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第一章その5 ~負けないわ!~ 蠢き出す悪の陰謀編
現れた大地の穴
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その報せは、稲妻のように第5船団を駆け巡った。旧徳島県西部の山あいに、突如敵の大部隊が発見されたのだ。
密集した敵が発生させる色濃い霧は、超高空から観測すると、あたかも台風の渦のようであった。
既に本拠地と化した天守閣には、女神や鶴や鳳、そして誠達人型重機部隊が集まり、持ち込まれた巨大スクリーンに見入っていた。
女神・岩凪姫は、頬杖をついたまま画面を見据える。
「予想通り、中央構造線に近い場所だな。恐らく敵の龍穴がある」
「龍穴?」
聞き慣れぬ言葉に、誠は問い返した。
「大地の気が噴き出す所だ。餓霊が生まれる魔力の穴と思えばいい。ここを潰す……というより清めて封印すれば、敵軍は大幅に弱体化するだろう」
女神はそこで傍らの鶴を見る。
「鶴、まだ距離は遠いが、大まかな敵の布陣は見えるか」
「やってみるわ」
鶴が半透明の地図を映すと、巨大な赤い円が確認できた。
そこから赤い点が次々生まれ、餓霊の群れが湧き出ているようだが、敵軍はやや東方にその戦力を傾けているようだ。
「全体的に隙がないが、やはり東の備えが厚いな。当然ながら、敵が最も嫌がるのは、すぐ東の徳島自治区の存在だ。讃岐平野の防衛線が先に狙われたのも、恐らく同じ理由であろう」
鳳が女神の後を続ける。
「代行様のおっしゃる通りですね。問題はこれに対して、船団内の他の勢力がどう出るかです。現在、佐々木氏やその一派を交え、話し合っているようですが……」
その時、モニターに佐々木の姿が映り、鳳は少し驚いた様子で尋ねる。
「これは佐々木殿、会議中ではないのですか?」
「それが鳳さん、存外に早く終わりましてな。全てとんとん拍子です。徳島の阿波丸氏とも共同して、敵勢力に対抗する事に決まりました」
佐々木の言葉に、鶴は目を丸くして感心している。
「まあ、あの意地っ張りのおじさんにしては素直ね」
「きっとご飯がおいしかったんだよ」
鶴とコマが囁き合っているが、女神は気にせず佐々木に言う。
「それで佐々木よ、蛭間一派はどうした?」
「それが、蛭間達は相変わらず欠席しておりまして。ただ先ほど連絡があり、本部戦力の一部と、特務隊からも数名を派遣するとの事です」
「特務隊も?」
誠は驚いて声を上げた。
「なんでそんな、急に協力的になったんですか」
「さてな。だがこれを否定すれば、こちらの立場がおかしくなる。今は受け入れるしかあるまい」
女神は顎に手を当てて言った。
「取り急ぎ第5船団としましては、対抗戦力を徳島自治区に移し、防衛線を形成します」
「分かった佐々木、ご苦労だった。鶴、お前達も行ってやりなさい」
「任せといて。ここが大勝負だし、いつも通り頑張るわ!」
いつもは遊んでるじゃないか、とツッコミを入れるコマをよそに、誠が尋ねる。
「龍穴のおかげで、今度の敵、凄い頭数ですよね。いつもなら敵の少ない西側から攻めるんでしょうけど、手薄と言っても凄い数だ。味方部隊の援護があっても、突破できると思えないんですが」
「……そうだな、無茶をすれば、その間に徳島の自治区がやられるだろう。差し当たってお前達も、味方の陣に加わって避難区を守れ。龍穴のエネルギーも限りがあるし、短期間で一気に餓霊を生み出し過ぎれば、後で必ずしっぺ返しが来る。守り抜けば、反撃のチャンスはあるはずだ」
女神はそこで少し強い語気で告げた。
「皆、今回は味方も油断がならぬぞ。十分に警戒するのだ」
「了解しました!」
誠達も答え、一同は戦いの準備に取り掛かった。
密集した敵が発生させる色濃い霧は、超高空から観測すると、あたかも台風の渦のようであった。
既に本拠地と化した天守閣には、女神や鶴や鳳、そして誠達人型重機部隊が集まり、持ち込まれた巨大スクリーンに見入っていた。
女神・岩凪姫は、頬杖をついたまま画面を見据える。
「予想通り、中央構造線に近い場所だな。恐らく敵の龍穴がある」
「龍穴?」
聞き慣れぬ言葉に、誠は問い返した。
「大地の気が噴き出す所だ。餓霊が生まれる魔力の穴と思えばいい。ここを潰す……というより清めて封印すれば、敵軍は大幅に弱体化するだろう」
女神はそこで傍らの鶴を見る。
「鶴、まだ距離は遠いが、大まかな敵の布陣は見えるか」
「やってみるわ」
鶴が半透明の地図を映すと、巨大な赤い円が確認できた。
そこから赤い点が次々生まれ、餓霊の群れが湧き出ているようだが、敵軍はやや東方にその戦力を傾けているようだ。
「全体的に隙がないが、やはり東の備えが厚いな。当然ながら、敵が最も嫌がるのは、すぐ東の徳島自治区の存在だ。讃岐平野の防衛線が先に狙われたのも、恐らく同じ理由であろう」
鳳が女神の後を続ける。
「代行様のおっしゃる通りですね。問題はこれに対して、船団内の他の勢力がどう出るかです。現在、佐々木氏やその一派を交え、話し合っているようですが……」
その時、モニターに佐々木の姿が映り、鳳は少し驚いた様子で尋ねる。
「これは佐々木殿、会議中ではないのですか?」
「それが鳳さん、存外に早く終わりましてな。全てとんとん拍子です。徳島の阿波丸氏とも共同して、敵勢力に対抗する事に決まりました」
佐々木の言葉に、鶴は目を丸くして感心している。
「まあ、あの意地っ張りのおじさんにしては素直ね」
「きっとご飯がおいしかったんだよ」
鶴とコマが囁き合っているが、女神は気にせず佐々木に言う。
「それで佐々木よ、蛭間一派はどうした?」
「それが、蛭間達は相変わらず欠席しておりまして。ただ先ほど連絡があり、本部戦力の一部と、特務隊からも数名を派遣するとの事です」
「特務隊も?」
誠は驚いて声を上げた。
「なんでそんな、急に協力的になったんですか」
「さてな。だがこれを否定すれば、こちらの立場がおかしくなる。今は受け入れるしかあるまい」
女神は顎に手を当てて言った。
「取り急ぎ第5船団としましては、対抗戦力を徳島自治区に移し、防衛線を形成します」
「分かった佐々木、ご苦労だった。鶴、お前達も行ってやりなさい」
「任せといて。ここが大勝負だし、いつも通り頑張るわ!」
いつもは遊んでるじゃないか、とツッコミを入れるコマをよそに、誠が尋ねる。
「龍穴のおかげで、今度の敵、凄い頭数ですよね。いつもなら敵の少ない西側から攻めるんでしょうけど、手薄と言っても凄い数だ。味方部隊の援護があっても、突破できると思えないんですが」
「……そうだな、無茶をすれば、その間に徳島の自治区がやられるだろう。差し当たってお前達も、味方の陣に加わって避難区を守れ。龍穴のエネルギーも限りがあるし、短期間で一気に餓霊を生み出し過ぎれば、後で必ずしっぺ返しが来る。守り抜けば、反撃のチャンスはあるはずだ」
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「了解しました!」
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