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第一章その7 ~あなたに逢えて良かった!~ 鶴の恩返し編
遠い昔、あなたが教えてくれた技
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その瞬間、誠は無意識に機体を操作していた。目の前に輝く何かをかわし、後方に飛びすさっていたのだ。
「何だ、まぐれか? 往生際の悪い輩だ」
相手は呟き、自らの周囲に白い光を浮かび上がらせた。
普通の餓霊の電磁バリアと違い、人には見えない波長の光だったが、誠には見て取れたのだ。
魔法が形作られる前の、至極微かな前兆の光……いや電磁場。巨大な雷が落ちる直前、細く見えにくい先駆放電が走るのに似ている。
誠は再び機体を操作し、今度は横にかわしていた。
避けたこちらを追って、また何かの魔法が発せられるが、発動する前の時点で察知して移動出来た。
(そうだ、思い出した……!)
忘れていた『目を使う感覚』がよみがえっていく。
(ほんの少し、思考の磁場が見える力だ。未来予知でも何でもない)
人でも餓霊でも、行動前には体の周囲の磁場が乱れる。思考は電気信号であり、それが磁場を乱すからだ。
だから誠は相手を観察した。この磁場のときはこう動く。この磁場の時はこの攻撃が来る……
そうして積み重ねた経験が、ある日全て結びついて、動きの予測となっただけ。
(力が消えたんじゃない。あの日の失敗が怖くて、見ようとしてなかっただけだ)
相手は明らかに焦り、何度も何度も魔法を繰り出す。タイミングを替え、規模を替え、誠が避ける方向を予測して。その全てが事前に読み取れていた。
タイミングを計り、誠は機体を走らせる。
相手が身構えた瞬間、属性添加機の慣性力を素早く切り替え、敵の背後に回り込んだ。幼い頃から、何万回も練習してきた得意技だ。この世で一番優しい人から、最初に教わったあの技だ。
相手は必死に振り返るが、誠は素早く刀を振るう。防御の電磁バリアを切り裂き、上半身の外皮が大きく割れた。
敵はよろめきながら右手の武器を振り回すが、誠はそれより早く、武器を持つ腕に一撃を加える。腕は半ばから千切れ飛んだ。
相手は身を震わせると、背から細い足を無数に伸ばした。蜘蛛のようなその足は、先端の鋭い爪で襲って来たが、今の誠には脅威とならない。
動きそのものもスローモーションに見えたし、そもそも動く前の磁場を見れば、その軌道が予測出来たからだ。
……でも、それだけでは無かったのだ。
先読みが出来なかった長い期間、積み重ねた無数の戦闘経験が……ひたすら鍛えた操作の技術が、機体をより早く動かす事を可能にしていたからだ。
誠は瞬時に全ての爪を叩き落とし、横薙ぎの一撃が、相手の左手を盾ごと切り飛ばした。
相手は2歩、3歩とよろめきながら、驚嘆の声を発する。
「バ、バケモノか、貴様は……!」
やがて機体の画面に、岩凪姫が映し出された。
「ようやく帰ってきたな、この寝ぼすけめ」
女神は満足そうに笑みを浮かべる。
「無限とも思える絶望を乗り越え、よくぞその高みに達した。お前の勝ちだ、黒鷹……!」
誠には、それが勝ちか負けかは分からない。それでも今こうして戦える事に嘘はなかった。
「くそっ、全軍でこのバケモノを足止めしろ! 私は荒金丸に乗って戻る!」
相手は後方に逃げながら指図を送る。
一気に餓霊が殺到するが、誠は怯まなかった。もう迷う事は何も無いのだ。
「鳴瀬くん……」
映し出される白い機体の勇姿に、雪菜は思わず呟いていた。
見えなくなったと、彼は言った。
相手の動きが予測出来なくなったから、見てから間に合うように反応を早めてきたのだ。膨大な戦闘経験と練習で、先読みの欠如をカバーしてきたのだ。
その上でもう一度、相手の動きが先読み出来るようになったら……果たして何が起きるだろうか。
苦難の時期に磨いた技が、再び目を開けた今、大きな力となって彼を支えてくれているのだ。
白い機体は、瞬時に属性添加機の慣性を切り替え、素早く相手の後ろをとった。
雪菜は幼い彼と過ごした、遠い過去を思い出す。
『私の得意技で、鶉谷スペシャルって呼んでるの』
知らず知らず、頬を涙が伝っていた。
雪菜は懸命に祈り続ける。
がんばれ、がんばれ、鳴瀬くん……!
負けるな、負けるな、鳴瀬くん……!
「何だ、まぐれか? 往生際の悪い輩だ」
相手は呟き、自らの周囲に白い光を浮かび上がらせた。
普通の餓霊の電磁バリアと違い、人には見えない波長の光だったが、誠には見て取れたのだ。
魔法が形作られる前の、至極微かな前兆の光……いや電磁場。巨大な雷が落ちる直前、細く見えにくい先駆放電が走るのに似ている。
誠は再び機体を操作し、今度は横にかわしていた。
避けたこちらを追って、また何かの魔法が発せられるが、発動する前の時点で察知して移動出来た。
(そうだ、思い出した……!)
忘れていた『目を使う感覚』がよみがえっていく。
(ほんの少し、思考の磁場が見える力だ。未来予知でも何でもない)
人でも餓霊でも、行動前には体の周囲の磁場が乱れる。思考は電気信号であり、それが磁場を乱すからだ。
だから誠は相手を観察した。この磁場のときはこう動く。この磁場の時はこの攻撃が来る……
そうして積み重ねた経験が、ある日全て結びついて、動きの予測となっただけ。
(力が消えたんじゃない。あの日の失敗が怖くて、見ようとしてなかっただけだ)
相手は明らかに焦り、何度も何度も魔法を繰り出す。タイミングを替え、規模を替え、誠が避ける方向を予測して。その全てが事前に読み取れていた。
タイミングを計り、誠は機体を走らせる。
相手が身構えた瞬間、属性添加機の慣性力を素早く切り替え、敵の背後に回り込んだ。幼い頃から、何万回も練習してきた得意技だ。この世で一番優しい人から、最初に教わったあの技だ。
相手は必死に振り返るが、誠は素早く刀を振るう。防御の電磁バリアを切り裂き、上半身の外皮が大きく割れた。
敵はよろめきながら右手の武器を振り回すが、誠はそれより早く、武器を持つ腕に一撃を加える。腕は半ばから千切れ飛んだ。
相手は身を震わせると、背から細い足を無数に伸ばした。蜘蛛のようなその足は、先端の鋭い爪で襲って来たが、今の誠には脅威とならない。
動きそのものもスローモーションに見えたし、そもそも動く前の磁場を見れば、その軌道が予測出来たからだ。
……でも、それだけでは無かったのだ。
先読みが出来なかった長い期間、積み重ねた無数の戦闘経験が……ひたすら鍛えた操作の技術が、機体をより早く動かす事を可能にしていたからだ。
誠は瞬時に全ての爪を叩き落とし、横薙ぎの一撃が、相手の左手を盾ごと切り飛ばした。
相手は2歩、3歩とよろめきながら、驚嘆の声を発する。
「バ、バケモノか、貴様は……!」
やがて機体の画面に、岩凪姫が映し出された。
「ようやく帰ってきたな、この寝ぼすけめ」
女神は満足そうに笑みを浮かべる。
「無限とも思える絶望を乗り越え、よくぞその高みに達した。お前の勝ちだ、黒鷹……!」
誠には、それが勝ちか負けかは分からない。それでも今こうして戦える事に嘘はなかった。
「くそっ、全軍でこのバケモノを足止めしろ! 私は荒金丸に乗って戻る!」
相手は後方に逃げながら指図を送る。
一気に餓霊が殺到するが、誠は怯まなかった。もう迷う事は何も無いのだ。
「鳴瀬くん……」
映し出される白い機体の勇姿に、雪菜は思わず呟いていた。
見えなくなったと、彼は言った。
相手の動きが予測出来なくなったから、見てから間に合うように反応を早めてきたのだ。膨大な戦闘経験と練習で、先読みの欠如をカバーしてきたのだ。
その上でもう一度、相手の動きが先読み出来るようになったら……果たして何が起きるだろうか。
苦難の時期に磨いた技が、再び目を開けた今、大きな力となって彼を支えてくれているのだ。
白い機体は、瞬時に属性添加機の慣性を切り替え、素早く相手の後ろをとった。
雪菜は幼い彼と過ごした、遠い過去を思い出す。
『私の得意技で、鶉谷スペシャルって呼んでるの』
知らず知らず、頬を涙が伝っていた。
雪菜は懸命に祈り続ける。
がんばれ、がんばれ、鳴瀬くん……!
負けるな、負けるな、鳴瀬くん……!
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