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第一章その5 ~負けないわ!~ 蠢き出す悪の陰謀編

鳴門地区防衛戦4

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 大方の予想通り、敵の第一波は途中のインターで高速道路を降り、陣形を整えてから近付いて来た。それを味方の砲撃部隊が迎撃していく。

 誠達の元にもリアルタイムで情報が表示されているが、これも今まででは考えられない事である。

 かつては餓霊の軍勢が多く、沿岸近くにまで通信妨害ジャミングの霧が漂っていた。そのため敵の動きは直前まで分からなかったし、各部隊でぶっつけ本番、バラバラな対処をするのが普通だった。

 だが今は、沿岸の餓霊は残らず追い払われている。そのため霧が薄くなり、司令部からの通信もある程度届く。結果として各部隊で連携を取り合い、効率的な戦力運用が可能だった。

 誠達が駆け巡っていた今までの戦いは、正直言ってサーカスの綱渡りのようなもの。全ての部隊が同じ事を出来るわけがなく、本来はこのような戦い方が理想なのだろう。

「砲撃部隊による迎撃成功。撃ちもらした餓霊を重機部隊が対処します」

 砲撃を生き延びた餓霊を、待ち構えていた人型重機部隊が迎撃していく。砲撃でかなりのダメージを与えていたため、これも簡単に倒せてしまう。

「第一波を撃破しました」

 本部からの報告に、どっと自陣から歓声が上がった。

「……今のところ順調みたいね」

 押し黙る一同を代表して、モニターでカノンが呟いた。

 遅れて香川の顔も画面に映る。

「そりゃジャミングが無ければレーダーも効くし、当然と言えば当然かも知れんが……」

 香川が言うと、宮島がその後を続けた。

「まあ数も揃ってるからなあ、別にこうなってもおかしかねえけど……」

「……なんとなく気に食わん言うわけや。そやろ?」

 宮島の後を難波が受けて、一同はモニター上で頷いている。

 勿論、誠も同じ思いだった。

「一番謎なのは、餓霊の攻め方が前と同じって事だな。今は敵が内陸深く追い込まれて、海辺の霧が以前より薄い。近付けば丸見えなのに、前みたく正面切って攻めて来てる。これじゃ的になるようなもんだ」

「せやろ鳴っち、うちもそれを言いたかったんや」

 難波は調子よく同意したが、事態は急変しつつあった。

 無数の巨体が地響きを上げて迫っているのが感じられたのだ。

「なるほどなあ、今までは小手調べって事やな。銃座の位置も分かったし、次は当然、強行突破の総力戦になるわけや」

 やがて中継車から、やや乱れがちの通信が届いた。

「前方に突撃型の餓霊が多数! 自陣に迫っています」

 敵は強力な餓霊を前面に据え、こちらの砲撃部隊を攻略しようと試みたのだ。

 砲撃部隊は火力を集中して押し返そうとするが、強固なバリアがその砲撃を弾いていた。

「陣を踏み破られたら総崩れになるわ。黒鷹、左から加勢するわよ」

 鶴は光に包まれると、操縦席から姿を消した。そのまま外に現れると、巨大化したコマの背に降り立つ。

 誠は前線の指揮官に連絡を取った。

「こちら鳴瀬隊、我々が敵の左翼から攻撃して掻き回します! 左翼の砲撃管制お願いします!」

「りょ、了解した。よろしく頼む」

 味方は戸惑いながらも承諾してくれた。

 誠達は大きく左から迂回すると、敵の突撃部隊の側面に突進する。

 そのまま鶴の火球が炸裂し、敵陣が怯んだところで、誠達が射撃して手早く仕留めていく。しかし今回は、いささか敵の数が多すぎるのだ。

「ヒメ子、攻撃もっと弱くていいから、拡散できないか」

「拡散?」

 鶴の顔が画面上に映った。霊力で通信回線に割り込んでいるのだ。

「倒さなくていい、防御力を下げるだけなら、もっと広く出来ないかな」

「やってみるわ」

 鶴が念じると、上空に黒い雲が集まってきた。雲は青い光を帯びて、敵軍に無数の雷を降らせたのだ。

 餓霊どもはのけぞり、もがき、赤い電磁バリアが弱々しく明滅している。

 試しに射撃してみると、弱った防御を簡単に貫通し、複数の餓霊を一度に撃ち抜けた。

 誠は取り急ぎ味方に伝達する。

「雷撃で敵軍の防御が弱まりました! 射撃が十分通用します!」

「りょ、了解!」

 友軍は一気に攻勢に出た。

 最早防御力に優れた突撃型餓霊の利点は消え、単なる巨体の的に過ぎない。

 司令部はここが勝負所と見たのか、後退する敵部隊に追撃を仕掛けるようだ。

 敵軍は蜘蛛の子を散らすように、陸の奥と逃げ帰って行く。
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