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第一章その6 ~急展開!~ それぞれの恋の行方編

例えうまくいかなくても1

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 ……もう何度目になるだろうか。

 計器からは、もはやお馴染みとなったビープ音が発せられる。

 モニターにはいつもの表記がつづられていた。

 UNKNOWN PATTERN CODE ; 00283

 誠は引きずるように身を起こすが、左腕の痛みに顔を顰めた。

 やがて逆鱗から声が聞こえる。

「そろそろ限界だ。一度やめた方がいい、ナルセ」

「……見てたのか、ガレオン」

「そうだ。君の生命反応は、逆鱗を通して伝わっている。弱っているのを感知して、こうして語りかけたわけだ」

 テレパシーと言えばいいのか、それとも魔法の類なのだろうか。ガレオンは逆鱗を明滅させながら言葉を続ける。

「ナルセ、君は頻繁にこういう事をしているのだな。このままでは君の命も危ないが、それでも続けるのか」

「……やめるわけにはいかないからな。あの人が居なくなったら、俺だけ生き残っても何の意味もないから」

「そうか。出来ないなら仕方が無いが……1つだけ伝えておこう。私には、どうもあの細胞が弱いような気がしてならない」

「弱い?」

 予想外の言葉に、誠は思わず問い返した。

「そうだ。あの暴走した細胞は、本来もう少し手強い生命力を持つはずだが、まるで歯ごたえ無くはじき出せてしまう。活動も合理的でないし、支離滅裂で狂っているようだ」

 ガレオンは事態を冷静に分析していた。

 祭神にも性格があるのだというが、このガレオンはかなり理知的な性質たちなのだろう。

「それと、君の体はあちこち変質しているな。環境変異の影響か、特に視細胞が独自に進化している。どうしてそれを使わないのだ」

「使えなくなったんだ。元々不相応だったのかな」

 誠は力なく呟いた。

「……そうか。いずれにしても、少し休め」

 ガレオンはそう言って沈黙したのだ。


 誠は項垂れ、しばし過去に思いを馳せる。

 実に5年以上もの間、1つの事だけを考え続けてきた。

 けれどどうやっても、答えを見つける事が出来なかった。まるで解けないパズルのように、真相は誠をあざ笑いながら遠のいていく。

 命の袋小路に迷い込んだような息苦しさを感じて、誠はたまらず首を振った。

 女神と鶴が来てくれて、人々に希望は戻った。

 でも雪菜は確実に死に近付いている。あの人を守れなければ、それこそ何の意味もないというのに。


 誠は身を起こし、室外へと歩み出る。

 体を動かせば、考えがまとまるかもしれないと思ったのだが……

「えっ……?」

 扉を開けると、そこは見慣れた格納庫ではなかった。

 いや、見慣れた光景ではあったのだが、いきなりの屋外であり、故郷の島の海辺だったのだ。

「ど、どうして、こんな……」
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