてみた。

 初めて戦の存在を知った時、何もかもが怖かった。戦ってなんだ、どうして何も悪い事してないのに、敵が攻めて来るんだろう。

 見知った人が傷ついて、みんな遠くに行ってしまう。

 生きる事が怖い。世の理不尽が怖い。

 それがある日、歳の近い少年と出会った。いつもきゅっと唇を結んで、あまり冗談も言わなかったが、鶴が困ると、必ず駆けつけて守ってくれた。

「大丈夫ですよ、姫様」

 少年はいつもそう言った。

 彼は賢いから、きっと多くの物事が見える。鶴が感じた世の理不尽のような、恐ろしい物が見えるはずだった。

 でも彼は強がるのだ。

 強い人というのは、物事が怖くない人の事ではない。怖くても、胸を張る人の事なんだと鶴は思った。

 自分を安心させるために、彼は恐怖を乗り越えようとしている。勇敢な男であろうとしている。

 えもいわれぬ満足感だった。恐ろしい世の中だけど、生まれてきて良かったと思えた。だから生きる事を楽しもう。元気になろう。

 跳ね回っているうちに、少し元気になり過ぎてしまったかもしれない。

 ……本当は、彼に好かれる方法も、鶴はうすうす分かっていた。

 弱い女になればいいのだ。彼は優しすぎるから、きっと鶴の傍に居てくれる。

 他に好きな人がいても、こちらを可哀想と思えば、きっと傍を離れないはずだ。

 ……でもそれだけはしたくなかった。

 成長して腕の立つ武人になっても、あの人はいつも沢山の事を考えていた。

 他の人が「姫様のおかげで勝てた」と喜んでいても、彼は次の事を考えている。

 自分の代わりに、皆の安全を守る重責を背負おうとしてくれていた。

 重すぎる神輿を背負わされ、悲鳴を上げていた鶴の傍で、彼は必死で肩を貸してくれたのだ。

 鶴は心で語りかける。

 あなたが傍に居てくれたから、ちっとも怖くなかったよ? とってもとっても楽しかったよ?

 ご恩は生涯忘れません。

 これでお別れかもしれないけど、大祝鶴の恩返し、ちゃんと見ていてね。

 鶴は頬を両手で叩いて、元気と勇気を注入する。

「それじゃ行くわよ、コマ!」

「ようし、任せておけ!」

 コマは低く身を沈めると、鶴を乗せたまま大きく跳躍。瞬く間に繭の上部に取り付いた。

「う、なんかびりびりするわね」

 常人なら発狂してもおかしくない猛烈な磁場を身に受けて、鶴は苦しげに顔を歪めるが、それでも手を繭に触れさせる。

 と、次の瞬間、繭から肉片が盛り上がり、鶴とコマを飲み込んでいた。

 繭は暴れ、鳴動し、制御を拒むように蠢いている。

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