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第一章その4 ~さあ復活だ~ 懐かしきふるさとの味編
イチリュウの調査員達
しおりを挟む誠達が資料と格闘していたその頃。
別行動中の猿と龍は、旗艦でパトロールを続けていた。
女神・岩凪姫の感じた気配の主が隠れていないか、くまなく調べていたのである。
猿は編み笠を手でもたげ、周囲を見回して呟く。
「やっぱりおかしいんでさ。この辺りの通路で、邪気が消えておりやすよ」
「こんな船のド真ん中で消えるなんて事があるかよ」
龍はダンベルを上げ下げしながら答えるが、その時、視界の片隅に少女の姿を見て取った。
白衣に眼鏡のその女の子は、龍達を目にして混乱しているのか、通路の壁際に座り込んでいる。
龍はダンベルを持ち上げながら、のしのしと大股で歩み寄る。
「ひっ、こっちに来た!?」
「驚かせたな、メガネの嬢ちゃん。弱々しいぞ、ちゃんと鍛えてるか?」
「い、いえ、鍛えてません……」
少女はふるふる首を振った。
「そうか、なら伸び代があるぞ。ちゃんとプロテインも飲め。これとこれを、トレーニングの後にスプーン1杯ずつだ」
「あ、ありがとうございます……??」
白衣の少女はプロテインを胸に抱き、恐る恐る礼を言う。
「そ、それにしても、最近は動物も喋るんですね。コマちゃんみたい」
「なんだお前、コマの知り合いか!!」
「ひえっ、すすすみませんっ!」
龍の声がいちいち大きいので、少女は壁に背を預けて震えている。
猿が見かねて割って入った。
「ああ、いけませんぜ辰之助さん、素人さんを脅かしちゃあ。お嬢さん、世の中は危ない事も沢山ござんす。今日の事は見ざる聞かざる、喋る動物を見ても気にせざる、でお行きなさいな」
「ウキ松、お前は日吉神社様の神使だろう。なんで東照宮様の三猿に倣って喋るんだよ」
「その方が素人さんにゃ分かりやすいんでさあ……ぬぬっ!?」
そこで猿はきらりと目を光らせると、少女に向かって跳躍した。
「ひ、ひええええっ!?」
怯える少女にも構わず、猿は彼女の足元に刀を突き刺す。
すると床に蛇のような模様が無数に浮かび上がった。蛇はのたうちながら燃え上がり、やがて薄れて消えていったのだ。
「……巧妙に隠してありやしたね。こんなところに転移の門があったとは……ウキ世は恐ろしい所でござんす」
「普段から使ってたみたいだな。魔力が出来るだけ漏れんように作ってあるぞ」
龍は腰に手を当てて頷いた。いつの間にかダンベルを尻尾に持ち替え、尻尾を鍛えているようだ。
「次に使ったら分かるように、罠を仕掛けておくか」
「バレたんだから、使わないと思いやすよ。まずは神様や姫様にご報告でさあ。その後はぐるっとこの船を洗い直しましょう」
「よし嬢ちゃん、邪魔したな。頑張って筋肉リュウリュウになれよ」
猿と龍はそれだけ言うと、スタスタ歩き去って行った。
「……い、行っちゃった……」
少女はずり落ちるメガネを直しながら呟く。
相当にショッキングな出来事のはずなのだが、なぜだか笑みを浮かべている。
「良かった。姫様って事は……あの子、元気でやってるんですね」
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