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第一章その7 ~あなたに逢えて良かった!~ 鶴の恩返し編
それぞれの戦い2
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「いやあ、成り行きっちゃ成り行きだけどさ」
機体を飛行させながら、千春達は会話していた。
「変な事になって悪いね、あんた達」
「ふふふ、これでよかったんだよねえ」
「俺もそう思うぞ、姉御」
戦友達は気丈である。願わくば彼らだけでも生き残らせたい千春だったが、戦況はそんな感傷に浸る事を許さない。
近付く陸地、そして色濃い霧を目にして、千春は隊員達に指示した。
「さあ見えてきたよ。霧に触れたら飛べなくなるから、すぐ着地して」
千春の言葉通り、霧に触れると物凄い力で滅茶苦茶に振り回されたが、一同は巧みにバランスを取って着地した。
着地と同時に、己の役割を果たすべく展開する。
120ミリ長距離砲を装備したこころの機体が、敵の砲兵を狙い撃ちしていく。残った2人はこころの周囲を固め、近付く餓霊から守るのだ。
素早く無駄のない攻撃のかいあって、砲撃型の大型餓霊が倒れていく。
千春はパチンと指をはじいた。
「よっしゃあ、ナイスあんた達! 意外と余裕じゃないのさ!」
「それはいいけど姉御、正面からでかいのが来るぞ!」
玄太の言葉に画面を睨むと、こちらを危険視した突撃型餓霊が、地響きを上げて突進してくる。サイのような下半身はいかにも頑丈そうで、人型の上半身からは、魔法力をまとわせた突起を無数に撃ち込んできている。
「させるかっ!」
玄太が前に進み出て、刀でそれらを叩き落とす。
同時にアサルトガンで弾丸をばらまくが、餓霊は強固な電磁バリアではじき、全く怯む様子が無い。
「どいてな玄太!」
千春は前に飛び出ると、円盤のような腰部投擲地雷を射出する。と同時に機体の銃を操作して、属性最大添加の一撃を発射。
敵の電磁バリアに阻まれ、やはり貫通はしないものの、バリアは中和のために形を歪めた。
その瞬間、千春は機体を回転させ、落下してくる地雷を回し蹴りの要領で蹴り飛ばす。
地雷は弾丸のようにかっ飛んで、先ほどダメージを与えた敵の電磁バリアに直撃。至近距離で大爆発した。
敵は体半分えぐり取られたようになって、そのまま大地に倒れ伏した。
もちろん隊員達はドン引きである。
「……あ、姉御、そういう用途じゃないぞ、あの武器」
「地雷をじかに当てるなんて、相変わらず鬼だよねえ……」
「ほっとけ! それよりどんどん行くよ!」
千春は何か晴れ晴れした気持ちで、次の攻撃目標へと向かった。
「左舷に複数被弾、火災発生!」
「浸水阻止と消化を! 進路そのまま!」
臨時艦長の雪菜は、必死に戦いの指揮を執っていた。
波を蹴立てて逃げ回りつつ、機雷や艦砲射撃で足止めを試みるが、敵は巧みにそれらを避けて追いすがってくる。
「……挟み撃ちするつもりだわ」
ふいに傍らで鶴が呟いた。鶴は懸命に雪菜に訴えかける。
「隠れてた敵の別働隊が、右の島影から出てくるけど、このまま突っ切って」
「敵の方が速いのよ、頭を押さえられない?」
「あっちは潮が巻いてるもの。このまま全速力で抜けられるから、そっちの側に防御をとってね」
雪菜は頷くと、総舵手及び防御式オペレーターにその旨を伝達。
波を蹴立てて島影を突っ切ると、確かに横手から敵の別動隊が現れた。
あらかじめ右舷に重点を置いていた電磁バリアで射撃を防ぎ、旗艦みしまは相手よりも前に出た。
……が、ほっとしたのもつかの間、再び鶴の指示で上に防御を切り替えると、艦にものすごい衝撃が響き、貫通した威力が甲板の一部をもぎ取っていく。
地上では小牧班が善戦してくれていたが、敵の砲兵はまだ多くが生き残っているようだ。
このままではいつか致命的な命中弾を食らってしまうだろう。
だがそんな雪菜を安心させるように、鶴は胸を張って言った。
「心配いらないわ、瀬戸は私たちの庭だもの。おじさん、またさっきの焙烙(※水軍が使った手投げ爆弾)みたいなのを落として」
鶴はそう言って砲雷長に近寄り、たびたび機雷の投下を依頼した。
雪菜はたまりかねて鶴に言う。
「鶴ちゃん、機雷は効果無いみたいよ。それにこの先が砲で封鎖されてる以上、どこかでターンしなきゃいけない。いくら人の船に反応しにくいと言っても、まともに当たれば」
「だから大丈夫。ほんとに雪菜さんは心配症ですなあ」
鶴は少しおどけるように言った。
「でも強くて優しい人。黒鷹が好きになるのも分かる気がするわ」
「え……?」
雪菜は戸惑うが、鶴はそこで総舵手に指示を与えた。
「ねえおじさん、向こうに見える島影に向かって」
「ちょ、ちょっと鶴ちゃん、そっちに行ったら、追いつかれる……」
雪菜がそう言おうとした時、ふいに足元で柔らかい感触がした。
目をやると、そこにはいつの間にかコマがいた。コマは肉球で雪菜のくるぶしをつついている。
「鶴を信じてよ、雪菜さん。今までも大丈夫だったじゃないか」
「う……分かったわ」
雪菜は一瞬だけ迷ったが、それでも鶴の言葉に従う事にした。
ぎりぎりの深度の岩礁を通り抜け、旗艦は狭い島と島の間に到達したが、敵も知能ある軍勢である。こちらの動きを理解して、進路をふさぐべく別働隊を配置した。
完全に挟み撃ちされた形だ。
やがて雄たけびをあげた敵が、攻撃をしかけようとした時だった。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!
猛烈な閃光と水柱が立ち上り、多数の敵が一瞬にして消滅する。
雪菜は呆然と呟いた。
「な、何、今の……?」
ひるんで後退しようとした餓霊の、逆側で再び水柱。
「機雷、なの?」
雪菜はようやく気がついた。
機雷が辺りの海を覆い尽くしている。四方八方から集まって来た機雷は、完全に敵を包囲していた。身動き1つできない、完全な詰将棋だ。
鶴は自信たっぷりに答える。
「今の季節のこの時間なら、潮はこの島影に流れ込むの。これで相手は動けないわ」
予想外の攻撃にさらされ、怪物達の指揮は総崩れだ。
「集中力が弱まった。防御の魔法も乱れてるな」
コマはそう呟くと、再び雪菜の足をつっつく。
「こうなればやることは1つでしょ、頼りになるお姉さん?」
「わ、わかったわ。各砲員、全力射撃! 敵艦船部隊を殲滅して!」
砲撃が始まっても、敵は機雷で動く事が出来ない。恐怖で乱れた電磁バリアは易々と破られ、餓霊はどんどん撃破されていく。
その隙をつき、鶴の指示するルートで島影を抜けると、旗艦みしまは機雷の海を抜け出していた。
「海底の岩の関係で、この部分だけは潮が分かれるのさ。だから当然機雷は無い。敵はそんな事知らないから、動けなくてびびってたけどね」
「凄い、凄いわあなた達!」
雪菜は感激してコマを抱きしめ、コマは悲鳴を上げて降参サインを繰り返す。
そんなコマをよそに、鶴は見よう見まねでモニターをいじっていた。
「ええと、黒鷹はどこかしら」
だが画面が切り替わると、映し出されたのは誠の機体の窮状である。
鶴は思わず声を上げる。
「た、大変!」
機体を飛行させながら、千春達は会話していた。
「変な事になって悪いね、あんた達」
「ふふふ、これでよかったんだよねえ」
「俺もそう思うぞ、姉御」
戦友達は気丈である。願わくば彼らだけでも生き残らせたい千春だったが、戦況はそんな感傷に浸る事を許さない。
近付く陸地、そして色濃い霧を目にして、千春は隊員達に指示した。
「さあ見えてきたよ。霧に触れたら飛べなくなるから、すぐ着地して」
千春の言葉通り、霧に触れると物凄い力で滅茶苦茶に振り回されたが、一同は巧みにバランスを取って着地した。
着地と同時に、己の役割を果たすべく展開する。
120ミリ長距離砲を装備したこころの機体が、敵の砲兵を狙い撃ちしていく。残った2人はこころの周囲を固め、近付く餓霊から守るのだ。
素早く無駄のない攻撃のかいあって、砲撃型の大型餓霊が倒れていく。
千春はパチンと指をはじいた。
「よっしゃあ、ナイスあんた達! 意外と余裕じゃないのさ!」
「それはいいけど姉御、正面からでかいのが来るぞ!」
玄太の言葉に画面を睨むと、こちらを危険視した突撃型餓霊が、地響きを上げて突進してくる。サイのような下半身はいかにも頑丈そうで、人型の上半身からは、魔法力をまとわせた突起を無数に撃ち込んできている。
「させるかっ!」
玄太が前に進み出て、刀でそれらを叩き落とす。
同時にアサルトガンで弾丸をばらまくが、餓霊は強固な電磁バリアではじき、全く怯む様子が無い。
「どいてな玄太!」
千春は前に飛び出ると、円盤のような腰部投擲地雷を射出する。と同時に機体の銃を操作して、属性最大添加の一撃を発射。
敵の電磁バリアに阻まれ、やはり貫通はしないものの、バリアは中和のために形を歪めた。
その瞬間、千春は機体を回転させ、落下してくる地雷を回し蹴りの要領で蹴り飛ばす。
地雷は弾丸のようにかっ飛んで、先ほどダメージを与えた敵の電磁バリアに直撃。至近距離で大爆発した。
敵は体半分えぐり取られたようになって、そのまま大地に倒れ伏した。
もちろん隊員達はドン引きである。
「……あ、姉御、そういう用途じゃないぞ、あの武器」
「地雷をじかに当てるなんて、相変わらず鬼だよねえ……」
「ほっとけ! それよりどんどん行くよ!」
千春は何か晴れ晴れした気持ちで、次の攻撃目標へと向かった。
「左舷に複数被弾、火災発生!」
「浸水阻止と消化を! 進路そのまま!」
臨時艦長の雪菜は、必死に戦いの指揮を執っていた。
波を蹴立てて逃げ回りつつ、機雷や艦砲射撃で足止めを試みるが、敵は巧みにそれらを避けて追いすがってくる。
「……挟み撃ちするつもりだわ」
ふいに傍らで鶴が呟いた。鶴は懸命に雪菜に訴えかける。
「隠れてた敵の別働隊が、右の島影から出てくるけど、このまま突っ切って」
「敵の方が速いのよ、頭を押さえられない?」
「あっちは潮が巻いてるもの。このまま全速力で抜けられるから、そっちの側に防御をとってね」
雪菜は頷くと、総舵手及び防御式オペレーターにその旨を伝達。
波を蹴立てて島影を突っ切ると、確かに横手から敵の別動隊が現れた。
あらかじめ右舷に重点を置いていた電磁バリアで射撃を防ぎ、旗艦みしまは相手よりも前に出た。
……が、ほっとしたのもつかの間、再び鶴の指示で上に防御を切り替えると、艦にものすごい衝撃が響き、貫通した威力が甲板の一部をもぎ取っていく。
地上では小牧班が善戦してくれていたが、敵の砲兵はまだ多くが生き残っているようだ。
このままではいつか致命的な命中弾を食らってしまうだろう。
だがそんな雪菜を安心させるように、鶴は胸を張って言った。
「心配いらないわ、瀬戸は私たちの庭だもの。おじさん、またさっきの焙烙(※水軍が使った手投げ爆弾)みたいなのを落として」
鶴はそう言って砲雷長に近寄り、たびたび機雷の投下を依頼した。
雪菜はたまりかねて鶴に言う。
「鶴ちゃん、機雷は効果無いみたいよ。それにこの先が砲で封鎖されてる以上、どこかでターンしなきゃいけない。いくら人の船に反応しにくいと言っても、まともに当たれば」
「だから大丈夫。ほんとに雪菜さんは心配症ですなあ」
鶴は少しおどけるように言った。
「でも強くて優しい人。黒鷹が好きになるのも分かる気がするわ」
「え……?」
雪菜は戸惑うが、鶴はそこで総舵手に指示を与えた。
「ねえおじさん、向こうに見える島影に向かって」
「ちょ、ちょっと鶴ちゃん、そっちに行ったら、追いつかれる……」
雪菜がそう言おうとした時、ふいに足元で柔らかい感触がした。
目をやると、そこにはいつの間にかコマがいた。コマは肉球で雪菜のくるぶしをつついている。
「鶴を信じてよ、雪菜さん。今までも大丈夫だったじゃないか」
「う……分かったわ」
雪菜は一瞬だけ迷ったが、それでも鶴の言葉に従う事にした。
ぎりぎりの深度の岩礁を通り抜け、旗艦は狭い島と島の間に到達したが、敵も知能ある軍勢である。こちらの動きを理解して、進路をふさぐべく別働隊を配置した。
完全に挟み撃ちされた形だ。
やがて雄たけびをあげた敵が、攻撃をしかけようとした時だった。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!
猛烈な閃光と水柱が立ち上り、多数の敵が一瞬にして消滅する。
雪菜は呆然と呟いた。
「な、何、今の……?」
ひるんで後退しようとした餓霊の、逆側で再び水柱。
「機雷、なの?」
雪菜はようやく気がついた。
機雷が辺りの海を覆い尽くしている。四方八方から集まって来た機雷は、完全に敵を包囲していた。身動き1つできない、完全な詰将棋だ。
鶴は自信たっぷりに答える。
「今の季節のこの時間なら、潮はこの島影に流れ込むの。これで相手は動けないわ」
予想外の攻撃にさらされ、怪物達の指揮は総崩れだ。
「集中力が弱まった。防御の魔法も乱れてるな」
コマはそう呟くと、再び雪菜の足をつっつく。
「こうなればやることは1つでしょ、頼りになるお姉さん?」
「わ、わかったわ。各砲員、全力射撃! 敵艦船部隊を殲滅して!」
砲撃が始まっても、敵は機雷で動く事が出来ない。恐怖で乱れた電磁バリアは易々と破られ、餓霊はどんどん撃破されていく。
その隙をつき、鶴の指示するルートで島影を抜けると、旗艦みしまは機雷の海を抜け出していた。
「海底の岩の関係で、この部分だけは潮が分かれるのさ。だから当然機雷は無い。敵はそんな事知らないから、動けなくてびびってたけどね」
「凄い、凄いわあなた達!」
雪菜は感激してコマを抱きしめ、コマは悲鳴を上げて降参サインを繰り返す。
そんなコマをよそに、鶴は見よう見まねでモニターをいじっていた。
「ええと、黒鷹はどこかしら」
だが画面が切り替わると、映し出されたのは誠の機体の窮状である。
鶴は思わず声を上げる。
「た、大変!」
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