上 下
99 / 117
第一章その7 ~あなたに逢えて良かった!~ 鶴の恩返し編

おじさんの話術。大人の誇り

しおりを挟む
 旗艦は混乱の極みに達していた。

 備えの殆どは餓霊に抗するために作られており、空を飛んで人が攻めて来る事を想定していなかったのだ。

 選りすぐりのパイロットと、強化された機体を備える特務隊に攻められた旗艦は、既に陥落寸前だった。

 人々が立てこもれるような空間は、最早ガレオンの鎮座地付近しかなかったから、人々は隔壁を閉じて耐えていた。

 佐々木は壁にもたれながら、隣の阿波丸に語りかけた。

「狙いは当然我々でしょうな、阿波丸さん」

「恐らくは。この機に私達を葬れば、再び実権を握れると思っているのでしょ……うっ!?」

 その言葉が終わらぬうちに、隔壁に大きな衝撃が走った。頑強な壁が玩具のようにぐにゃりと歪むと、青紫の人型重機の顔が見えた。

 式典に参加予定だった子供達が、恐怖の悲鳴を上げる。

「見つけたぜ、死に損ないども……!」

 人型重機のパイロット・不是は、外部拡声器スピーカーでそう言った。

 剥ぎ取った隔壁を手荒く投げ捨て、無遠慮に踏み込んでくる。

「待て、狙いは我々だろう。今そっちへ行く!」

 そこで佐々木と阿波丸が進み出た。そのまま相手の機体の足元まで進むが、勿論投降したわけではない。

 まだ見つかっていない歩兵が携行砲の照準を合わせ、死角から狙おうとしていたからだ。

「私達が人質になろう。他の人はどうか見逃してくれ」

「はあ? 知るかよ」

 機体の拡声器で、不是が面白そうに言った。

「人質は間に合ってんだよ。今更おっさんなんざいらねえ」

「いやいや、おじさんの話術もあなどれんぞ? 退屈しないと思うがね」

 佐々木が真面目な顔で言うので、不是は更に大声で笑った。

「確かに大したもんだぜ。いや見直した。どうしたんだよ、あんなしょぼくれてたのによ」

「年甲斐も無く、夢を思い出したのでね」

 佐々木は尚も大真面目に言った。

「折角この苦難の時代に生まれたのだから、後世に残る大きな仕事を為したいと思ったんだ。あの子達の謳う喜びの歌を、信じてみようと思ったんだよ」

「そうとも。喜びの無い道に、人は付いて来てくれないぞ」

 阿波丸も佐々木の後を続けた。

「人を巻き込み惹きつけるのは、おいしいものと希望なんだ。私こと阿波丸大吉は、それを生涯追及して……」

「代議士、話が長いです」

「いや、そんな長かったか!? 今いい事言いかけたんだぞ?」

 もめる阿波丸と秘書だったが、その時巨大な剣が床を叩いた。

「ふざけるのも終わりだ! 付いてくるも来ないもねえ、細胞を植え付ければ嫌でも言う事聞くんだよ。分かったらさっさとあの世に行け!」

 不是がそこまで叫んだ瞬間、歩兵が物陰から身を乗り出した。携行砲が発射され、機体の上半身が炎に包まれた。

 ……が、しかし、燃え上がる炎が消えると、機体は全くの無傷である。機体の全身には、赤い幾何学模様のような電磁バリアが輝いていた。

「てめえらバカの考える事なんざお見通しなんだよ」

 機体の目が赤く光ると、歩兵が衝撃波に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられていた。佐々木と阿波丸も同様である。

 再び子供達が悲鳴を上げ、不是は面白そうにあざ笑う。

「ガキが、弱いからこうなるんだよ。悔しかったら強くなってみせろや」

 そうこうするうちに、その場には同型の人型重機が多数踏み込んできた。

唯剋ただかつ、あんた何遊んでるのよ」

 女の声で語りかける機体は、手にコンテナを持っている。

「っせえよマキナ、今終わる」

 不是は答えると、一同に機体の銃を向けた。

「それじゃ、ガレオンとガキは船ごと貰ってくぜ。てめえらは地獄で指をくわえて見てろや」

「…………これまでか」

 佐々木も阿波丸も、そして誰もが覚悟を決めた時。

 不意に船内に衝撃が走った。

「……何だ?」

 パイロット達は周囲を探った。

 そして再び衝撃が走る。

 不是は苛立ちながら味方に怒鳴った。

「何だ、どうしたってんだ!」

「そ、それが、あの機体が、白いのが来たようです!」

「何だって?」

 その瞬間、壁を突き破って白い人型重機が現れた。

 巻き上がる粉塵の中、誰もが一瞬目を疑った。それはあの混乱の始まりに、日本中の人々の希望になった機体。紛れも無くあの心神だったのだ。

「嘘だろ、光翼天武……!?」

「バカか、あいつは死んだだろうが!」

 青紫の機体達は、銃をもたげて一斉に射撃するが、弾丸は白い機体の眼前で、青い光にねじ伏せられたかのように消えて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

処理中です...