上 下
86 / 117
第一章その6 ~急展開!~ それぞれの恋の行方編

恋の勘違い。人生で一番恥ずかしい

しおりを挟む
「ああああああああっ!!!」

 あちこち壁にぶつかりながら、鶴はひたすら疾走する。階段を駆け上り、段を踏み外して転倒し、すぐに起き上がっては走り出す。

 心臓は壊れたように脈打って、お腹の上辺りが、きつく締め付けられるように息苦しい。

 何も考えたくないのに、様々な思いが頭の中を駆け巡った。

 自信たっぷりに、未来の花嫁だとか言った事。

 あたかも両思いのように振舞っていた事。

 能天気な発言が、ブーメランのように弧を描いて戻って来ると、千の弓矢となって鶴の体を射抜いていく。

 もはやこれまで、と想像の中で討ち死にした鶴だったが、現実の体はいたって無事だ。

 鶴は両手で顔を覆った。

「バカバカバカバカっ、何であんなこと言ったんだろう!」

 鶴は仮眠室に飛び込むと、ベッドにダイブして枕に顔をうずめる。

「どうしよ、どうしよ、うわあ、もう死んじゃいたい!」

 恥ずかしくて消えてしまいたかった。

 でも考えてみれば当たり前なのだ。

 過去から来た自分と違って、黒鷹はずっとこの時代を生きてきたのだ。

 それなのに、あんな自信満々な態度をとって……なんて滑稽な!




 夕闇の迫る校舎の中を、鶴はとぼとぼ歩いていた。床も壁も、そして窓も鶴の見知らぬ材質で、いつもよりずっと寒々しく見える。

 鶴はふと気が付いた。

 考えてみれば、自分はこの時代の人も、物も、何も知らない。久しぶりの現世で有頂天になっていたが、冷静になってみれば、ここは見知らぬ場所だったのだ。

「ねえ、鶴」

 不意に傍らから声がかかった。

 ゆっくりと目線を上げると、階段の手すりにコマがちょこんと座っていた。コマはやあ、と前足を上げ、気さくに声をかけてくる。

「元気ないね鶴。らしくないじゃないか」

「コマ……」

 鶴は力なく相棒の名を呼ぶ。今にも泣き出しそうな顔なのだろうが、自分でもどうする事も出来なかった。

 コマは床に降り立つと、鶴の足元に歩み寄ってくる。

「見る影もないね。あんなに楽しそうだったのに、捨てられた狛犬みたいだ」

「……」

 鶴は黙って壁際に座った。膝を抱え、顎を膝に乗せる。

 コマも側におすわりをし、2人は夕日のひなたぼっこを開始した。

「……考えてみれば、私が色恋で報われるわけないわ。弓馬に薙刀、操船に水練。女らしい手習いなんて、何も知らなかったんだから」

「確かにそうかもね。でもあの時は、そうするしかなかったじゃないか」

 鶴は手を伸ばし、コマの鬣を撫でる。己をいたわる相棒に感謝を示すように、指先で毛をとかすが、そこでふいに手を止めた。

「ねえコマ。黒鷹の昔の事、見てもいいかな?」

「えっ、それは直接本人に聞きなよ」

「駄目って言われるもん」

 鶴は悲しげに首を振った。

「黒鷹は、あたしのいない時代を生きてきたんだよね。だから他の人を好きになって当然だと思う。それは辛いけど……でも、だから見てみたいの。あの人がどんなふうに生きてきたかを。そしたら納得出来るかもしれないし」

「しょうがないなあ、今回だけだよ?」

 コマは幼子を慰めるような語調で言う。

「黒鷹とは契約してるから、魂の縁で見えるはずだよ」

 コマの言葉に頷くと、鶴は目を閉じ、己の魂の奥底へ意識を潜らせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

アレの眠る孤塔

不来方しい
キャラ文芸
男性同士の未来の話。  カプセルの中から目覚めたとき、俺は記憶を失われていた。なぜ此処にいるのか、自分の名前は何だったのか、肝心なことは頭の片隅にすらなかった。  突然現れた白衣を着た男は、住み心地の良い牢獄とも取れる部屋で生活するよう強いるが、世話を焼く姿は懸命で、よく皿を割って、涙が出るほど嬉しくて懐かしい。 ──お前は此処から出すつもりはない。  白衣の男は口癖のように繰り返す。外の世界は、一体どんな景色が広がっていて、どんな生き物たちと生存しているのだろうか。  窓のない小さな世界で、愛情を注ぎ続ける男と今日も一日を過ごす──。

【完結】神様WEB!そのネットショップには、神様が棲んでいる。

かざみはら まなか
キャラ文芸
22歳の男子大学生が主人公。 就活に疲れて、山のふもとの一軒家を買った。 その一軒家の神棚には、神様がいた。 神様が常世へ還るまでの間、男子大学生と暮らすことに。 神様をお見送りした、大学四年生の冬。 もうすぐ卒業だけど、就職先が決まらない。 就職先が決まらないなら、自分で自分を雇う! 男子大学生は、イラストを売るネットショップをオープンした。 なかなか、売れない。 やっと、一つ、売れた日。 ネットショップに、作った覚えがないアバターが出現! 「神様?」 常世が満席になっていたために、人の世に戻ってきた神様は、男子学生のネットショップの中で、住み込み店員になった。

オアシス都市に嫁ぐ姫は、絶対無敵の守護者(ガーディアン)

八島唯
キャラ文芸
 西の平原大陸に覇を唱える大帝国『大鳳皇国』。その国からはるか数千里、草原と砂漠を乗り越えようやく辿り着く小国『タルフィン王国』に『大鳳皇国』のお姫様が嫁入り!?  田舎の小国に嫁入りということで不満たっぷりな皇族の姫であるジュ=シェラン(朱菽蘭)を待っているのタルフィン国王の正体は。  架空のオアシス都市を舞台に、権謀術数愛別離苦さまざまな感情が入り交じるなか、二人の結婚の行方はどうなるのか?!

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

迷子のあやかし案内人 〜京都先斗町の猫神様〜

紫音@キャラ文芸大賞参加中!
キャラ文芸
【キャラ文芸大賞に参加中です。投票よろしくお願いします!】 やさしい神様とおいしいごはん。ほっこりご当地ファンタジー。 *あらすじ*  人には見えない『あやかし』の姿が見える女子高生・桜はある日、道端で泣いているあやかしの子どもを見つける。 「”ねこがみさま”のところへ行きたいんだ……」  どうやら迷子らしい。桜は道案内を引き受けたものの、”猫神様”の居場所はわからない。  迷いに迷った末に彼女たちが辿り着いたのは、京都先斗町の奥にある不思議なお店(?)だった。  そこにいたのは、美しい青年の姿をした猫又の神様。  彼は現世(うつしよ)に迷い込んだあやかしを幽世(かくりよ)へ送り帰す案内人である。

「キミ」が居る日々を

あの
キャラ文芸
ある日、車に轢かれそうになった瞬間、別人格と入れ替わってしまったセツ。すぐに戻ることはできたものの、そのときから別人格ハルの声が聞こえるように。 こうして主人公セツと別人格ハルの少し変わった日常が幕を開けたーー 表紙はつなさんの「君の夢を見たよ」よりお借りしています。

処理中です...