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第一章その5 ~負けないわ!~ 蠢き出す悪の陰謀編

踊らにゃ損々、徳島しょう!

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 一同は勢いもそのままに、戦闘コントロールルームへと雪崩れ込んだ。

「たのもう! そしてこんにちは!」

「うわっ!? やっぱり来た!」

 阿波丸は椅子からきりもみしてひっくり返ってしまう。

「なっ何だね君達、毎度毎度どうしたんだね」

「どうもこうもないわ、戦いに勝って盛り上がってるから、この勢いで説得しようとしてるだけよ。こういう時なら断り辛いはずだもの」

「い、いや君ね、そういう事は本人に言うものじゃないし」

「だまらっしゃい!」

 鶴は机をばんと叩く。

「じゃあ聞くわ、今回は助かったんでしょう?」

「いや、それはほんとに助かった。わしも無茶苦茶感謝はしている。しているが、しかし」

「しかしもへったくれもないわ!」

 鶴は両手で机をばんばん叩いて熱弁する。

「あなたも分かってるんでしょう? 意地を張るべきじゃないけど、雪解けのタイミングが分からないだけなんでしょう?」

「だ、だから、そういう内心をズバズバ突くのはやめてくれないかね」

「やはりそうね。でも今日は秘密兵器を用意してあるわよ。みんな!」

 鶴の合図でドアを蹴破り、神使達が乱入する。キツネにタヌキ、狛犬に猿、牛、龍。

 阿波丸は彼らの姿を一目見ると、目を見開いて固まった。

「そ、そそそっ、その格好は……!」

「そうや、阿波踊りやで!」

 阿波踊りの衣装に身を包んだ神使達が、手にした楽器を掲げると、大音量の祭り囃子がスタートした。

 それは10年の長きに渡って途絶えていた、あの名物踊りの音楽である。

「あ、あああああっ……!」

 阿波丸は体が反応しそうになるのを必死に耐えている。

 やがて阿波丸の胸に、白い光が輝き始めた。どうやら愛郷の念らしく、光には『踊りたい!』という文字が浮かんできた。

 光はどんどん大きくなり、押さえ込もうとする阿波丸の意思に反して、その輝きを増していくのだ。

「くっ、わ、わしは、ワシはこれしきで……!」

「しめしめ、かなり効いてるわ。今のうちよ!」

 鶴は好機と見てとると、誠達に向き直って叫んだ。

「さあみんなも着替えて! このまま一気に畳みかけましょう!」

 鶴が手を打ち鳴らすと、誠も鶴も、更に難波やカノン、宮島や香川まで、阿波踊りの衣装に変わった。

 そして更に室内には、呼び寄せられた佐々木達、船団議員の姿もあった。

 阿波丸は目を丸くして叫ぶ。

「こ、これは佐々木さん! それに皆さんまで!?」

「やあ阿波丸さん、あなたもやられてるようですな」

 佐々木は割りとノリがよく、きびきびと男踊りを披露しながら答えた。

「大丈夫、一度こっち側に来れば楽になりますぞ。ささ、お早く」

「い、いやいや、だからそんな勢いだけで……」

 鶴は拳を振り上げ、神使達に合図を送る。

「みんな、ボリュームアップよ! テンポも上げて、更に判断力を奪うのよ!」

 音楽は更に早く激しくなり、室内は祭囃子と、皆が足を踏み鳴らす振動でしっちゃかめっちゃかになっていく。

 更にコントロールルームのドアが開くと、阿波丸の配下の社員や秘書まで押し寄せてきた。

「そ、そんなっ、お前達まで!?」

「社長すいません、この音が聞こえてきたんで、みんな吸い寄せられちゃって」

 社員達はすまなさそうに謝ったが、鶴はこの機を逃さない。

 苦しむ阿波丸の前に仁王立ちし、トドメの言葉を投げかけた。

「よく見て、みんなこんなに踊りたがっているのよ。同盟で早く平和を取り戻して、みんなのお祭りを復活させましょう。さあ、これだけ言い訳を用意してあげたんだから、後はさっさと屈しなさい」

「そうや! 屈しろ!」

「モウその時なのです!」

「それがウキ世の定めですぜ!」

 神使達が叫ぶと、ちゃっかり社員達も後に続いた。

「社長! ご決断を!」

「代議士、観念して下さい」

 幾多の声援が阿波丸の心を叩き、運足が熱いビートとなって、建物全体を揺らし始めた。

 阿波丸の愛郷の光はどんどん大きくなっていく。

「む、むむむむむっ……!」

 彼は必死の表情で耐えていたが、やがて光ははじけたのだ。

「うわ、光が!?」

 誠達はまぶしさで目をそらすも、阿波丸の人影は弾けるようにジャンプした。

 床を蹴り、天井や左右の壁をピンボールのように跳ね回った挙句、机の上に着地。

 そのままフィギュアスケーターのように高速回転し、足元から煙を立てながら止まった。

 阿波丸は目を見開き、一同を一喝した。

「なっとらん! そんなやり方では、全然なっとらんのだ!!」

 一瞬静まり返ったのだが、次の瞬間。

「男踊りは、こうだ!!!」

 阿波丸の動きに残像が見え、無数の腕が千手観音のようだ。

 衣服は一分の隙もない祭り装束へと変わっている。

「さすが社長、動きのキレが違う!」

 どよめく皆をよそに、鶴が嬉しそうに叫んだ。

「やっぱり体は正直ね、これで同盟成立よ! 折角楽しいから、みんなでこの辺を練り歩きましょう!」

 一同は踊りながら室外へ飛び出していく。

 これは何事だ、とあちこちから人々が顔を出したが、そこは土地柄。

 踊りは人から人と感染し、危険な感染爆発パンデミックが避難区中に広がったのだ。

 練り歩く人々の行列は、巨大な龍のようにどこまでも続き、渦巻く熱気は鳴門の大渦がごとくみんなの魂を揺さぶった。

 阿波丸は夢心地のように叫んでいた。

「無茶苦茶だ! 無茶苦茶だが、こうなったら踊らにゃ損だ!」

「そうよ、どうせなら得しましょう!」

 こうして第5船団は、ようやく1つにまとまったのだ。

 踊らにゃ損々、徳島しょう、という言葉が爆誕した瞬間であった。

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