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第一章その5 ~負けないわ!~ 蠢き出す悪の陰謀編

鳴門地区防衛戦8

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「黒鷹、戻ったわ!」

「今だ、全機起動!」

 誠達が機体の身を起こすと、被せていた土砂が吹き飛んだ。

 機体を穴に隠した後、鶴の霊気で岩を操作し、頑丈なカバーを作っていたのである。

 あの少年が格納庫を襲った時、鶴がコンクリートを手の形に変えたから、これも出来ると信じていた。

 さらに霊力でその上に木を生やせば、完全にカモフラージュ出来る。魔法で植物を成長させられる事も、稲作の時に知っていた。


 一同は山肌を全速力で駆け抜けていく。

「ほとんどの敵を龍穴から引き離したわ! ここが勝負よ!」

 鶴の言葉通り、はじめから逃げるつもりは毛頭ない。逃げ回るふりをして、敵軍の大部分を龍穴から離れた位置に誘導したのだ。

 誠は機体を大きくジャンプさせ、峰から峰へと飛び移る。

 空中で銃を構えると、立て続けに弾丸を発射。両脇からコマに迫る敵に、ことごとく命中させていた。

 嘘だろとか、何で当たるの、とか漏らす特務隊の面々をよそに、誠達は敵本陣を見下ろす位置まで辿り着いた。

 山あいが赤く照らされたその場所は、あたかもカルデラ火口のようだ。

 中央に巨大な柱……いや、くさびのようなものが打ち込まれ、そこから周囲に光が噴き出している。

 その光の中から、少しずつ、新たな餓霊が生み出されていくのだ。

「今よ、みんな駆け下りて! 止まったらおしまいよ!」

 鶴とコマが先陣を切り、誠達もそれに続いた。

「いよっしゃあ、この宮島様が決めてやるぜっ! 鯉のぼりならぬ滝下りだ!」

「宮島、手柄に焦らないで! ケガしたら手術するわよ!」

「ひえ~、この斜面を降りるんかいな。いわゆる1つの六甲おろしや」

「こりゃあ、降りるというより落ちるだな。南無三!」

 隊員達が躊躇無く駆け下り、小牧隊も遅ればせながら続いたようだ。

「あ、あんた達ってさあ!」

 画面上で、小牧が引きつった顔で言う。

「いっつもこんな無茶やってるわけ!?」

「無茶だけど、無理じゃないだろ!」

 誠は答え、機体を更に加速させた。待ち受ける敵を立て続けに撃ち抜き、切り伏せ、ひたすら前に進んで行く。

「むううっ、負けないよーっ!」

 突進して来る大型の敵に、小牧隊で1番大きい機体が体当たりして吹っ飛ばした。敵は多数の仲間を巻き添えにして転がり、これで大きく進路が開けた。

 その機体に迫る敵を、両手に剣を持った小柄な機体が切り伏せ、更に彼に迫る相手を、長い槍を持った小牧機が薙ぎ払った。

「いい連携だ! やるな!」

 誠は感心するが、しかし流石は敵の本陣だ。備えの餓霊も強力であり、突入速度は次第に鈍った。

 このままではまずい……このままならばだ。

「今だ! 車両班、全力射撃!」

 誠の合図で、彼方で爆音が響き渡った。

 車両が搭載する属性添加砲から、電磁過負荷オーバーロード上等でぶっぱなした無数の砲弾は、青い光を帯びて殺到して来る。

「ヒメ子、頼む!」

「任せて!」

 鶴が目を閉じて手を合わせると、頭上に迫る砲弾は、軌道を変えて大きく旋回する。

 次の瞬間、孤を描いた砲弾が、敵本陣に流星のように降り注いでいた。

「ひええっ、当たるよお!」

「大丈夫、言っただろ! ヒメ子が操ってるから当たらない!」

 誠は小牧班にそう叫ぶ。叫びながら、自分を納得させるように念じた。

(セオリー通りに砲撃してから突入すれば、敵に立て直す時間がある……! この数の差でそれは命取りだ……けど、)

 目の前に降り注ぐ砲弾を当たらぬと信じ、誠は迷わず機体を加速させた。

(今ここに降り注いでる砲撃にっ、立て直しなんか出来るもんか!!!」

 最後は無意識に叫んでいたと思う。

 砲撃で舞い上がった土砂がモニターを叩くが、土煙を抜けたその先は、龍穴のかなめたる巨大な楔が目の前だ。

「黒鷹、行くわよ!!」

 鶴とコマが誠の操縦席に現れて着地した。

 鶴はそのまま目を閉じると、胸の前で手を叩き合わせる。

 その瞬間、誠の機体の持つ刀に、激しい稲光が走った。

 誠は機体を大きく跳躍させる。

「鳴っち、いったりや!」

「ケガしたら許さないわよ!」

 隊員達の声をよそに、機体の属性添加機を操作。全力の慣性制御で機体を急降下させる。

「おおおおおおおおおおっ!!!!!!」

 雄叫びと共に刃を振り下ろすと、巨大な楔は、一気に根元まで両断されていた。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 音にならない音、言葉にならない無数の悲鳴が耳を叩くような感覚で、右も左も分からなくなった。機体が滅茶苦茶に振り回されているのだ。

「うおおおっ、何か当たった、これ掴んじまえ!」

「おい宮島、そりゃ俺の機体の頭だ!」

 隊員達が口々に叫んでいる。

 やがて荒れ狂う光の渦が薄れた時。赤く禍々しい龍穴はその姿を消していた。

 餓霊どもの軍勢は、どろどろと力なく崩れ落ちていく。

 そして難波が口を開いた。

「……や、やったんか……?」

「ちょっとこのみ、それはやってないフラグよね?」

「ええやんカノっち、1回言うてみたかったんや♪」

 難波のおふざけを皮切りに、皆が一気に歓声を上げていた。

「うおっしゃあああっ、さすがは俺様達だぜ!」

「いいから宮島っ、いつまで俺の機体の頭にしがみついてるんだよ」

 もちろん小牧班も浮かれていた。巨大な機体が小柄な機体を掴み、嬉しそうに振り回している。

「うふふふ、やった、やったねえ!」

「分かった、分かったからこころぉっ、放せっ、いや、手ぇはなすなっ!!! のわああああっっっ!!?」

 巨大な人型重機が手を離すと、小柄な機体は山の向こうへすっ飛んで行く。激しく回転しているため、属性添加機の姿勢制御もままならない。

 こころは少し気まずそうに呟く。

「玄太とんでっちゃった……後で謝っとくね」

「ちょっと玄太っ、まだ死ぬんじゃないよ! こころも手伝って!」

 特務隊とは思えぬ、随分賑やかな連中である。

 誠は安堵して、それから後ろの鶴とコマを見る。余程疲れ果てたのか、2人はいつの間にか眠っていた。

「……サンキュー、ほんとお疲れ様」

 誠は起こさないように2人に感謝し、それから通信回線を開いて、味方に勝利を伝達したのだ。
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